50代といえば、職業人生としては総仕上げ的な年代といえます。
そんな中であっても様々な考え方や人生観から資格取得を考えている人も少なくないと思います。
ですが、一方で、例えば次のような疑問や悩みも起きてくるでしょう。
- 今から資格を取得しても果たして仕事や収入に結びつけられるだろうか?
- 資格取得自体の難易度やハードルは大丈夫だろうか?
- もし万一うまくいかなかったら…
- でもこのまま人生終わりたくない…
等々。色々な思いが交錯しているものと推察します。
人の生き方に唯一絶対の模範解答など存在しないのですから当然です。
一般論的には50代からの資格取得は安易に勧められるものではありません。
ですが、他方で成功されている方もいらっしゃいます。
ただし慎重にしなければならないことも多々あるのは確かです。
そこで本記事では、そういった疑問や悩みを踏まえ、希望的観測を極力排除した上で様々な角度からその可能性を検討していきます。
略歴:特許事務所→公認会計士→監査法人・会計士事務所→弁理士→独立(会計事務所・特許事務所経営)
特許事務所を経営する父親の長男に生まれる。
そうした背景もあって学生の頃から知財に関与していたが、ある日、心機一転、会計業界に飛び込む。
その後、父親の健康事情から家業を承継するとともに会計事務所を開業。
長期にわたり複数の士業に携わりながら、様々な事務所や実務を経験する。
50代からの資格取得のメリットとデメリット
まず、資格を取る意義やメリット、そしてそれに伴うデメリットについて確認しておきたいと思います。
メリット
- 資格が取れれば仕事・収入に結びつく可能性がある
- やりたい事に全力で挑戦すること自体に意義がある
- 50代は人生最後の貴重なチャンスといえなくもない
この記事をご覧になっている皆様の多くが、資格を取得して仕事や収入に結び付けたいと考えているでしょう。
ですので資格が無事取得でき、思った通りに収入が得られるようになれば、それが何よりのメリットといえます。
また、確かに記憶力や体力は若い時に比べ落ちていますが、決して挑戦できないというほどでもありません。
工夫とやる気で相当カバーできます。
しかも、50代ともなれば、社会についてそれなりに見識ができています。
自分自身についても、他者には決して理解し得ない深い部分が見えてきます。
そんな自分が「これだ!」と思える目標(あるいは長い間抱いてきた夢)を実現し得る最後のチャンス、それが50代といえます。
デメリット
- 仕事をやめた場合の経済的なリスク
- 周囲への影響
仕事を続けていればよいのですが、仕事をやめて勉強に専念する場合、上手くいかなかったときの経済的リスクは小さくありません。
仮に、資格取得に成功しても、収入に結びつかなければ実質的に同じですし、
ある程度収入が得られても(仕事を辞めた場合)全体的な収支は相当のマイナスになる可能性があります。
また、経済面とは別に、ご家族や仕事関係を含め周囲への影響にも配慮する必要がでてきます。
年齢に鑑みると、むしろマイナスに働いてくると考えるのが現実的でしょう。
ですから、こうしたデメリットの部分を認識すると、ごく一部の方を除き、とりあえず定年までは仕事を続けよう、という慎重な結論にならざるを得ないのです。
50代からの資格取得はハードルが高い!
皆様にとっての最初のハードルです。
しかも相当高いハードルといってよいでしょう。
ここでのハードルとは、資格取得に際しての試験の難易度のことを指します。
そのハードルの内容を具体的に列挙します。
- 試験勉強と実務(仕事)は別物である
- 士業資格の合格率は大変低い(大雑把に見ると5~10%)
- アウトプット訓練(演習や模擬試験等)が勉強の中心である
- 暗記量が膨大
先ず注意しなければならないのは、実務(仕事)は試験勉強に役立つとは限らないということです。
受験勉強の本質から言えば、実務とは全く異なるぐらいのつもりで勉強や対策をしていく必要があります(実務が役に立つのは、資格取得後、仕事に就くときです)。
また、特に士業資格についてですが、全体的にその合格率は非常に低い傾向にあります(合格率は約5~10%)。
しかも時間や労力をかけても合格できる保証がありません(特に難関国家資格では5~10年かけても合格できないことアリ)。
さらに具体的な勉強そのものが大変です。
体系的、原理的な勉強をしなければならないうえ、具体的な試験対策、いわゆるアウトプット訓練(答案練習や過去問研究)が勉強の中心だからです(一般的な勉強や読書とは根本的に異なります)。
もちろん暗記すべき事項も膨大です(特にこれが50代にはキツイ)。
具体的な学習時間としては、少なくとも机上で毎日2時間は勉強に充てたいです。
土日を含め休みの日は、フルで机に向かってもらうことになります。
これとは別に、通勤時間やお昼休み等のいわゆるスキマ時間を上手く活用する工夫も必要です。
特に難関資格についてはこうした状況が何年も続くのです。
50代からの資格で転職/独立は可能か?
