近年、企業活動や会計のグローバル化・国際化を背景に、公認会計士を目指す社会人が増えています。
他方で、働きながら会計士を目指すにあたっては、様々な不安や疑問もわいてくるでしょう。
例えば
- 仕事をしながらの受験勉強は難しそう
- 社会人の勉強時間はどれくらい必要?
- 社会人の具体的な勉強は?
等々。
ただでさえ難関試験なのに、学生や無職とは勉強する環境が全く異なるので尚更です。
そこでこの記事では、
社会人が公認会計士を目指すことは無理なのか?
の問いにズバリ答えていきたいと思います。
皆様の懸念材料が少しでも減れば幸いです。
・実務経験、通算20年以上
・独立までに大・中・小の3つの事務所に勤務(他に特許事務所経験あり)
・資格:公認会計士・税理士・弁理士
・独立後は会計・特許事務所を運営
公認会計士の社会人の合格状況
先ほどの問いに対する結論としては、
決して無理ではないが、大変厳しいので相当の覚悟をもって取り組む必要がある
ということになります。
では、まずは公認会計士試験の合格率の現状をみてみましょう(データは公認会計士・監査審査会「令和5年 公認会計士試験 合格者調」より抜粋)。
最終合格率 | 論文合格率 | 短答合格率 | |
---|---|---|---|
会社員 | 3.6% | 24.4% | 14.9% |
学生 | 9.6% | 49.9% | 19.3% |
無職 | 7.9% | 31.6% | 25.0% |
全体 | 7.6% | 36.8% | 20.6% |
注:一番右の「短答合格率」は、論文受験者数を短答合格者数とみなして、筆者が独自に計算しています。
また、「最終合格率」及び「短答合格率」の算定の際には、分母の数字として願書提出者数を用いています。
上記のデータより会社員の合格率は、受験に専念できる人に比べ低いのが分かります(全体が7.6%に対して、会社員は3.6%)。
ザックリ見ても学生の約3分の1の合格率です。
また(会計士を目指して勉強を始めたが)受験をする前に途中で諦めた人が相当数おります。
上記の数字は、一通り会計士の勉強をしてきた人たち同士の競争結果ということです。
なお、社会人の中には(試験合格後の)監査法人等への就職を心配をされている方もいると思います。
公認会計士は社会人には無理、と言われる理由
勉強時間の確保が難しい
これは言うまでもありませんね。
会社員ですと、通常、朝9時から夜の5時以降まで拘束されます。
また、この時間外が必ず自由になるわけではありません。
他方、公認会計士試験では合格まで最低でも3000時間の勉強が必要と言われます。
単純に1日6時間勉強しても1年4ヶ月以上かかる計算です(実際は5000時間~7000時間かかっている人も少なくない)。
とにかく会計士試験は試験科目が多く勉強量が膨大です。
電話帳のような分厚いテキストを何冊もこなさなければならないほか、
通常の予備校のカリキュラムでは、ほぼ毎日のように答練を受けることになります。
ですので社会人にとっては、まずは勉強時間を確保することが最初の関門です。
仕事をしながらの肉体的精神的疲労
実は勉強時間の問題だけではありません。
むしろこっちの方がキツイです。
仕事内容にもよりますが、就労後の肉体的精神的疲労・ストレスは計り知れません。
社会人ですと、仕事から帰宅した後、勉強することになりますが、集中力がどれだけ持続するか想像してみてください。
また、土曜日曜などの休みの日などはいかがですか?ドット疲れがでてくるのではないでしょうか。
勉強のスケジュールがきつく継続できない
会計士を目指すことを決めると、最初に勉強のスケジュール(計画)を立てると思います。
ですがここで落とし穴が待っています。
皆様がつくる勉強のスケジュールは、キツイものになりがちです。
例えば、平日は1日5時間、土日は10時間、などといった計画を立ててしまうのです。
ところが上で述べた通り肉体的精神的疲労・ストレスが勘案されていません。
最初の数日、数週間は良いのですが、1ヶ月、2ヶ月と経過するにつれて無理がでてきます。
社会人受験生が脱落していく頃です。
先ほども少し触れましたが、多くの社会人が受験することなく去っていきます。
結局、継続できないのです。
暗記と計算科目が大変
会計士試験の勉強は、読書や調べものとは次元が異なります。
膨大な量の知識を体系化しつつ暗記していかなければなりません。
しかもインプットよりむしろアウトプット(演習や答練)が勉強の本番です。
更に言うと、まず会計学等の計算科目が大変。
この計算科目が厄介で、集中して体で覚えていかなければなりません(しかも間が空くと勘が鈍っていしまう!)
