この記事をご覧になっている人は文系ご出身の方が多いと思います。
他方で、文系弁理士が少数派であることもあり、様々な不安もでてくるでしょう。
例えば
- 文系出身者は弁理士になれるのか?
- 文系弁理士の業務はどんなものがあるか?特許をやれる?
- 就職先があるか心配
などですね。
そこでこの記事では、業務や就職事情を含め文系の弁理士の可能性を徹底解説していきます。
文系ならではの弁理士の姿とその活躍ぶりをイメージできるはずです。
ちなみに筆者は何を隠そう、最終学歴は文系です。
そんな筆者が一般的に言われている事や経験してきた実情を踏まえ、率直なところを綴ってみたいと思います。
主な経歴:
早稲田大学理工学部中退、慶應義塾大学経済学部卒
特許事務所→公認会計士・監査法人→特許業界復帰→弁理士→独立(特許事務所・会計事務所経営)
特許事務所を営む父親の長男に生まれる。
その関係もあって学生の頃から特許業務に従事。
ところがある日、急にビジネスの広い世界を知りたくなり、会計士業界に飛び込む。
父親の健康事情及び自身の適性を考慮して特許業界に復帰、その後、事務所を承継。
文系でも弁理士になれるか
文系出身者の弁理士試験の合格状況
最初に弁理士試験の合格状況について確認しておきます。
合格者の割合については、毎年概ね8割が理系、2割が文系です。
弁理士業務の中心が発明や技術を扱う特許であることを反映していると言ってよいでしょう。
また、合格率は(年度により変動しますが)理系が5~9%、文系が4~6%ほどで推移しています。
数字の上では、若干ですが、合格率は理系の方が高いです。
特にこれとの関係で注目したいのは、多くの理系受験生が大学院修士等まで出ている点。
筆者の推測ですが、これによって論文試験の選択科目が免除されるため、理系にやや有利な数字が出ているのではないかと思われます。
弁理士試験は文系向き:
弁理士試験はズバリ法律の試験です。上記の選択科目の件があるものの、必須科目は文系(特に法学部)に有利といえます。
確かに一部の特許の試験問題では、表面的には実務っぽい出題もありますが、理系の素養は全く関係ありません。
裏を返して言えば、実務と試験は別物なのです。
論文の選択科目をどうするか
論文試験には選択科目がありますが、上記の通り理系の多くが大学院等を通じて選択免除資格を得ていきます。
大学院以外にも、行政書士や司法書士、情報処理技術者等の資格により免除資格が得られますが、どれも簡単ではありません。
特に文系ですと行政書士が狙い目と考えられがちですが、合格率は大体10%ぐらいで推移しています。
これを難関とみるか否かには温度差があるようですが、私の周囲を見渡しても、思ったほど楽ではない、というのが感想です。
他方で、選択免除を狙っていかない方は、今の制度では、法律(弁理士の業務に関する法律) を選択することになると思います。
しかも選択問題は、民法(総則、物権、債権が範囲)一択のみ。
結構ボリュームがありますが、法学部出身者をはじめ、勉強したことがある人は取り組みやすいと言えるでしょう。
また、勉強の経験がなくても、受験予備校で民法対策の講座を用意していますので、効率的に勉強できるはずです。
なお選択科目は一度合格すると、永続的に有効です。
筆者は選択免除組ですが、ルートとしては公認会計士資格を利用して行政書士登録をしました(会計士資格があれば無試験で行政書士登録できる)。
文系弁理士の業務
文系弁理士の主な業務
弁理士の中心業務は特許です。
確かに昔は文系でも扱いやすい特許分野の案件も結構あったのですが、
今日では事情が変わってきています。
総じて、文系弁理士を取り巻く状況は楽ではないのは確かです。
もっとも、決して絶望的ということではないので、まずは文系弁理士が扱う業務を見てみましょう。
文系弁理士が担う業務としては、一般的に次のようなものが挙げられます。
- 意匠、商標を専門に手掛けていく
- ライセンス交渉・契約業務を行う
- 外国案件や翻訳業務を担う(英語力必須)
🍀意匠・商標
最初の意匠、商標分野は文系弁理士が扱う代表的な分野です。
特許事務所にて商標調査や出願業務を行います。
🍀ライセンス交渉・契約業務
2番目のライセンス交渉や契約業務は、主に企業の知財部や法務部(渉外部)にて行っています。
