弁理士の年収の現実とその増やし方を徹底解説!確定申告書も公開

高級上着の内ポケットから財布を取り出す男性

弁理士の年収は一般的には700万などと言われています。

平均的なサラリーマンを上回るものの、(専門性や試験の難易度から見ると)それほど高収入には思えない人もいるでしょう。

確かに昔と違い、年収1千万円に届くのが容易ではなくなってきています。

ただし、実情はいろいろと複雑です。
例えば

  • 年収には実務能力以外にも、マネージメント能力が反映される
  • 特許事務所勤務では成果主義を採用しているところが多い
  • 企業での年収は勤務先の給与テーブルがベースとなる

といった具合です。

つまり、単純に「弁理士は儲かる、儲からない」の一言で片づけるには無理がありますし、
なにより各人の努力や実績にって年収は大きく変わってきます。

そこでこの記事では、弁理士の年収の現実と、その増やし方について徹底解説していきます(今回は特別に確定申告書・決算書も公開します!

この記事の執筆者

主な経歴:特許事務所→公認会計士・監査法人→特許業界復帰→弁理士→独立(特許事務所・会計事務所経営)

特許事務所を営む父親の長男に生まれる。その関係もあって学生の頃から特許業務に従事。
ところがある日、急にビジネスの広い世界を知りたくなり、会計士業界に飛び込む。
父親の健康事情及び自身の適性を考慮して特許業界に復帰、その後、事務所を承継。
税理士としても特許事務所の税務、弁理士の確定申告を多数経験。
資格:弁理士・公認会計士・税理士

目次

弁理士の年収、現実はどうなの?~筆者の正直な感想~

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年収実態は700万~800万円

詳細を解説する前に、弁理士の年収概要について筆者の経験も踏まえて雑感を述べておきます。

令和4年賃金構造基本統計調査によると「法務従事者」の平均年収は971万円とのことでした(平均年齢47.2歳、勤続年数11.0年)。

ただしこの「法務従事者」には他の有資格者等が含まれており、また、筆者の感覚からしても弁理士の年収実態からやや乖離していると言えます。

自分の実感としては、(本当に大雑把ですが)冒頭で紹介した700万円はかなり妥当なところであり、
800万円ならとりあえず弁理士としては努力が報われたかな、といったところです。

ちなみに昔は大台の1,000万円など(実務能力があれば)容易にクリアできました。
クライアントに対して新規出願1件当たり50万円~などと請求できたのですから。

公認会計士や税理士の年収と比べてみる(参考)

複数の士業に携わっていて必ずと言ってよいほど聞かれるのが「そっちは(もう一方の資格は)稼げるのか」というもの。
やはり皆さん、他士業の懐事情には関心があるようです。

この点に関連して公認会計士、税理士と年収を大まかに比べると、現在は

公認会計士>弁理士>税理士

というのが正直なところ。

特に公認会計士は、試験合格者の年収が高く、早ければ20代のうちに弁理士の平均年収に到達します。

ちなみに会計士試験の合格者の多くが若く(20代前半)、しかも大部分が大手事務所(監査法人)に就職します。
そこでは初年度の年収が600万円近くになることも。

(弁理士からすると羨ましく感じるかもしれませんが)資格(試験合格)に対して報酬が支払われる側面があるのです。

なお、税理士は(大手税理士法人勤務を除くと)弁理士よりやや低め、といった感じです。
中小零細企業は資金力にとぼしく、また、記帳代行や決算申告等には高い付加価値を見出しづらいからです。

これが開業弁理士の年収の現実!<確定申告書公開>

最初に開業弁理士の実際の年収をお見せします!