次は資格取得後の話に移ります。
転職について
結論として
実務経験が全くない状態での(資格だけでの)転職は一般的にかなり難しい
です。
先ほど申しましたように資格取得と実務は別物だからです。
他方、求人側の会社では即戦力を欲しがっています(というより50代でしたら陣頭指揮をとれるくらいのレベルを求めてきます)。
一般企業ならなおさらです。
ズバリ、資格より実績です。
また、仮に就労できたとしても、定年の問題があります。
現実として就労期間は、短いと数年ということにもなってきます。
経済的な収支だけで見ると、50代からの資格取得には疑問が残らざるを得ません。
もっとも、実務経験が十分にあり、その専門性の確認として資格を取る場合は、話が変わってきます(例:企業の知財部長が弁理士資格を取得する)。
そのような方にとっては、仕事よりも資格取得そのもの(具体的には国家試験等の受験勉強)が課題になってきます。
独立について
士業で独立の場合、専門実務能力と営業能力の2つが求められてきます。
ここでは、この2つの観点から考えてみます。
- 最初から完璧な実務経験が求められるわけではない
- ただし最低限の知見や見識、さらには各人の資質・適性は重要
- 人的信頼関係を構築する
- 得意分野・専門分野を持つ
独立で必要とされる実務経験とは
専門実務能力については、当然のことながら、転職の場合と同等か、もしくはそれ以上のレベルが求められます。
結果として、独立前に十分実務経験を積んでおくことが望ましいということになります。
では、実際に十分な実務経験が前もって絶対に必要であるかというと、少し事情は違ってきます。
意外に思われるかもしれませんが、十分な修業期間を経ず独立するケースは決して皆無ではありません(注:資格によって変わってきます)。
専門実務の勉強をしながら自分の事業を進めていくのです。
例えば次のようなケースです。
- 公認会計士が税務業務を経験せずに税理士事務所を開業するケース
- 弁護士がいわゆるイソ弁を経ずに即時独立するケース
- 税理士や弁理士が役所(税務署や特許庁)を退所して即時独立するケース
例えば、公認会計士(特に外資系や株式公開業務出身者など)は、監査法人勤務時代では直接、税務業務に従事することはありません。
税務申告書を書いたことすらないでしょう。
それでも(税務経験ゼロから)税理士事務所を軌道に乗せているケースが少なくありません。
また、法律改正等により、全くの未知の実務を扱っていくことは決して少なくありません。
自分が過去に扱ったことのない未知の案件に出くわしたりもします。
つまり、常に勉強しながら新しい実務をこなしていくことは、専門家としては避けられないのです(古い話ですが、税理士でいえば消費税の導入などはいい例です)。
別の見方をすると、事前にすべての実務に完璧に精通しておくことは不可能であり、またその必要もない、ということです。
ただし(完璧でなくとも)比較的関連性の強い分野で実務を経験していたり、実務修習等でそれなりに関連実務を学んでいたりしています。
全くの未経験での独立開業とは言い難いでしょう。
🍀見極めておきたい、自身の適性について(補足):
筆者の私見ですが、士業実務は(経験以外にも)各人の向き・不向きが出やすいものです。
1年であっという間に頭角を現す人、5年以上経験しているのに悪戦苦闘している人等、実に様々です。
営業をどのようしていくか
士業の場合に限らないのですが、事業を自分でしていく以上、顧客の開拓が必要になってきます。
言い換えると、ヒトのつながり、つまり、人的信頼関係を構築していかなくてはなりません。
今の時代、残念ながら、集客についても資格だけでは不十分なのです。
ただし、だからといって、単に名刺交換会や異業種交流会に手当たり次第に参加しても、先ず効果はありません(徒に名詞が増えるだけです)。
本当に最初になすべきことは、自分がどういう分野で、どういう仕事をしていきたいのかを明確にすることです。
事業運営の方向を明確にできると、然るべき具体的な行動がとりやすくなるからです。
さらに言うと、一歩突っ込んだ専門分野・得意分野を持つことで差別化につなげることが可能です。
必ずしも、目指している資格と直接関連が無くても構いません。
その+αの部分を差別化要因として付け加えるのです。
ご自身のそれまでのキャリアの中にヒントがあると思います。
そして、その+αについて十分に素養を蓄え、さらにその分野の人々と交流する機会を設けていきます。
結局、こうしたことの積み重ねが、営業つまり仕事や顧客の開拓につながっていきます。
50代から資格を目指すには自分自身についての確認も大切