企業内弁理士が増えている今日では、知財部をはじめ文系弁理士の活躍の場は広がっていると言えます。
このライセンスや契約業務は商標分野と並んで、法律色の強い業務です。
文系の中でも、特に法学部出身者はその強みを発揮できるでしょう。
🍀外国関連・国際業務
3番目の外国案件や翻訳業務は超有望なオススメ分野です。
外国案件(外内出願や内外出願)では英語力が必須になってきますが、文系でありながら特許に携わることが可能です。
具体的には、外国出願に際して明細書を翻訳したり、中間対応や年金について海外代理人と英語でやり取りします(これらの業務には文系出身者も携わっている!)。
しかも外国案件は国内系より報酬が高く、PCT出願を中心に今後も増加が見込めます。
なお、転職エージェント、リーガルジョブボードなどの求人検索で調べるとわかりますが、
実際に多くの事務所で英語力(例えばTOEIC750など)を求めています。
商標弁理士として独立開業を目指す
今日では、特許の仕事を継続的かつ安定的に開拓するのは容易ではないため、商標を中心に事務所運営をする弁理士が増えています。
そこで文系出身としては最初から商標弁理士として独立を目指すのも十分ありと言えます。
もっとも、独立を目指すと言っても、先ずは商標実務を事務所等で経験する必要があります。
できれば、商標調査や出願業務はもちろん、マドプロ等の国際案件、さらにはライセンス交渉など幅広く業務経験できれば理想的です(なので事務所と企業の両方の実務経験があると良い)。
これらに加えて英語力があれば、外国クライアントを獲得したり、海外への出願を担当したりすることも可能です(このアドバンテージは小さくない!)。
なお、仕事の開拓についてですが、
商標に関しては、事務所ホームページを工夫することで集客につなげることが可能です。
文系の得意のコミュニケーション能力と合わせれば、かなりの営業成果を出せるのではないかと思います。
つまり商標弁理士としての独立は、文系弁理士の強みをフルに発揮できる切り札と言えるでしょう。
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文系弁理士の特許業務の可能性
文系出身の弁理士が、本来の中心業務である特許業務(明細書の作成)に携わることについてはどうでしょうか。
結論としては
条件付きですが、一応可能です。
- 機械系やソフトウエア関連は十分いける
- 夜間の大学で勉強することもできる
いわゆる機械系については文系でも十分取り組んでいけると思います。
図面を通じて直感的に捉えられやすく、作用・効果などもイメージしやすいからです(難しい数式等は殆どでてきません)。
事実、理系でも機械分野以外を専門とする弁理士が(例えば化学専攻など)機械分野の案件を扱うことはよくあること。
自分でテキストを紐解きながら(にわか勉強しながら?)取り組んでいきます。
ちなみに中小クライアントの日用品や遊具などの発明は結構、取り組みやすいものです。
また、今日、活発に取り扱われる分野がソフトウエア関連です。
明細書などを見ても「○○○のシステム」など、フローチャートやアルゴリズムをよく見かけますね。
ビジネスモデルなどとも結びつけられ、文系理系問わず扱える分野です。
今日の発明では必ずと言ってよいほど、このソフトウエアが絡んできますし、メーカー以外にも広く案件が見込まれます。
ですので今後、特許で何をやろうか、と迷われている方には真っ先にお勧めです。
さらに高みを目指そうとする人の中には、本格的な技術分野に携わってみたいと思う人もいるでしょう(特に電気分野や化学分野)。
そのような人にとっては、働きながら夜間の大学で本格的な勉強をするのも十分ありです。
ただし理系の勉強は実験実習も多く、想像以上にハードです。
また(文系と異なり)高校レベルの数学や物理、化学等の素養が前提となるため、そのための準備・勉強も欠かせません。
文系でも特許に興味のある方のために、明細書<特にクレーム>実務の参考書を紹介しておきます(注:令和5年3月時点では中古本のみ)。
◆特許出願のクレーム作成マニュアル(オーム社)
◆特許明細書のクレーム作成マニュアル―発明の権利はクレーム作成にかかっている(工業調査会)
文系の弁理士の注意点
意匠・商標の市場は限られている