学生や受験専念者との違いの一つが、この計算科目の習得状況です。
直前期に勉強時間が十分とれない
直前期については意外と軽視されがちです。
おそらく受験を決意されたころは想像もつかないでしょう。
ですが最悪の場合、逆に試験直前に急な仕事(顧客対応など)が入ってしまって…こんなリスクすらあります。
通常の受験生でも、ここでダウンしてしまう人がいますが、社会人の状況はさらに厳しくなってきます。
どうしても直前期の詰めが甘くなりがちです。
特に暗記事項に漏れがあったり、あやふやなまま試験日を迎えてしまうのです(特に論文)。
社会人受験の大変さ<コラム>:
筆者が初めて出席した入門講座は夜間に設定されていたので、当初、クラスの半分弱が社会人でした。
最初の頃は、どなたも「我こそは」と言わんばかりの勢いがあったのですが、だんだんと失速。一人、また一人、と出席してこなくなりました。
結局、社会人組は3ケ月で全滅。最終的に受験まで漕ぎ着けたのは、入門生全体の2割ぐらいだったと記憶しています。
今日では社会人向けの効率的な勉強法が確立していますが、ハードルが高いことに変わりありません。
社会人が公認会計士に合格するための勉強時間
勉強時間のスケジュール
勉強スケジュールについては、上でも少し触れましたが、大切なのは
勉強のスケジュールに余裕を持たせること
です。
そこで最低限必要な3000時間から逆算していきます。
このうちの1800時間を短答試験の勉強に充て、残った時間を論文試験に向けていきます。
以下は具体的なシミュレーションです。
- 平日:2時間×5日=10時間
- 土日:6時間×2日=12時間
- 合計:22時間/週
平日も土日も少なめに設定しています(注:通勤時間や昼休み等のスキマ時間は含めていません)。
このスケジュールですと1ヶ月あたり88時間(=22時間×4週)で、短答合格まで合計約1年8ヶ月の計算になります。
結論として最終合格まで約3年(うち短答1年8ヶ月)を一つの目標とします。
なお、朝の時間帯やスキマ時間を有効活用することで、勉強時間にさらに余裕を持つことが来ます(特に帰宅後)。
働きながらだと何年かかるのか
会計士試験は税理士試験と異なり、科目別合格には有効期限があります。
基本的には全科目同時合格を狙っていくことになります。
ただし、短答試験と論文試験の同時合格は必要ありません。
短答試験合格すれば以後2年間は免除され論文の勉強に専念できます。
しかも短答は年2回チャンスがあります(12月と5月)。
この短答免除の有効期限も加味したアローワンスを持たせると。
最終合格までの勉強期間:3~4年
という見積もりになるでしょうか。
実は社会人合格者もこのぐらいの勉強時間で結構合格していきます。
社会人が公認会計士に合格するための勉強法
以上を踏まえ、ここからは社会人向けの勉強法について解説します。
まずはポイントです。
- 短時間集中と取捨選択
- スキマ時間の活用と繰り返しの徹底
- 一般簿記は早朝に、構造系(連結会計や管理会計など)は休日に集中して取り組む
- 試験直前期はできるだけフルタイムで時間を取る
短時間集中と取捨選択
会計士試験は、基本的に計算科目も含め解答パターンの習得が勉強の中心になります。
また、暗記する量は決して少なくありませんが、試験にでる箇所や問われる箇所は、大体決まってきます(過去問と予備校の答練で分かってきます)。
これらの(誰もが得点し得る)頻出箇所をしっかりマスターすれば十分、短期間で合格できるのです(意外なことにこの当たり前のことが、皆できていません)。
試験にでる可能性の低いマターは思い切って捨てることも大切です(1度も出題されたことのないもの、あるいは10年に1度くらいしか出題されないものなど、いわゆるCランク論点はカットする)。
