この記事を読まれている皆様は、資格、特にダブルライセンスについて関心や疑問をお持ちのことだと思います。
例えば
- ダブルライセンスってホントに意味があるのだろうか
- プラス面だけでなくそのマイナス面は?
- どんな資格の組み合わせが効果的なの?
- 実際の仕事や業務との関係は?
などです。
確かに単に資格を複数取っただけでは資格マニアで終わってしまいかねません。
他方で、適切にダブルライセンスを狙えば、資格の価値を格段に高めることも十分可能です。
そこでこの記事では、効果的なダブルライセンスの取り方と注意点について解説していきます(士業資格が中心になります)。
尚、本記事は、筆者の経験及び個人的見解に基づくものであることをご了承ください。
略歴:特許事務所→公認会計士→監査法人・会計士事務所→弁理士→独立(会計事務所・特許事務所経営)
特許事務所を経営する父親の長男に生まれる。
そうした背景もあって学生の頃から知財に関与していたが、ある日、心機一転、会計業界に飛び込む。
その後、父親の健康事情から家業を承継するとともに会計事務所を開業。
長期にわたり複数の士業に携わりながら、様々な事務所や実務を経験する。
ダブルライセンスのメリットとデメリット
メリット
最初はメリットです。
- 資格の相乗効果が期待できる
- 差別化できる
資格相互間の業務の関連性による相乗効果です。
例えば、税理士と不動産鑑定士では、不動産分野で密接に関係します。
鑑定士は不動産の鑑定のプロですが、税理士の資産税業務では不動産等の財産評価が重要になってきます。
つまり不動産鑑定と税務の両方の知識が必要になるのですが、片方だけですと、どうしてもサービスとしての価値に限界がでてきます。
事案の検討に際して別の専門的視点が必要になってくるからです。
結論として、密接関連性があれば、それぞれの資格の知識や見識が結びつき、より付加価値の高いサービス提供が実現するというわけです。
複数の資格を有することで、他者と異なる特色を打ち出すことができます。
例えば、いわゆるワンストップサービスの可能性や利便性を高め、業務の差別化が図れます(注:ワンストップサービスとは、一箇所で幅広くサービスを提供すること)。
ここで大切なのは、先ほど述べた付加価値の高いサービスを提供して顧客のニーズに応えていくことです。
何でもかんでもワンストップすればよい、というわけではありません。
また、どのように差別化が図られ、自身のビジネス等に有利に働くかは、資格の関連性の他、実務経験、さらには活動するメインフィールによって変わってきます(後述)。
デメリット
ダブルライセンスには、プラス面以上にデメリットや注意すべき点が多々あります。(ダブルライセンスの意味がなくなるどころか、おカネと時間の無駄になることさえあり得ます)。
そこで、まずは、そうしたデメリット等をまとめて指摘しておきます。
- 資格間に関連性が薄いとメリットが弱まる
- 中途半端になりがち
- 経済的、時間的コストの問題
- 実務経験が不可欠である
先ほどダブルライセンスのメリットを挙げましたが、その取り方を誤ると資格の効果や意味が薄れてしまいます。
例えば、社会保険労務士と不動産鑑定士の組み合わせでは、労務と不動産では関連性が見出しづらいです。
こうした関連性が薄いところでは相乗効果は期待できず、ダブルライセンスのメリットが弱まってしまうのです。
ですので、一般的に資格間の関連性が薄いダブルライセンスの取得は慎重であるべきです。
資格間の関連性が薄い場合、単に相乗効果が期待しづらいだけではありません。
かえって業務効率が落ちたりして中途半端になってしまうことすらあり得ます。
確かにワンストップで行うことのメリットも考えられますが、その場合は他の有資格者と連携するかたちの方が望ましいかもしれません。
一人で複数の異なる業務をこなしたり、それらに関する技術や知識をアップデートしていくことはなかなか容易ではないからです(資格によっては法令等が頻繁に変わり結構大変です!)。
仮に可能だったとしても(サービスの品質に関する)顧客側の信頼に影響することもあります。
顧客側にとっても中途半端に映ってしまうことが否定できないのです。
顧客ファーストの視点を忘れないでいただきたいと思います。
弁護士をはじめ大型の国家資格の取得は、大変難関だったり時間やお金がかかったりします。
資格取得後も十分な実務経験を積むには、さらに時間がかかります。
他方で、独立にせよ就職にせよ、年齢的な問題は多かれ少なかれついて回ります。
この辺りもしっかり念頭に置いておくべきです。
仕事をする上では、資格(試験合格)と共に実務経験が必要です。
それはダブルライセンスでも基本的に同じです。
少なくとも、自分が扱うメイン業務については十分な実務経験を積んでおく必要があります。
その点、我が国の資格試験は、必ずしも実務能力を担保するものではないので注意が必要なのです。