昔のものになりますが、実際に税務署に提出した確定申告書と決算書(の控え)が次です。

ちなみに、これは筆者が事務所を引き継ぐ直前の(親族の)申告書・決算書<損益計算書>です。
筆者のものは公認会計士報酬やら税理士報酬やらが入り混じっているのでこちらを公開します。

弁理士の実際の確定申告書(税金の申告書)
弁理士の実際の決算書

税務や会計の知識が無いとわかりづらいかもしれないので、ざっとポイントだけまとめておきます。

  • 事務所売上(年商)4,100万円余り(申告書の(ア)もしくは損益計算書の①)
  • 利益(年収と呼ばれるもの):約1700万円で利益率約40%(損益計算書の差引金額)
  • 所得税:約160万円(ただしこの時は定率減税というのがあって140万円ほどになっている)

注:所得金額が約1,070万となっているが、1,700万の方が年収に近い。

特許事務所の会計や税務は色々とからくりがあり、説明したらキリがないのでこのくらいにしておきます。

この事務所は(この時点では)弁理士有資格者は所長のみで、従業員はパートも含め数名。
実は、当時その所長の健康事情もあって、大きく経営が傾いていました(全盛期の3分の1から4分の1ほどに収益は落ち込んでいた)。

そのため当初は廃業も視野に入れていたのですが、結局、弁理士でもあった筆者が承継することに。
事務所を閉めてしまうのはもったいないと判断しました。

ちなみに、いわゆる経費枠を使って相当節税に励んでいたので、実質的な年収は2千万円ぐらいと推計されます。

結論としては、やはり独立は稼げる(厳密には稼げ)とつくづく感じました。

上記のケースは(見方によっては)1人事務所の成功例ともいえるので、参考にしてみてください(今日では単価の下落に加え、顧客の開拓も難しいので、実際にはこの半分くらいが目標になるかと思います)。

勤務弁理士等の年収の現実~特許事務所の年収リサーチ結果~

次は勤務弁理士等の年収実態です。

客観性を少しでも担保するために、転職エージェントの求人検索を活用して調べてみました。
その結果が次です(注:特許技術者を含んでいます)。

年収範囲の平均405万~803万円
上記範囲の中間604万円
最安値300万円
最高値1,000万円
サンプル件数30件
参照求人サイト:リーガルジョブボード

求人は未経験者から経験者まで幅広く、また弁理士(有資格者)・特許技術者併せて募集しているところが大部分でした。

提示された年収範囲も、およそ300~400万円(未経験者)から800万円(熟練者)といったところ。

多くの事務所が同じような年収帯となっており、特許事務所勤務での年収は基本的に大きな違いはないと言えるでしょう。

なお、年収1,000万円以上を提示しているところもありましたが、携わる業務としては事務所マネージメント(場合によっては顧客獲得や営業)への関与も想定されます。

弁理士事務所を開業した場合の年収シミュレーション

一般的な特許事務所のケース

ここでは一般的な特許事務所の開業ケースについて深掘りしてみます。

特許中心で、かつ軌道に乗っているパターンです。

一般的な特許事務所の月間売上高
  • 特許出願:1件当たり30万×5件/月=150万
  • 中間処分:1件当たり8万×5件/月=40万
  • 商標出願:1件5万×2件/月=10万

注:月ごとに特許5件、商標2件を想定
合計月間売上高:200万円

年間で、200万×12か月=2400万の売上となります。

ここで経費分を3分の2として残りを年収とすると、800万になります(注:この数字が事務所勤務の場合の目安です)。

他方、一人事務所ですと、人件費がほとんどかかりませんので、1500~1800万円くらいの年収にすることも可能です(さらに成功報酬も見込めれば、一人でも年収2000万円までは届きます)。

このパターンを目指そうとする独立志望者もいると思いますが、
特許案件がコンスタントに入ってくることが前提になります。

商標中心の事務所のケース

では現実はというと、新規独立の多くが実質的に商標事務所として稼働しています。

J-PlatPat(特許情報プラットフォーム) などで業務実績を調べてみると分かりますが、
特許を中心に事務所を運営するのは今日ではなかなか難しそうです。

例えば、新規の特許出願については、中小零細企業(個人を含む)を中心に年間数件というのも珍しくありません(2桁に届けば大健闘といってよい)。

そこで、ここでは一人事務所の現実的なパターンを計算してみます。

商標中心の事務所の月間売上高
  • 特許出願:1件当たり30万×0.5件/月=15万
  • 中間処分:1件当たり8万×0.5件/月=4万
  • 商標出願:1件当たり3万×10件/月=30万

