弁理士の営業と特許事務所経営を解説!こんな事務所はつぶれるかも

弁理士になる以上、自分の特許事務所を経営したい!
こう考える弁理士や弁理士志望者は多いと思います。

他方で事務所経営は難しく、営業(仕事の獲得)の段階で悩む人も少なくありません。
また仕事が確保できても、その後の運営が上手くいかず、事務所を閉めざるを得ない、なんてことも。

こうしたことは弁理士の本業(明細書作成)以上に悩みの種になってくるのです。

そこでこの記事では、弁理士の営業と事務所経営について解説していきます。

この記事の執筆者について

主な経歴:
特許事務所→公認会計士・監査法人→特許業界復帰→弁理士→独立(特許事務所・会計事務所経営)

特許事務所を営む父親の長男に生まれる。
その関係もあって学生の頃から特許業務に従事。
ところがある日、急にビジネスの広い世界を知りたくなり、会計士業界に飛び込む。
父親の健康事情及び自身の適性を考慮して特許業界に復帰、その後、事務所を承継。

目次

弁理士の営業について

まず最初に弁理士がおこなうべき営業のポイントをザっとまとめておきます。

  • 営業では得意分野や差別化要因をアピールする
  • 他士業との交流や他業種の経験のすすめ
  • 事務所ホームページは集客できる
  • 名刺交換会や異業種交流会への参加は慎重に!

営業では得意分野や差別化要因をアピールする

営業で考えるべきは、売るもの(アピールの対象)と営業ルートです。
何をどう売るか、とも言えるでしょう。

弁理士でいえば、前者に該当するのが専門性や信頼性であり、後者が人のつながり、すなわち人脈です。

ここでは前者についてお話しします(後者は次の項で)。

ここでの最大のポイントは、営業は専門分野・得意分野とリンクさせること(実務と切り離さないこと)。

単に名詞や事務所パンフレットを配って「特許出願やってます」と営業したところで、その効果は乏しいものです。
弁理士は、今日ではいくらでもいますので。

そうではなく、
自分の専門分野や得意分野を具体的にアピールしていくのです。

例えば○○の技術分野が得意、とか、△△の知財業界に詳しい、といった感じですが、
できれば「○○だったら、業界なら自分が一番、俺に任せろ!」ぐらいでいたいものです。

また、差別化として扱える弁理士が少ない分野を前面に出すこともお勧めです(ただしマーケット性や潜在ニーズがあること)。
特殊な例ですと、特許権の財産的評価の経験がある、とか、東南アジア方面での実務経験や人脈がある、などです。

実際にその業務を行うかは別として、
「この先生は凄そうだ」「信頼できそうだ」といったインパクトを伝えられるかどうかが勝負です!

他士業との交流や他業種の経験のすすめ

営業ルートとしての定石は、他の士業の先生方と交流を深めることです。

各士業のクライアントは、
「△△の分野について、詳しい人をご存じだったら紹介してください」
こんな相談を士業の先生に持ち掛けてくるものです。

こうした相談や依頼に応えていくのですが、そこで大切なのが信頼性と人脈です。

いくら専門性や差別化要因を備えていても、対外的な信頼をアピールできなければ意味がありません。
また、人脈が乏しくてもダメです。
もちろん事務所で座って電話を待っているだけでは難しいでしょう。

なので、他士業の先生方に、上で述べた得意分野や専門分野を積極的にアピールしていきます。

また、開業当初でしたら、事務所の方向性「自分はこういう事業展開をしていきたい!」との意志を強く伝えていくのです。
大切なのは、先と同様、やる気や信頼性を印象付けることです。

あと、若い人を中心にお勧めしたいのが、通常の弁理士や特許事務所が直接的に扱っていない業務分野で1~2年経験を積むこと
例えば知財コンサル会社やWebマーケティング関連・IT企業などです。

要するに比較的ブルーオーシャンで、しかも知財に結びつきそうなマーケットのあるところを狙うのです。
そこで経験を積みながら営業ルートの開拓準備をしていきますただし興味や熱意があることが前提です)。

やや時間的に遠回りになりますが、人脈ルートと差別化要因の両方を獲得しやすくなります。

事務所ホームページは集客できる

自分の事務所を構えるに際しては、ぜひHPを開設してみてください。

個人的に立ち上げることも十分できますし、もちろん専門の業者に外注するのもOKです。
ツイッターなどのSNSと併せればさらに効果的でしょう。

今日では個人でも本格的なHPを簡単に作れますし、そのノウハウ等もブログやYou Tube動画で入手できます。
また、事務所が軌道に乗ってきて資金的に余裕がでてきたら、プロに依頼するのも一考です。
集客のためのWebマーケティングからSEO対策まで違ってきます。

特にHPでの決め手は所長のプロフィールを詳細に紹介することと、ブログをコンスタントに書くこと。

例えばプロフィールでは実績や経歴を交え、自分の専門分野等をアピールしていきます。

また、ブログでは知財に関するタイムリーなトピックや法令改正はもちろんのこと、
「この事務所に依頼したい」と思わせるような(事務所アピールになりそうな)テーマを書いていくと良いでしょう(面白そうな特許を明細書とともに解説する等)。

経験的に見るとポツポツと仕事に結びついた、というのが感想です。
例えば(稀なケースだが)超マイナー番組の出演の話がきたし、某芸能関係者から音楽配信の特許出願の依頼がありました。

ただし注意点が1点。

問い合わせの中には、タダで使うだけ使って自分で出願しようとする客(?)がいること。
何度もしつこく出願手続等について尋ねてきますが、無料相談は最初の一度きりと明示しましょう。

名刺交換会や異業種交流会への参加は慎重に!