両方の資格で全く実務経験が無ければ、ただの資格マニアです(いわゆる〝ハク″としての資格は、顧客にとってほとんど意味がありません)。
資格のタイプとダブルライセンスの組み合わせ
先ほど、資格の関連性がダブルライセンスにとって重要であると言いました。
この関連性をより明確にするためには、資格のタイプを把握することが有効です。
以下では、この資格のタイプの組み合わせを通じて、資格の相互関連性や相乗効果の可能性を考えていきます。
資格のタイプを知る~ダブルライセンスの前提~
ここではまず、資格を、その業務が広範囲にわたるものであるか、あるいは相対的に狭く特殊なものであるか、の2種類に大雑把に分けてみたいと思います(注:個人的見解に基づく分類であり、絶対のものではありません)。
●広範囲にわたるもの(以下では<広>とします):法律、会計・税務、経営全般
企業に必ず関係し、その取り扱う業務分野が広範囲にわたり得るもの(資格によってはゼネラリスト性を備えるものもある)
弁護士、公認会計士、税理士、行政書士、中小企業診断士
●相対的に狭く特殊なもの(以下では<狭>とします):不動産、登記関係、人事・労務、知的財産、IT・情報関連
企業等で必ずしも常時関係していくるものはなく、或いは常時関係してきても業務内容が相対的に特殊であったり、扱える仕事領域が限定的だったりするもの(つぶしがききづらく相対的にエキスパート性を備えるもの)
社会保険労務士、不動産鑑定士、宅建士、司法書士、弁理士、情報処理技術者
ダブルライセンスの組み合わせ方
以上のように分類した場合、次のような3つの資格組み合わせのパターンが考えられます。ダブルライセンスの基本的な骨組みです。
- <広>×<広>
- <広>×<狭>
- <狭>×<狭>
以下では、この組み合わせパターンに沿って具体的な資格の組み合わせを検討していきます。
ダブルライセンスの具体例
<広>資格×<広>資格の例(ダブルライセンスのパターンその1)
◆弁護士×公認会計士
大型国家資格どうしの組み合わせです。
法律と会計は、企業活動にとってどちらも不可欠であり、かつ両者は密接に関連します。
公認会計士の仕事は常に法令絡みですし、弁護士業務でも、企業案件を扱うときは財務データが基礎資料になることが多いです。
結果として両資格は非常に相性がよく、資格の相乗効果は抜群です。
ただし両資格とも取得が大変難しく、それなりに時間とコストがかかります。
その資格取得に際しては、先に会計士を取ってから法科大学院等に行き弁護士資格を取ることが一般的です。その逆はあまりみかけません。
◆税理士×中小企業診断士
税理士は中小企業の会計や税金を扱います。
また、その会計や財務を通じて常に中小企業の経営を見ていくことになります。
他方、中小企業診断士は、企業のコンサルティング的な仕事をしますので、税理士との相性はとてもいいといえます。
中小企業の経営者は、税理士に対しあらゆる経営の相談を持ち掛けてくることがあります。
そんな時中小企業診断士の資格があれば、きめ細かなサービスやアドバイスができるでしょう。
結構おススメ!
◆税理士×行政書士
行政書士は、官公署に提出する書類の作成から契約書の作成まで幅広い業務を行います。
特に両者ともに会社設立から関与し、しかも 様々な手続きをする際、一箇所で幅広くサービスを提供することが可能です(ワンストップサービスができます)。
なお、税理士は無試験で行政書士の登録ができます。
<広>資格×<狭>資格の例(ダブルライセンスのパターンその2)
◆税理士×不動産鑑定士
税理士は、幅広く税務に携わります。その中でも資産税分野では不動産を主に扱います。
他方、不動産鑑定士は、土地の鑑定評価等をおこないます。
したがって両者には不動産分野を中心に業務の関連性が強く認められます。
不動産鑑定士は、その数が他の士業に比べ少なく、非常に稀少価値を有する資格です。
差別化の点でも強みを発揮できるといえましょう。ただし、その試験難易度は非常に高いといえます。
◆社会保険労務士×行政書士
社会保険労務士は、人事・労務の専門家です。
これら関する各種書類作成およびそれらの提出手続代行をします。
行政書士は、会社設立や各種許可申請に関わりますので、企業のスタート時から関与できます。
したがって顧客開拓という点からみても、社会保険労務士をはじめ多くの独立開業資格と相性がいいといえます。
この組み合わせでも、税理士×行政書士と同じくワンストップサービスができるのが強みです。
◆税理士×社会保険労務士
税理士は税務の専門家であり、社会保険労務士は人事・労務の専門家です。
どちらもお金に関係し、しかも、給与や保険を通じて密接不可分です。
資格の相乗効果という点では両資格の相性は最高といえます。
もちろん、ワンストップサービス、バッチシです。
顧客にとっての利便性も最高と言えるでしょう。おススメ度ナンバー1!
