弁理士に英語力は必要か?その理由と必要なレベルを業務とともに解説

「弁理士になるのに英語力は必要ですか」
筆者もしばしば受ける質問です。

「そんなに高度な英語力は必要ないですよ、TOEIC800点以上で~す!」などと答えられたらどんなに楽でしょうか。

ですがそこは弁理士。
一般のビジネスマンとは事情が少し異なります。

英語力と言っても、弁理士の使う英語は一般的なビジネス英語とは異なる側面があるからです。
どの様な業務を行うかによっても変わってくるでしょう。

そこでこの記事では、弁理士に英語力が必要な理由とそのレベル・内容を解説していきます。

この記事の執筆者について

略歴:特許事務所→公認会計士・監査法人→特許業界復帰→弁理士→独立(特許事務所・会計事務所経営)

特許事務所を営む父親の長男に生まれる。
その関係もあって学生の頃から特許業務に従事。
ところがある日、急にビジネスの広い世界を知りたくなり、会計士業界に飛び込む。
父親の健康事情及び自身の適性を考慮して特許業界に復帰、その後、事務所を承継。

目次

弁理士に英語力が必要な理由とメリット

まず先に「弁理士に英語力は必要か?」の問いに簡単にお答えしておきます。

弁理士には英語力があることが望まれるが、絶対に必要というわけではない

ということは、結構、英語力って必要なんじゃないの?って話になってきますよね。

なので、そのあたりを中心に以下、解説していきます。

弁理士に英語力が必要な理由

日本企業が外国で出願する(内外)

国内のクライアントが外国に出願する場合は、現地の海外代理人を通す関係上、その現地代理人に対し英文明細書を送ります。

この英文明細書についてですが、通常は、翻訳専門の担当者(または翻訳会社)に翻訳してもらい、弁理士がチェックします(チェック事項は誤訳誤字から技術事項まで及ぶ)。

また、現地代理人を通じて拒絶理由通知(Office Action)が引用文献とともに送られてきます。
それらに関する現地代理人の見解等が添えられていることもあるかもしれません。

これらの書類は英語で書かれていますので、これらを読解のうえクライアントに報告するとともに、今度は現地の代理人に英語で指示をしていく必要があります。

つまり、弁理士には英語力として読み書き能力が求められてくるのです。

なお、内外では明細書を英訳したり、OA対応(外国中間対応)が大変だったりと、外内に比べ負担がやや大きくなりますが、収益的には十分報われると言えます。

外国企業が日本国で出願する(外内)

この場合は、英語で書かれた明細書や指示書が海外から送られてきますので、これらを読解したり日本語に翻訳したりしなくてはなりません。

また、(日本国特許庁が発した)拒絶理由通知等について英語で先方に連絡して、その先方の指示を仰ぎます。
要するに、ここでは私たちは先の内外の海外代理人に相当するわけです。

結局、英語での読み書き能力が必要になる点では内外と同じです。

外国出願業務と小規模事務所:
内外については、大企業ばかりでなく中小企業のクライアントでも外国出願したいと言ってくることは普通にあります。
したがって個人事務所でも英語力はある程度あってしかるべきと言えるでしょう(でないとせっかくのビジネスチャンスを逃してしまいます)。
一方、外内については、欧米系企業はどちらかというと大規模事務所に集中するように見受けられます。
小規模事務所が外内に携わるのであれば、今後はアジア圏の企業が狙い目と思われます。

英語力が備わっていることのメリット

  • 外内、内外は内内に比べ報酬単価が高く、高収入につながる
  • コスパも内内に比べてよい
  • 外国出願は今後も伸びる
  • 業務の幅が広がる(国内マーケットに縛られない)

内内の報酬単価が下落傾向にあるのに対して、外国関連業務は報酬単価が高いと言えます。
つまり英語力があれば高収入に直結するということです。

また、内外は翻訳されたもののチェックが中心ですし、外内は読解や日本語への翻訳が主な業務です。
内内よりはるかに労力が少なくて済むので、コスパも良いと言えるでしょう。

しかも、停滞気味の国内市場とは異なり、PCT出願をはじめ外国業務は増加傾向にあります。
英語力が加わることで、弁理士としての業務の幅やその可能性を広げることができます。

弁理士に必要な英語力とは

弁理士に求められる英語力のレベル・内容

社会一般ではビジネス英会話などの、いわゆる実用英語が求められますし、スクールなどでもTOEICの勉強が盛んです。

同様に弁理士についても、TOEIC700点レベルや英検準1級以上が望まれる、などと言われたりします。

転職エージェント、リーガルジョブボードなどの求人検索で調べるとわかりますが、
実際に多くの事務所で英語力(例えばTOEIC750など)を求めています。

ですが、弁理士に要求される英語力とは、一般企業で求められているものとは少し異なります。

特許の明細書等で使われる英語は、一般的なビジネス英語とは異なりますし、専門用語や言い回しも特有なものが少なくありません。

また、使う英語の技能ですが、英会話(もちろんできた方がよい)よりもむしろ、リーディングやライティング技能が求められるのです。

例えば、各種翻訳はもちろん、外国中間対応や海外代理人との応答・指示は、基本的に書面やメールでなされます。

もちろん緊急時などでは電話で(四苦八苦しながら?)やり取りすることもありますが、
書面を見ながら確認するので、読み書きができれば大体何とかなってしまいます。

言い換えれば、英語で討論したり、交渉や商談をする場面は通常ありません。

以下で特許翻訳の参考書について一般に評価の高いものを紹介しておきます。
雰囲気だけでもつかめると思います。

外国出願のための特許翻訳英文作成教本(丸善出版) 