これらの交流会を通じて人脈を築こうと考えている人もいると思います。

結論的には、全く無駄というわけではないものの、営業効果があるかは正直、疑問です。

交流会に集う人たちというのは、何かしらの売込みの意図があって集まってきます。

中には(表面的な)ギブ・アンド・テイクを盾に、保険や貴金属などを売り込んでくる(押し売りしてくる?)人がいるものです。
もちろん全員がそういうわけではないのですが、下手をするとカモにされてしまいます

やはり大切なのは信頼関係です。

その点、士業の先生方との交流は、ご自身の信頼もありますので、(下手な交流会参加より)遥かに安心と言えます。

特許事務所の経営の注意点

ここでは、営業以外での事務所経営の注意点を述べておきたいと思います。

事務所を軌道に乗せるまでの落とし穴・盲点といってよいかもしれません。

  • 売上が特定のクライアントに集中するのはマズイ
  • 低単価戦略・薄利多売は事務所を疲弊させる
  • 共同事務所ではパートナー選びは慎重に
  • 自宅開業は避けた方がよい

売上が特定のクライアントに集中するのはマズイ

昔からある個人事務所の中には、クライアントは大手1社のみ、なんてところがあります。

言わずもがなですが、当然、事務所経営は不安定になりますし、事実上、明細書作成の下請工場です(切られたり、撤退されたらオワコンです)。

ですので、事務所の売上が特定のクライアントに依存するのは避けるべきです。

特に売上の割合で言えば、1社あたり3割以内にした方がよいでしょう。

特に注意したいのが、大きなクライアントの案件を受注した時。
これに安住してしまいがちですが、こんな時こそ危機意識を持ちたいものです。

低単価戦略・薄利多売は事務所を疲弊させる

仕事欲しさのために過度な値引きをする事務所があとを絶ちません(特に新規開業事務所)。

実際、商標出願などでは1件1万円、なんてところもあるようです。

確かに単価を下げれば仕事を獲得できる可能性は高まりますが、行き過ぎるとマイナス面がでてきます。

単価は一度下げると上げるのが難しいうえ、数で勝負しようとすると仕事の質も下がらざるを得ないからです。

事務所が疲弊してしまう原因にもなります。

なお、単価については(非公開でも)紹介した顧客同士で情報交換されたりします。
そのため特定の顧客だけ安くすることが難しかったりします。

共同事務所ではパートナー選びは慎重に

弁理士の仕事の進め方については、明細書の作成にせよ、経営方針にせよ、各人の個性や流儀が表れます。
業務が一人で完結し得ることも、その理由の一つです。
もちろん弁理士の職人的な性格もあるでしょう。

なので事務所の共同運営に当たっては、相手パートナーとの関係には結構苦労させられるもの。

経営方針はもとより些細なことでも衝突へと発展する可能性があります。
トラブルのきっかけは、それこそ金銭面から事務員やコピー機の活用まで枚挙にいとまがありません。

特に仕事の流儀の違いからくる事務所内の軋轢はクライアントの信頼失墜につながってしまいます。
経営方針を巡る考え方の違いも同様です。

そうしたことを未然に防ぐ観点からは、各人が実質的に個人事務所として運営していくことも一考です(特に会計)。

ただし特許庁との関係では共同して代理人になっておきます。
万一の事態に備え、互いにカバーできるようにしておくためです

こうすることで共同事務所のリスクを回避しつつ、クライアントの信頼を維持することができます(クライアントも複数の代理人を望みます)。

自宅開業は避けた方がよい

基本的に自宅開業はお勧めしません(特に特許中心でいく場合)。

クライアントとの打ち合わせや公私の区分ということもありますが、やはりクライアントの信頼に関係してきます。

クライアントからすると、自宅開業は本当に印象が良くないのです(仕事に対する取組み姿勢から情報漏洩のリスクまで、いろいろと懸念材料がでてきます)。
自宅開業では仕事ださない、と明言するところもあるくらいです。

確かに、今日ではリモートワークやバーチャルオフィスも活発化しているようですが、
しっかりした事務所運営をするうえでは、やはりできる限り事務所用テナントを借りるべきでしょう。

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まとめ

弁理士の営業と事務所経営について解説してきました。

簡単にまとめますと次の通りです。

  • 営業では得意分野や差別化要因をアピールする
  • 他士業の先生と交流する
  • 事務所ホームページをフルに活用する
  • 売上が特定の顧客に偏らないようにする
  • 低単価戦略は事務所を疲弊させる
  • 共同事務所の場合はパートナー選びは慎重に

まだまだ色々とあるのですが、基本はこのくらいでしょうか。

弁理士の本来の就業形態は事務所経営ですので、自分の事務所を持ちたい方は、ぜひ前向きに取り組んでいただきたいと思います。

以上、参考にしていただけたら幸いです。

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