弁理士で独立を成功させるには|事務所開業の実情と注意点を徹底解説

プロフェッショナルのオフィス(個室)

近年、弁理士で独立を目指す人は多くはありません。

確かに顧客の開拓を含め昔のようにいかないのは周知のとおりです。
仕事や事業の安定性まで考えるとなかなか独立に踏み切れないところもあるでしょう。

他方で、資格を取ったからには自分の事務所を開業したいと思う人もいるはずです。
元々は代理人になるための弁理士資格なのですから。

そこでこの記事では、弁理士の独立の実情とその注意点について解説していきます。

誰にでも安易に勧められるものではありませんが、
やり方次第で十分可能であることを実感していただけたらと思います。

この記事の執筆者について

主な経歴:
特許事務所→公認会計士・監査法人→特許業界復帰→弁理士→独立(特許事務所・会計事務所経営)

特許事務所を営む父親の長男に生まれる。
その関係もあって学生の頃から特許業務に従事。
ところがある日、急にビジネスの広い世界を知りたくなり、会計士業界に飛び込む。
父親の健康事情及び自身の適性を考慮して特許業界に復帰、その後、事務所を承継。

目次

弁理士の独立開業の実情

  • 今日では独立は容易ではなく、開業弁理士は約4人に1人
  • 新規独立は実質的に商標事務所が多い

現状は上の通りです(開業弁理士の割合については日本弁理士会ホームページ「会員分布状況」を参照)。

しかも弁理士試験に合格した人が全て弁理士登録しているわけではありません。

会社員を中心に未登録者は相当数いるのです(せっかく登録しても数年内に業務廃止する人もいる)。

また仮に独立しても、特許の仕事を新規かつ継続的に開拓するのは難しく、
結果として新規開業事務所の多くが商標中心になりつつあります。

J-PlatPat(特許情報プラットフォーム) で特許出願の業務実績を調べてみると分かりますが、新規事務所の多くが年間1桁だったりします。

結果、商標出願で数をこなす業務運営を迫られ、売上も1千万からほど遠いものとなります(これでは事業運営としてはキツイ!)。

弁理士で独立・開業するのが難しい理由

  • 大企業は特許事務所を基本的に変更しない
  • 1人事務所はクライアントから見て不安
  • 中小企業の特許離れ
  • 国内出願の件数の減少

以下、コメントします。

まず大企業は特許事務所を基本的に変更しません
また仮に変更したとしても、いわゆる1人事務所に依頼することはないでしょう。

やはり1人だと不安定なうえ、業務もチェックされないからです。

すると次に中小企業がクライアントとして浮かびますが、特許は税務などとは違います。
特許は会社にとって任意のうえ、中小企業の経営者の特許に対する理解も不十分だったりします。

さらに業界全体として見てみても、単価の下落に加え国内出願の数は減少傾向にあります。

大手企業を中心に知財予算は削減され、出願も量から質へと転換してきているのです。

結果として独立より勤務の方が望まれる傾向にあると言えます。

筆者が垣間見た、昨今の弁理士の独立事情

ここでは筆者が見聞きした状況の一部を紹介したいと思います。

実は、今日でも弁理士の新規独立は(多くはありませんが)いるものです。
それこそ血気盛んに「我こそは」といわんばかりに営業活動に励む人もいるようです。

例えば(先代から交流のあった)所長弁理士達によると、どの事務所のクライアントにも新規開業弁理士達が営業に押しかけているとのこと(筆者のクライアントにも複数あった)。

皆さん、負けじと豪華な事務所パンフレットを置いていくそうです。
所長弁理士達はその光景を「まるで蟻がウワッと群がってくるようだ」と表現していました。

中には特許庁出身者もいたようですが、昔と違い審査官クラスでは特に有利に働かないようです。

特に驚かされるのが、新規開業組の提示する報酬単価の低さ。
くれぐれも(事務所を疲弊させる)価格競争には巻き込まれないように、と助言されるほどです。

弁理士にも古き良き時代があった<コラム>:
筆者はいわゆる事務所2代目ですが、
先代の頃は(個人事務所でも)大手企業から特許の依頼が普通にきたし、単価も特許出願1件当たり50万円などと請求できました。
ところが筆者の代になる頃は、時代はすっかり様変わり!
「他士業に転身などせず、大人しく会計士だけやってたら、違った人生があったかも」なんて密かに後悔したりして…

弁理士が独立開業した場合の年収について

弁理士の年収事情について簡単に触れておきます(新規開業を前提)。

  • 特許中心:年収1,500万~2,000万円
  • 商標中心:年収500万~1,000万円

特許中心では、月3~5件の特許出願と月2件の商標出願を想定しています。
商標中心では、月10件の商標出願と年5~10件の特許出願を想定しています。

少しショッキングな数字かもしれませんが、これでも事務所が軌道に乗れば良い方です。

現実は上でも述べた通り、特許をメインにするのは難しくなってきています。

ですので、実際は予備校の講師をしたり、(勤務時代のつてがあれば)そこでパート(外注)をしたりすることも考えられます(現実にはこっちを柱に据えることで、ようやく年収1,000万円に近づけると思われる)。