特許翻訳の基礎と応用 高品質の英文明細書にするために(講談社)

英文明細書に悪戦苦闘していた学生時代<コラム>:
筆者が初めて英文明細書に触れたのは大学1年の時でした。
事務所経営をしている父から、定期的に課題として英文明細書(もちろん練習用)を渡され訳すよう言われたのでした。
他人に優しく身内に厳しい父から「まぁいいだろう」の言葉がでたときは嬉しかったのを覚えています。
と同時に、長い間、無意味だと思っていた受験英語が大いに力を発揮してくれました。
学生の頃しっかり勉強していなかったら、と思うとゾッとします。

英語の基礎力が何よりも大切!

弁理士の英語でまず大切なのは、英文法の基礎、英文読解力、英作文能力です。

上のコラムでも述べた通り、大学受験の勉強が大いに威力を発揮するのです。

専門用語や特有の言い回しなどは、極めてテクニカル的な要素が強く、大体パターンが決まっています。
実務を1年もやれば自然と身についてくるでしょう(明細書が書けるようになることの方がよっぽど難しい)。

海外代理人とのやり取りも、これまた型が決まっており、難しいものではありません。

特に事務連絡については、パターン化された定型表現や定型文を事前に用意しておけば概ねOKです(いわゆるテンプレというやつを使っていきます)。
ひな形については自分で作成しても良いし、調べれば参考文例がいくらでも見つかるはずです。

要するに英文法等の基礎がしっかりしていれば、多くの英語絡みの実務はこなせるようになっていきます。

また、ある程度英語の基礎力ができている場合は、TOEIC800点以上を目指してみるのもよいでしょう。

確かにTOEICの英語と弁理士実務の英語には乖離がありますが、事務所への転職の際にはアピール材料になることは間違いありません(特に文系出身の方)。

なお、本格的に英語の勉強したい方には、ビジネスマンや専門職向けの英会話スクールがオススメです。
相当ハードなトレーニングとなりますし、コストもそれなりにかかりますが、プロの指導やサポートを受けられます。

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TORAIZ(トライズ)は専門職や管理職の方々に広くご利用されている、コーチングスタイルの英会話スクールです。

英語力に不安な弁理士はどうしたらよいのか

  • 弁理士の基本業務は内内業務
  • 翻訳担当者等の英語ができるスタッフを活用する
  • 特許事務所に強い転職エージェントを活用する
  • 今から勉強すればよい

英語力の必要性やメリットを述べてきましたが、実は、それほど過度に強調されるものでもありません。

そもそも弁理士の基本業務は、日本国における国内クライアントについての出願代理です。
しかも、そこが専門家として求められる最も難しい業務でもあります。

英語ができれば、確かに業務の幅が広がり収入アップにもつながりますが、絶対不可欠というわけではありません。

また、もし英語力に不安があるのなら、外国担当のスタッフなり翻訳担当者を活用していけばよいのです(大手事務所では通常、その辺の業務のすみ分けがされている)。

そしてもう一つ。
忘れてはいけないのが転職エージェントです。

仮に全く英語が無理でも英語力を必須としない事務所や求人は必ずあるものです。

筆者も多くの弁理士や事務所を見てきましたが、英語ができないため(苦手なため)廃業したという話は聞いたことがありません

なので事務所への転職を考えている人で英語に不安のある方は、エージェントの活用をぜひ検討してみてください。

あなたの英語力や今後の方向性も踏まえながら、あなたに合った提案やアドバイスをしてくれます。

オススメのエージェントは、弁理士・特許技術者の転職に強いリーガルジョブボードです。
特許事務所の転職エージェントと言えば、実質ここ一択と言えます。

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なお、現時点で英語力に自信がなくても、やる気がある人は今から勉強していけばよいと思います。

その場合、注意すべきはできるだけ大学受験用の(高校生向けの)参考書に戻ること。
社会人向けの参考書では、語彙の意味と日本語訳しか載っていなかったりします。

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まとめ

弁理士の英語の必要性について解説してきました。

実際にザっと周囲を見渡してみても、読み書きが得意な先生は多いが、会話はそうとは限らない、というのが実情だと思います。

なので、文法を中心にしっかりとした基礎があれば取り敢えずはOKです。
ということは、今から勉強すればOKということです。
さらに言えば、できなくてもOK

つまり、最初に述べた通り、英語に関しては心配無用というのが結論です。

でも人間、金銭面を含め更なる高みを目指したくなるもの。
その助けの一つとなるのが英語力です。

ですので皆様も是非英語に関心を持っていただき、ご自身の可能性を広げてみてください。

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