◆社会保険労務士×中小企業診断士
一つの業務の在り方としては、人事・労務関連の業務をメインにしつつ、幅広く経営アドバイスも行っていきます。
また、逆に中小企業向けに広くコンサルティングをしつつ、特に人事等に関して深いアドバイスを提供することも考えられます。
労務面で強みを打ち出すのです。
このように社労士資格は、人事という特定の分野ながらも〝ヒト″という極めて重要な要素を扱うため、特に<広>資格との相性は非常に良好といえます。
<狭>資格×<狭>資格の例(ダブルライセンスのパターンその3)
◆不動産鑑定士×宅建士
宅建士は、不動産取引に関する専門家です。
鑑定士はどちらかというと鑑定理論が中心であるのに対し、宅建士は実際の取引を扱うことから実務色、現場色が強いといえましょう。
すなわちこの資格の組み合わせでは、不動産という共通のものを扱いつつ、理論と実務の両輪を備えるため、ダブルライセンスの相乗効果が期待できます。
◆社会保険労務士×不動産鑑定士
一方は人事労務を取り扱い、他方は不動産の鑑定を業務とします。
両者には関連性はあまり認められずこの組み合わせはレアケースといえます。
先の不動産関連資格を除き、<狭>×<狭>の組み合わせでは、資格間の関連性がそれほど強くみられません。
したがってこれらの資格の組み合わせは慎重に検討すべきといえましょう。
ダブルライセンスでは、どちらの業務をメインにするか
最初にポイントをまとめておきます
- <狭>資格が差別化の武器になりやすい
- <狭>資格は橋渡し的役割にもなり得る
- <狭>分野をメイン業務にする場合は慎重に
<狭>資格を差別化の武器にする
複数の資格を取得する場合、どちらの業務がメインになるかに注意します。
業務の主従が差別化や(顧客にとっての)付加価値に大きく影響してくるからです。
確かにハーフ&ハーフも無くはないのですが、 顧客のニーズ、資格分野の特殊度合、実務経験、どちらが上位資格か、さらには資格取得に至った経緯等、によって、通常、業務のウエイトに差(業務の主従)が生じてきます。
この業務のウエイトの差を資格の取り方とリンクさせます。
例えば、先ほどの<広>×<狭>の分類で見ますと、<広>分野をメインにして、その中で自分の強み分野として<狭>を武器にしていくことが考えられます。
特に<広>分野で仕事をしていくと、さらなる専門性や得意分野が必要であると感じるようになってきます。
すなわち「この分野なら俺が一番!俺に任せろ!」と言えるぐらいの得意(専門)分野です。
こういった分野を通じての差別化を図るために<狭>の資格を狙うのです。
資格間の橋渡し的役割も期待し得る
<広>資格の業務をメインにした場合、<狭>の資格を差別化の武器にしていくということでした。
実は、<狭>分野の資格は、その<狭>分野との間の橋渡し的役割としても十分活かすことができます。
<狭>分野の専門性が高いと、その<狭>分野の専門家たちとのコミュニケーションが難しくなってきますが、そこで出番というわけです(この時点で既に頭一つ飛び出しています)。
筆者のケースですが、公認会計士と弁理士(もしくは知財関係者)の間で色々と仲介をさせていただいたことがあります。
典型的な<広>と<狭>の組み合わせです(会計士が前者、弁理士が後者です)。
会計士の活躍フィールドは非常に広いのですが、業務上、知財や特許の話がでてくるたびに皆、四苦八苦しているようでした。
誰も内容を理解できないのです(当然ですが)。
そこで当時、筆者は、他の会計士や経理関係者の方々に特許や商標の基本についてかみ砕いて説明をしたものです(これがまた結果的に営業活動も兼ね、ビジネスチャンスにもつながりました)。
まさに、公認会計士と弁理士の橋渡しそのものです。
<狭>分野をメイン業務にする時は、業務関連性と顧客ニーズに気をつけて
以上とは逆に、<狭>分野をメイン業務にしつつ、<広>分野でも広くサービス提供していく、ということが考えられます。
具体例としては、中小企業診断士<広>×社会保険労務士<狭>。
労務士を本業にしつつ、(診断士として)コンサルティングの広く行っていきます。
ただし、<狭>の分野によっては、あまりにも高度に専門的だったり特殊だったりするために、<広>分野との関連性が薄れたり、顧客のニーズから離れてしまったりすることがあります。
例えば、専門性の高い分野でのサービスを期待しているのに、いきなり「経営コンサルもできますよ」といわれても、顧客からすると???となってしまいます。
ですので、<狭>分野をメインにする場合、特に業務の関連性や顧客ニーズ等を慎重に見極めることが大切です。
筆者の雑感ですが、<狭>業務をメインにする場合は、<広>資格は素養的なものにとどまるような気がします。
決してマイナス要因ではないのですが、<広>資格を通じて顧客に具体的な付加価値を提供できるかとなると、現実的には難しいようです。
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ダブルライセンスのまとめ
ダブルライセンスについて解説してきましたが、いかがだったでしょうか。
その効果的な取得のためには、資格の関連性と顧客のニーズといった2つの視点がなにより大切です。
そこでは、先ずは資格のタイプを把握し、どのような組み合わせが有効かであるかを見極めてみます。
また、同時に実務経験や資格取得のための時間的金銭的コスト、さらには業務のウエイト(主従)までも念頭に入れる必要があります。
解説は以上ですが、これらの点を踏まえつつ、適切かつ慎重に複数の資格取得を目指してほしいと思います。