弁理士になるには、弁理士試験に合格する他に、特許庁で審査官などを経験するルートがあります。
そこで湧いてくる疑問が、
特許庁出身者(OB)と弁理士試験組(事務所経験者)では、どっちが優れている?
といったもの。
事務所経験者を中心に、特許庁OBの実務能力に懐疑的な人もいるでしょう。
そこで、特許庁出身者と弁理士試験組の両者を念頭に、優秀な弁理士像について考えてみようと思います。
なお本記事は、筆者の個人的見解や体験に基づくものであることをご了承ください。
事務所経営弁理士(元審査官)だった父親の長男に生まれる。
そうした背景もあって、子供のころから弁理士はもとより、審査官や審判官を身近に感じながら育つ。
事務所承継後も含めて、役所OB弁理士との交流も多い一方、業界の裏事情に接することも少なくない。
現在は実務の第一線を退き、独自の研究および執筆活動に従事。
特許庁出身VS弁理士試験組
特許庁出身(OB)
特許庁OBとしての影響力はいかに
特許庁出身の弁理士が代理人なら、特許審査等で有利になる?
こんな疑問や期待が今でもあるようです。
確かに昔は、OBであることが彼らの転職に有利に働いたり、独立の際の顧客獲得につながったりしました。
また、審査といえども人間のやることであり、微妙なところが多々あったりします。
役所出身であることが全く影響しない保証はありません。
個々の審査官の内心まではわかりませんしね。
もっとも、審査官クラスがそうした影響力を昔のように発揮し得るかと言われると、
今日では難しいのではないか、というのが正直なところです。
現に今日では審査官出身といえども、新規開業の際の顧客開拓は容易ではありません。
では、上級職である審判官クラスになるとどうでしょうか。
大企業の顧客の確保は昔のようにはいかないものの、
人によっては(例えば役所でも影響力のあった大物OBなど)はもしかしたら…です。
ただしこの手の話は、例えば税理士(国税当局OB)でもありますし、それほど特別なことではない気がします。
特許庁OBの明細書作成能力のレベルは?
さて、問題はこちらの方でしょう。
以前は、特に試験組から役所OB弁理士(の書いた明細書)についてしばしば厳しい批評があったものでした。
「審査官上がりの連中はプライドばかり高く、肝心の明細書ときたら~」といった調子です。
確かにOB達は事務所等で明細書を書く修行というものをしていませんし、フィードバックを受けたことも無いでしょう(彼らの役所時代の主な業務は進歩性等の判断ですから)。
明細書作成については事実上、独学で身につけていますので、流儀も人によってバラバラです。
結果として、彼らの間で明細書の質に差異が生じているのは否めません。
そもそも読むことと自分で作成することとは次元が違うことから、
厳しい修行を経てきた試験組が上記の評価に傾いていくのはやむを得ないとも言えるでしょう。
この辺については後述の個別ケースにて、さらに具体的に見てみたいと思います。
弁理士試験組
特許庁OBとの対比を念頭に、実務能力について簡単にコメントしておきます(特許事務所勤務を前提とします)。
実はこっちも特許庁出身者と同様にばらつきがあります。
原因は本人の資質(適性)の問題と指導する側の流儀(手本)の問題があります。
指導者との相性もあるでしょう。
特に明細書の流儀に唯一絶対のものなどないですし、これで明細書が完璧(満点の神レベル)などというものもありません。
ただし、客観的にみて「クライアントにお金を請求できる」レベルは存在します。
プロかアマかの分かれ道となるところですね。
例えば、定評のある事務所(の所長)から丁寧な指導を少なくとも1年は受けて、
その指導者からのダメ出しが無くなってくればプロ入りは近い、ということです。
いずれにしても、まずはクライアントから信頼され、胸を張ってお金が取れるようになることが肝要と言えるでしょう。
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特許庁出身の弁理士の具体的ケース
ここでは、筆者が知っている特許庁出身者の具体的なケースを紹介してみます。
事務所経営弁理士A(筆者の父):
T大卒で審査官出身。