繰り返しになりますが、弁理士と言えば特許業務が中心です。
これに比べれば、意匠・商標は市場が相対的に小さいと言わざるを得ません。
例えば特許は年間約30万件なのに対して意匠、商標はそれぞれ約3万件、約18万件などといった状況です。
しかも意匠、商標を専門に扱っているのは、大手事務所を中心に限られてきます。
特に意匠を専門に扱っている弁理士はさらに少数です。
結果として事務所への就職口も文系出身者は限られたものになってきます。
年収が理系より100万~200万ほど低い
一般的に文系弁理士の年収は理系より低くなりがちです。
意匠、商標を専門とする場合は、高くても年収は600万ほどとみてよいでしょう(対して特許をやる場合は7~800万ほどになってきます)。
さらに上を目指すのであれば、出願系だけではなく、ライセンスや契約といった法務分野にまで携わる必要が出てきます。
ただしこの分野はむしろ弁護士の領域にもなってきますし、広範囲の法律知識な実務能力、交渉能力が求められてきます。
未経験者は年齢制限が厳しい
文系かつ未経験の場合、年齢が重くのしかかってきます。
絶対ではないものの、30歳を上限としている事務所が多そうです。
したがって特に未経験者は、できるだけ早めに(20代のうちに)実務に就くことをお勧めします。
また、特許をやろうと思っている方は、特に注意したいところ。
理系出身者でも全くの未経験者は30歳~35歳までと言われるほどです。
筆者の経験から見ても、文系出身者の特許分野へのハードルは確実に高くなってきていますし、
就職先も以前に比べて減少気味です。
あまり言いたくないのですが、国内市場が縮小傾向にあるほか、(理系)弁理士の文系出身者への見方自体が厳しくなっています。
資格より実務優先で
少し厳しい内容になるかもしれませんが、大切なことなので率直にお伝えしておきます(注:文系に限った話ではありません)。
実は弁理士業で大切なのは、資格よりも実務経験・実務能力です。
中には先に弁理士資格を取ってしまう人もいますが、個人的にはあまりお勧めしません。
資格取得の勉強と実務に乖離があるほか、弁理士試験の受験勉強では弁理士としての適性がわからないからです。
また、資格取得は40歳でも間に合いますが、実務の習得はそうはいきません。
特に事務所就職の際の年齢については、先に述べた通り大変シビアになってきています。
所長弁理士の中には、資格を先に取得することについてネガティブな反応を示される方もいるほどですから。
要するに、弁理士に関しては、資格だけではどうにもなりませんし、むしろ資格は実務の延長にあるといった感じです。
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文系出身者がすべきこと&就職対策
所長が文系出身の事務所にアプローチする
上述の通り、文系の弁理士は理系に比べ、全体的に不利であることは確かです。
当然ながら就職への影響も十分考えられます。
ですが、決して諦めることはありません。
なぜなら
- 文系でも成功している弁理士は多数いる
- 法学部出身の所長弁理士は多い
からです。
特に所長弁理士達の経歴を見ればわかりますが、理系ばかりではありません。
法学部等の出身者は決して少なくないのです。
中には、特許実務は従業員に全面的に任せ、自身は経営を中心に飛び回る、いわゆるやり手もいます。
ですので、転職の際には所長が文系出身の事務所にアプローチするのも一考です。
今日では多くの事務所がホームページを開設してみますので、そこで所長のプロフィールを確認してみましょう。
また、HPに所長ブログがあれば、併せて要チェックです。
特許事務所は所長のカラーがでやすので(特に中小個人)、それなりに事務所の雰囲気がわかるはずです。
営業力やコミュニケーション能力を磨く
弁理士といえどもビジネスマンです。
最終的には収益に結びつかなくては意味がありません。
それは事務所でも企業でも同じこと。
例えばそれなりの規模の事務所になりますと、昇給や昇進で上を目指そうとするならば、マネージメントに関与しなくてはなりません。
その最たるものが事務所経営であり、営業活動(仕事取ってくること)です。
そこではデスクワークでの実務能力以外にコミュニケーション能力も強く求められます。