注:商標は毎月10件、特許は2か月に1件を想定
合計月間売上高:49万円

年間で、49万×12か月=588万の売上となります。

商標単価は、新規開業である点及び数量で稼ぐ点を考慮して業界平均より低めに設定しています。

この売上からテナント代等の諸経費を引いた残りが年収です。
結果として年収は350~400万円などなってくるでしょう(仮に自宅兼事務所の場合は、500万円以上にすることも可能)。

単価の低い商標中心では、収益的に厳しいのがお分かりいただけると思います。

結局、商標事務所でいく場合は、ネット等を用いてどれだけ集客できるかがポイントになってきます。

こうした厳しい状況下では、実力のある人ならば、勤務していた事務所にパートとして残ることもあり得るでしょう。
あるいは、予備校の講師を兼業することも考えられます(こうしてようやく年収1千万に近づく)。

もしかしたらこれらのパートや講師業の方が収入源的にメインだったりします。

弁理士はどっちが稼げる?特許事務所勤務VS企業勤務

特許事務所勤務のケース

注:特許を中心に行うことを前提とします(商標・意匠のみの場合、年収は100万~200万円少なくなります)。

業務・ポジション年収
ジュニア(見習い)300万~500万
実務(明細書作成)中心600万~800万
マネージメントにも積極的に関与800万~
パートナー1500万~

年収については、資格も大切ですがそれ以上に実務能力・経験がポイントとなります。
全く未経験であるならば300~400万でスタートです。

指導やチェックを受けることなく、一通り実務をこなせるようになれば600万の大台に乗ってきます。

特に特許事務所では成果主義を採用しているところが多いため、
高品質の明細書をどれだけ作成できるか、によって決まってくるのです(結果として経験年数が大きく関係してくる)。

ところで
実は事務所勤務で年収の分かれ道となるのは、明細書作成等の実務能力だけではありません(これはできて当然)。
一般的にプレーヤーとしてだけだと限界があります(通常は800万+αまで)。

ご存じの通り、それなりの規模の事務所では、会社同様、組織としての様々な管理業務があります。
自分の所属するグループを統括しながら、人員配置や業績評価をしたり、さらにはパートナーとの連絡や調整をしたりするのです。

そこでは(明細書作成という)プレーヤーとしての仕事のほか、事務所のマネージメントの関与度合によって昇進や昇給が決まっていきます。

事務所勤務で1千万円を目指す一つの目安です。

さらにパートナーまでいけば、一挙に年収は上がります。

パートナーは事務所の共同経営者です。
適用される報酬体系自体が変わってきますし、経営責任をも負うことになります。

そのため自身の報酬も高額になりますが、報酬交渉やクライアントの評価によっては大きく変動し得るのです。
特に大口クライアントを失えば、その時点で無収入に陥るリスクもゼロではありません。

企業勤務のケース

企業では勤務先によって(特に大手か中小かによって)年収が大きく変わってきます。
そこでここでは、特許をそれなりに出願する規模の企業を前提とします。

ポジション年収
一般社員400万~700万
主任(30代後半~40代)700万~
課長(40代~)1000万~
部長(50代が中心)1200万~~

企業勤務の弁理士は、事務所勤務に比べ全体的に高給といえます(事務所パートナーを除く)。

ですが、その理由としては、弁理士資格があることよりも、大手企業などに勤務していることが挙げまれます。
つまり勤務している企業の給与テーブルが適用されてくる結果です。

福利厚生や退職金まで考慮すると、やはり企業勤務の方が魅力的に映る人もいるでしょう。

他方で、大企業は安定かつ高収入ではあるものの、年功序列的な側面も否定できません。

また、企業では配属先や仕事内容は変わるものですし、定年(例えば60歳)もあります。

裏を返せば、企業に在職しているうちは収入を自分で決定したり、業務を選択する余地は殆どないということです。

ですので(プロとして自分の腕で生きていくことよりも)安定した高収入を求める人に向いていると言えるでしょう。

企業勤務では弁理士資格は関係ない:
近年、会社員の弁理士試験合格者が増えています。
他方で弁理士資格は本来、代理人資格であり、顧客企業側が取得しなければならないものではありません。
また弁理士登録には会費等のコストがかかってきますが、その援助についての扱いは企業によって様々です。
そのため試験に合格しても未登録のままの人が少なくありません。