手前みそになりますが、明細書の質では我が国トップクラスだったと思います(ただし文体がやや古風で、今では受け入れられないだろう)。
加えて、仕事量にしても、通常の弁理士の倍はこなしていた感じです。
ところが、あまりに出来過ぎたため、他者のアラがどうしても見えてしまい、それがきっかけで(クライアントも含め)衝突やトラブルが絶えませんでした(完璧主義っていうやつです)。
本来の弁理士(職人)としては超優秀でも、ビジネスマン(商人)としては??と言わざるを得ません。
事務所を引き継いだ際の、事業立て直しでは本当に苦労させられました。
事務所経営弁理士Mさん:
役所は長く審判官まで歴任。
この方も大変優秀なうえ(弁理士Aの知り合いで、これまたT大卒)、海外勤務経験もあり。
退官する際、大手企業のクライアントをいくつも抱えて独立されました。
審判官までいくと、クライアントを確保しやすく、かつ影響力も小さくないと感じたものです(今は事情が変わってきているかも?)。
ただし、ご本人は物静かな学者タイプであり、かつマイホームパパでもあるせいか、やり手の経営者とは一線を画していたのが印象的です。
事務所経営弁理士Yさん:
日中、企業(メーカー)で働きながら、夜間の大学工学部を卒業。
その後、特許庁審査官を経て独立されました。
どちらかというと(失礼ながら)平均的な弁理士といった感じですが、明細書の質は決して低いものではありません。
むしろ、堅実に仕事を進められ、クライアント(大手メーカー)の信頼も厚かったように記憶しています。
事務所勤務(修行)が必ずしも絶対条件ではないことを率直に示しているケースです。
他にもOBの中には
- 米国ロースクールへの留学を経て現地の法律事務所パートナーになられた方
- 東南アジア勤務を経て現地で事務所を立ち上げられた方
- ジュネーブ勤務(たしかWIPOだったと思う)を経て大学で教鞭をとられた方
などがおります。
筆者の周辺では優秀な方が多いこともありますが、「審査官上がりの連中は○○ばかり!」との見方は現実的ではないといえます。
確かにOBの書く明細書の中には首を傾げたくなるものもありますが、それは試験組(事務所経験者)でも同じこと。
なので、(今はあまりないと思いますが)役所OBと試験組の優劣についての議論は、実質的に不毛ではないでしょうか。
結局、優秀な弁理士ってどんな人?
結論はシンプルながら次の通り。
- 明細書の質と仕事のスピードの両方が担保されている
- ビジネスマインドやマネージメント力がある
特許業界では昔と異なり、より一層のスピードが要求される一方、単価が悲しいほど低くなっています。
他方で、いくら単価が安いからと言って、明細書の質が「安かろ不味かろう」でよいはずがありません。
また、弁理士として成功している人達は、クライアントとのコミュニケーション能力やマネージメント力が必ずと言ってよいほど長けています。
そこで凡人が優れた弁理士に一歩でも近づくには
- 弁理士としての適性の見極め
- 自分に合った良き手本
- 弁理士本来の技能とビジネスマンとしての能力のバランス
が不可欠と考えられます。
結局、各人が自分の適性を見極めたうえで、それなりの指導やフィードバックを受けるのがプロへの近道ということです。
最低限の仕事の質を確保するためです。
また、3番目については、今日では最重要と言ってよいでしょう(ここが欠けると上で紹介した弁理士Aのようになりかねない)。
そのため転職エージェントも企業経験を積むことを盛んに推奨しています。
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最後に
弁理士は優れた明細書が書ければよい、という時代はとうの昔に過ぎ去りました。
仕事の質を維持向上するだけの余裕やモチベーションを持てるか不透明でさえあります。
また、今日では、事務所等で厳しい修行をしてきたのに、独立だって容易ではありません。
結局、本来の弁理士の職人的な技能とビジネスマンとしての能力の両方が求められるのです。
こうした点につき、ご自身の適性と併せて考えていただけたらと思います。
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