スキマ時間の利用と繰り返しの徹底
具体的な机上での勉強は、計算練習と基礎的事項の理解、そして答練が中心です。
細々とした暗記を机の上でやっていては、それこそ時間の無駄です。
他方、この暗記が結構クセモノ。
一度目を通しただけでは頭に定着しません。その時は覚えてもすぐに抜けてしまうのです。
そこでいわゆる暗記モノは、通勤時間や昼休みなどのスキマ時間を使って繰り返しインプットしていきます。
手を広げず、頻出かつ基本的な事項に絞り、かつ繰り返すのです。
ポイントは基本と集中と繰り返しです。
計算科目をどう乗り切るか
仕事をしながらの勉強を難しくする大きな要因が計算科目です(特に簿記分野)。
なぜなら
- 簿記は上達するのに時間を要する一方、やらないでいるとすぐ勘が鈍る
- 計算科目は、他の科目に比べ格段に集中力が要求される
からです。
例えば朝一番でさえ本試験レベルの計算問題を解くと結構疲れます。
ですので仕事を終えてからの勉強はさらに大変、ということになります。
疲れている状態でアウトプット等の練習を行っても、集中力が続かず、結果的に疲労が増加するだけであまり学習効果が期待できません。
これに関する対策としては、例えば
- 少し早起きして朝出勤前の1時間、簿記の練習(アウトプット・答練)に取り組んでみる(一日おき<隔日>でも可)
- 原価計算・管理会計や連結・企業結合等、構造問題系については週末にまとめ解きをする
といった具合です。
ただし、逆に朝がどうしても苦手で、夜(仕事から帰宅した後)取り組みたいという人は、朝方の勉強は避けた方がよいでしょう。
無理は絶対禁物です。長く続きません。
ただし、会計士試験(特に計算科目)は短時間集中型の試験であることを覚えておいてください。
直前期(試験2~3週間前)について
有給でも何でも使って、できれば2週間は缶詰状態で詰め込んでいきたいところです(1ヶ月休めれば理想だが…)。
特に論文では定義・趣旨、重要な基準、論点のキーワード等を完璧に覚えていきます。
なお、少しでも直前期の負担を減らすために、先に述べたスキマ時間を通じての基礎知識のインプットは大切と考えます。
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社会人は受験期間に区切りをつけるべきか
上では勉強期間として3~4年という期間を設けてみました。
ここで一つの目安として受験の区切りを設けてみるのも一考です。
あるいは短答試験合格を前提に、その有効期限を一つの区切りとするのもよいでしょう(いわゆる三振)。
確かに受験期間も4年(或いは受験回数3回)を経過しますと、成績が頭打ちになったり、受験勉強がマンネリ化しがちです。
筆者の周囲を見てみても、この4年超えると、7年、10年…あるいは結局、断念した、などといった状況です。
個人的な意見ですが、やはりこの試験はダラダラと惰性でやる試験ではないと考えています。
それは社会人でも同じこと。
何年かかるかわからない、ではなく、短答1年8ヶ月プラス論文1年で確実に合格してみせるくらいの気持ちで臨んだ方が合格に近づくはずです。
最後に
社会人を念頭に、公認会計士の勉強時間と勉強法について解説してきました。
厳しい現状のもとでの勉強のスタンスが、多少なりとも見えてきたのではないでしょうか。
その上で、覚悟を決めて会計士を目指すと決めたならば、合格した時のことだけを頭に描いて全力で取り組んでみてください。
それができるようなら、まずは会計士試験に挑戦する資格アリ、といえましょう。
そして決意したからには明日からではなく、今日から、それも今から準備に取り組みます。
一人の公認会計士誕生に向けての第一歩です!
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