ここまでは主に資格取得のハードルや取得後の転職・独立について解説してきました。
実はこれ以外にも大切な事項があります。
それは、資格取得を目指そうとする人自身に関することです。
これまで述べてきたことを、ご自身に当てはめてみます。
- 仕事をしながらの勉強なのか
- 試験勉強を根気よく継続できるか(勉強は長期戦になります)
- その仕事に熱意を持って取り組めるか、自身に適性があるといえるか
- 家族等の周囲の理解が得られるか
- 失敗(試験の不合格/転職・独立の失敗)のリスクを考えているか
特に仕事を辞めて勉強に専念する場合は、最悪のシナリオを含め、事前に収支計算を必ずしておくべきです。
なお、最初から失敗を想定することについては否定的な見方もあるでしょう。
ですが何事も絶対はないうえに、50代以上のリスクは若い年代とは異なります。
ここは、いわゆる‟大人の発想”をすべきです。
資格における50代以上の強みとは
厳しい事ばかり書いていきましたが、もちろん50代以上の人ならではの強みもあります。
それは、一言でいえば
という点。
これは単に外観的なことばかりではありません。人生経験の場数を踏むことからくるものでもあります。
実務では理論理屈では割り切れない、人間特有の泥臭い部分や理不尽な状況がでてきます(税務調査などいい例です)。
しかも、顧客の社長は中高年の方が少なくありません。
ビジネス書の受け売りや、正面きった正論だけではどうしても(顧客からすると)「自分は何のためにカネ(=報酬)を払っているのだろう…」という状況に陥りがちです(寄り添ってもらっていない、と感じるわけですね)。
やはり、それなりに人生経験のある中高年の人の方が振る舞いや対応に余裕があるとともに、状況によっては顧客に安心感を与えると思います。
それでも資格取得を目指す50代以上の皆様へ
最後に、資格取得ができた場合のその後の活動について、参考までに付け加えておきたいと思います。
合格すればとりあえず道は開かれる(特に独立系士業資格)
国家資格(士業)については(とりあえず収入を度外視すると)活躍する場が全くないわけではありません。
何ら保証はないのですが、いわゆる、調査・研究、教育、執筆関連分野です。
具体的には、専門分野の調査・研究をしたり、それらに関する執筆をしたりするのです。
国家試験予備校等の講師も良いでしょう(予備校講師は収入に直結します)。
また、最新の法律改正等を調べ、いち早くネット等を通じて情報発信していくことも有意義であるといえます。
調査、研究については、各士業の会でも様々な研究部会を設けています。
機会があれば、積極的に参加してみることをお勧めします。
併せてご自身のキャリア等を踏まえた独自調査・研究をしてみるのもいいかもしれません。
資格を取ったらぜひお勧めしたいこと
もう一つ専門実務との関係で大切な点に触れておきます。
それは、同業者同士での人脈です。
独立で成功されている方々は、開業者同士のネットワークを築いていて常に情報交換されています。
実務的なハンディも、ある程度こうした場で補うことが可能です。
これは決して難しいことではありません。
各士業の会を通じて先生方同士が交流を深める機会はいくらでもあります。
上で述べた研究部会の他、有志の勉強会から同期会の結成まで様々なものが考えられます。
士業団体に加入されたら、ぜひ、こうした会などにも積極的に参加してみてください。
また、最近では(特に難しい案件について)他の事務所とのジョイント(共同作業)も活発化しています。
これらをいかに活用するかも含め、特に実務的な側面については(資格にもよりますが)慎重を期すことで結構対応していけるものです。
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50代からの資格まとめ
50代からの資格取得について解説してきましたが、いかがだったでしょうか。
以下で簡単にまとめておきます。
- メリット・デメリットを踏まえ資格取得の意義を確認する
- 50代以降では資格取得自体のハードルが高くなる
- 転職は実務遂行能力が前提である
- 独立は実務経験と営業の両方がカギとなる
- 自分自身についての確認もしっかりと(特に適正面と経済面)
- 50代以上ならではの人間としての強みを生かす
特に注意したいのが、自分自身についての確認であり自己分析です。
また周囲への配慮も疎かにできません。
この辺りをしっかり押さえておけば、最終的には、皆様の人生観と決断次第ということになるでしょう。
焦ることはありません。
健康に注意しながら、できることを精一杯やればよいのです。
ご成功とご多幸をお祈りしております。