なお、弁理士の年収については以下の記事で詳細に解説しています。

弁理士が特許をメインに新規独立するには

特許中心でいくなら1人事務所では限界あり

先ほど、今日では商標事務所が中心になりつつあると言いましたが、もちろん特許中心でいくことも不可能ではありません。

ただし、コンスタントに特許出願を受注するとなると、扱う技術レベルが上がるとともにクライアントからの要望も高くなってきます。

具体的には、専門性や人員体制(組織体制)が求められるのです。
外国出願への対応も同様です。

言い換えれば、一人で全てをこなすには限界がでてきますし、クライアントにとって(1人事務所は)懸念材料になってきます。

開業当初の若い頃はあまり感じないことですが、
それなりのレベルの特許を1人でやっていけるのはザックリ言って50代まで

それ以降は、多くの弁理士が実務から経営(あるいは後進の育成)に自分の仕事をシフトさせていきます。

ですので、特許中心でいく場合は、早いうちに1人事務所を卒業し、共同事務所もしくは事務所の組織化を図る必要がでてくるのです。

特許では得意分野・専門分野を明確にする

中小企業のクライアントから幅広く様々な案件を引き受けることも無くはありません。
例えば、それほど難しくない案件(日用雑貨品など)を幅広く手掛けていく、などです。

ですが(昔と異なり)中小企業からの特許案件を継続して受けることはかなり厳しくなってきています。

また、継続的な出願案件では、先ほど申し上げた通り専門性が問われてきます。

特にしっかりとした出願を目指すクライアントは、代理人の得意分野や専門分野に強い関心を示します。

同様に仕事の開拓(営業)でも、自分の専門分野を強くアピールしていくことが求められるでしょう。

「特許出願やってます」とか「特許なら何でもやります」などでは全く売り込みになりません。

どこまでクライアントのビジネスに関与していくか

出願業務だけだと、なかなかピンとこないものですが、実は、単に広く権利化するだけではビジネスとしては不十分だったりします。

何でもかんでもランダムに出願してしまうと、後々かえって好まざる事態を招来してしまうことさえあるのです。

あくまでもクライアント企業の最終的な目的は収益の最大化。
特許はまさにこのための手段です。

例えば、製品戦略やマーケティング戦略が、発明の要旨や特許取得の順序に関係していきます。
事務所としても、こうした知財業務の入り口から関与できれば理想的ということです。

ただ、言うはやさしく実践は難しい。

ですので(明細書実務ばかりでなく)特許の背後にあるビジネスについて会話する機会を積極的に持ちたいものです。

また(事務所勤務とは別に)1~2年くらい企業で知財実務を経験してみるのも良いでしょう

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弁理士で独立開業する際の注意点①<実務編>

特許庁への手続業務は大丈夫か

弁理士実務は明細書作成だけではありません。
特許庁への手続き代行という複雑な仕事(事務)があるのです。

例えば年金管理や各種書類の提出です。
これらは極めて重要で、特に期限徒過をやってしまうと、権利等がすべてダメになりかねません(損害賠償にもなり得る)。

また、結構面倒なもので、届出の印鑑一つとっても経験していないと戸惑います

そういえば先代(筆者の親父)も印鑑を巡っては事務所職員達に意地悪な質問をしていたような(今ならパワハラと言われる?)。

ところで、この対庁手続きですが、大手事務所では業務が細分化されていて(明細書を作成する部署とは)別の部署でやっていたりします。

ですので、将来独立したい方は、大手事務所よりも中小個人事務所の方がオススメです。
事務所にもよりますが、対庁手続きも含めて幅広く業務を経験できるからです。

中小企業でも外国出願はある

意外に思われますが、中小のクライアントでもPCT出願などの外国出願があります(近年は欧米よりもアジアが激増中)。

加えて、現地の海外代理人とのメールやファックスを通じてのやり取りも普通にあります。

ですので、PCT出願等の外国案件は是非とも一度は経験しておきたいものです(その意味でも、これまた幅広く経験できる中小事務所が良い)。

なお、現地代理人の中には日本語で対応してくれるところはありますが、絶対ではありません。
ですので英語力はある程度必要になってきます(ただし読み書きが中心)。

弁理士で独立開業する際の注意点②:<経営・営業編>

次は弁理士が苦手とする(?)事務所の経営・営業についてです。
ここでは簡単にまとめておきます。

  • 営業は実務や得意分野とリンクして
  • 他業種・他士業と積極的に交流する
  • 事務所ホームページをフル活用する!
  • 特定のクライアントに売上げが依存しないように
  • 低単価戦略・薄利多売は事務所を疲弊させる
  • 共同事務所ではパートナー選びは慎重に

これらの事項は、独立開業時はもとより、その後の運営にも欠かせないものになってきます。

詳細は以下の記事でも扱っていますので、ご興味のある方は参考にしてみてください。

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最後に

弁理士事務所の独立開業について、その実情と注意点を中心に解説してきました。

今日では弁理士での独立開業はなかなか厳しいものになってきています。
おそらく士業の中で最も独立しづらい部類に入るでしょう。

他方で、弁理士の心掛けとやり方次第でまだまだ独立開業できるというのも本当です。

確かに、運・不運や経営に対する適性も関係してきますが、本気で独立したい人にはチャレンジする価値は十分あると思います。

また、明細書がしっかり書ければ、万一不本意の結果でも、転職(事務所勤務復帰)は十分可能です。

ですので、ご興味のある方は、当記事を参考にしていただき、是非オーナー弁理士を目指して頑張ってもらいたいと思います。

期待しております。

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