弁理士の年収の増やし方

手を広げて喜ぶビジネスマン

実務の質とスピードの両方を確保する

まずは(当然のことながら)弁理士としての実務能力(明細書作成能力)をしっかりと身につけることが必要です。
これが十分備わっていないと、年収は見習い+αのままです(年収で500万ぐらいのまま)。

また、明細書が書けることは大切ですが、同時にこの仕事はスピードも命です。

期限があるのはもちろんですが、クライアントから結構厳しいリクエストが来たりします(3日以内とか至急、なんてことも)。

早い者勝ちの世界なので当然と言えば当然なのですが。

一定以上の品質のものを、一定期間にどれだけこなせるか、
これが各人の評価に直結します。
各人の報酬単価を決定する源泉そのものです。

事務所を転職する

いくら明細書がしっかり書けても、それが事務所に評価されなければ年収に結びつきません。

ですので、自分の実績が妥当に評価されていないと感じるならば、成果主義を採り入れている事務所への転職がベストです。

また、事務所勤務が1年以上経過しているのに、実務能力(明細書の質)の向上を実感できない場合も同様です。
教えるだけの余裕がなく、事実上、放置されたままの事務所では、そうしたことも起こり得ます。

特にきちんとした指導を受けておらず、我流のまま何となく実務をやっていると、なかなか昇給は厳しいもの。

なのでこの場合も事務所転職を検討しましょう。
然るべき指導等を受けつつ自己流から脱却するのです。
年収アップはそこからスタートです。

内外・外内といった外国案件をこなせるようにする

近年、国内出願は減少傾向にあり、また単価も下落傾向にあります

対して、例えばPCT出願は増加傾向にあり、しかも外国案件は単価が相対的に高いといえます。

ですので、特に英語に自信のある人は、一時期集中的にこうした内外・外内出願を手掛けてみることオススメです。
報酬にアップに直結します。

また、もし今英語に自信がなくても、興味や意欲のある人は英語の学習に取り組んでみることも十分アリです。

その場合は、例えばTOEIC800以上などを目標にするとよいでしょう。
転職、独立を問わず必ず有利に働いてきます。

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マネージメント力や営業力を身につける

いわゆる経営能力は昇進や昇給するうえで不可欠です。

企業勤務はもちろんですが、事務所勤務でも同様に、プレーヤーとしてだけでは限界がありまります。
要するに組織のメンバーを取りまとめ、リードしていくことが求められるのです。

また独立して年収を2000万円以上にしたいときも、人を雇うことが必要になってきます。
そこでは事務所のマニュアル作りから実際のマネージメントまで、本来の実務以外でも多忙を極めることになるでしょう。

さらに言うと、事務所パートナーを目指したり独立開業する上で必須となるのが営業力です。

極論すれば、営業力とマネージメント力があれば事務所を稼働させることができますし、実務能力で勝負するよりも高い報酬を手にすることができます。

こうしたマネージメント力を習得する観点から、企業経験をキャリアに組み込んでみることも一考です。

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弁理士の年収:まとめ

弁理士の年収の現実について解説してきましたが、いかがだったでしょうか。

一応の結論としては、

事務所パートナー>大企業管理職>新規に独立開業≒事務所勤務

といえそうです。

もっとも、事務所パートナーが抱えるリスクとプレッシャーは半端ではありません。
報酬はまさにその裏返しなのです。

そうすると、結局、企業内弁理士が一番無難、という人もいるでしょう。

ですが、人生、お金や安定だけではないはずです。
もっと各人に合った選択肢や自由があってよいということです。

弁理士に限らないことですが、士業資格はまさにその選択の幅を広げてくれるのではと思います。

皆さんは、弁理士資格を前にどのようにお考えになりますか。

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