実はこの能力、弁理士の本来の資質と相反してしまうところがあります。
特にデスクワークに向いている人は、営業やマネージメントがつらく感じるかもしれません。
さらに収入面でも実務能力だけでは限界がでてきます(通常は800万円プラスαまでが限度です)。
これに対して(極端ですが)顧客をガンガン開拓できれば収入は青天井と言っても過言ではありません。
文系出身者としての強みの一つは、まさにこの辺りにありそうです。
英語力を高める
やはり文系と言えば英語!ですね。
知財のあらゆる領域で英語力は(文系理系を問わず)必須になりつつあります。
正直、英語が全く無関係の領域を探す方が大変かも。
筆者の個人的な感想ですが、全体的には、会計士よりも弁理士の方が英語に携わる機会は多いように感じます。
例えば商標案件でも外国クライアントは(個人事務所レベルも含め)結構あるものです。
言い換えれば、英語力があるとビジネスチャンスは格段に広がる、ということです。
さらに上で申し上げた通り、英語力があれば、特許業務(外国関連業務)に携わることが可能です。
しかも収入面だって、なんと国内系の理系弁理士を上回ることも十分可能です!
そこで、まずは一般的な英語力としてTOEIC800点以上を目指すことをお勧めします。
もちろん英検1級などもアピール材料になりますし、海外事業に携わった実績などは更に評価されるはずです。
ただし、特許英語は特殊なうえ、技術の勉強も欠かせませんのでそのつもりで。
英語は文系の切り札!:
あんまり大きな声でいえないのですが、実は理系って(必要と言われながら)英語コンプの方が少なくありません。
英検1級、TOEIC満点、帰国子女(バイリンガル)…
聞いただけで、ビビってしまう人もいるくらいです。
外国特許部門の年収も考えると、案外、文系プラス英語、最強だったりして(理系アレルギーでなければ、ですが)
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転職エージェントの活用がベスト!
業界未経験者にとって最初の転職(事務所選び)は極めて重要である一方、
文系出身者は理系に比べ案件数が減るほか、転職のハードルが上がります。
確かに、今日では、ネット等を通じて情報を入手することは可能ですが、独りでは分からないことや不明点が残りがちです。
こうした状況下では、やはり転職エージェントの活用がオススメ!
例えば次のようなメリットは見逃せません。
- 多くの求人を紹介してもらえる
- 自分の希望や条件に沿った紹介を受けられる
- 書類選考や面接についてアドバイスを受けられる
- 直接求人サイドに聞きづらいことを質問できたり、相談できたりする
要するに、双方向的なやり取りを通じて理想の転職を実現し得る、とうことです。
そこでここでは弁理士の転職に強いエージェント、リーガルジョブボードを紹介しておきます。
知財の転職では、事実上、ここ一択といってもよいくらいですので登録しておくとよいでしょう。
とにかく、知財業務希望の文系出身の方は、一刻も早く実務をスタートさせることが大切です。
皆様もぜひ一日でも早く知財の世界に踏み出してみてください!
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まとめ
文系の弁理士の可能性について解説してきましたが、いかがだったでしょうか。
簡単にまとめますと次の通りです。
- 弁理士試験では論文選択科目に注意する
- 業務は、商標・意匠、ライセンス・契約、外国出願関連が中心
- 商標弁理士として独立するほか、特許業務に携わることも可
- 商標・意匠の市場は小さく、これらの分野の年収は理系分野より低い
- 年齢制限が厳しい
- 資格より実務を優先する
- 営業力、英語力を高める
- 転職エージェントを活用する
文系出身で未経験の方は、あるい意味で理系よりも選択肢が広いと言えます。
そこで
自分はどんな弁理士を目指したいか、どんな業務をしたいか、将来は?
こうした点をできるだけ明確にしておきたいところですが、
他方で、いろいろと分からないことや不安なこと等もあると思います。
ですので、弁理士や知財業務に関心をお持ちでしたら、まずは転職エージェントに相談してみることをオススメします。