徹底比較!公認会計士vs弁理士|ダブルホルダーの視点で迫ります。

公認会計士と弁理士。

それぞれ、世間一般では社会的地位が高く、高収入とされる難関国家資格です。

他方、両資格は水と油のようなところがあり、両者の接点はなかなか見出しづらそうです。
互いに別世界の人達と感じる人もいるでしょう。

そこでこの記事では、両資格を徹底比較するとともに、そのダブルホルダーの実情にも迫ってみたいと思います。

これらの資格に関心がある人は参考にしてみてください。

ご注意:
当記事は筆者の経験に基づく個人的見解であり、かつ解説は厳密性よりもイメージしやすさを優先しています。
また、両資格が全く異なることから比較自体に多少の無理が伴いますがご了承ください。

この記事の執筆者

略歴:特許事務所→公認会計士→監査法人・会計士事務所→弁理士→独立(会計事務所・特許事務所経営)

特許事務所を経営する父親の長男に生まれる。
そうした背景もあって学生の頃から知財に関与していたが、ある日、心機一転、会計業界に飛び込む。
その後、父親の健康事情から家業を承継するとともに会計事務所を開業。
長期にわたり複数の士業に携わりながら、様々な事務所や実務を経験する。

資格:公認会計士・税理士・弁理士

目次

公認会計士vs弁理士①:全体イメージ

ここは5段階評価で比べてみます(筆者の独断と偏見です)。

公認会計士弁理士
知名度53
収入43
職人気質3特5
転職52~3
独立4~51~2

知名度

知名度については公認会計士の方が高いと思います。

結婚相談所のパンフレットなどでも、公認会計士は理想のパートナーとしてしばしば取り上げられていますね。

また、社会的地位や信頼についても、相対的には会計士に軍配が上がるような気がします(後述する「責任」も併せて参照してみてください)。

弁理士は、一般の人に職業を言っても「エッ?税理士さん?」や「便利屋?」なんて反応が多かったりして…

注:決して弁理士の社会的地位や信頼が低いというわけではありません。

年収

今日では会計士の方が恵まれていると言えます。

20代のうちに年収7~800万円くらいになりますし、真面目にやっていれば30代前半で1,000万円に十分到達します(ただしその後は伸び悩む)。

対して弁理士は(昔は良かったのですが)状況が180度変わってしまいました。

特にプレーヤー(狭い意味での実務)に徹するとなると、年収800万円が上限です(新規独立となると更に厳しい)。
1,000万円の大台に乗せるには、マネージメントへの関与が求められます。

平成の中頃までは弁理士はメッチャ稼げたのですが、とても残念です。
昔は、例えばドイツや韓国などでも、弁理士は開業医以上に税金を納めていたとか。

また、会計士試験合格者(新人)の年収が500万円以上なのに対して、特許未経験者のそれは400万円に届くかどうか。
文字通り見習いからスタートです。

ただし、会計士は決算期や金融庁への対応時などを中心に、弁理士よりハードワークになりがちです。

職人気質

まず会計士ですが、誰に対しても紳士的であり、良好な関係を築くことが得意そうです。
マネージメント能力の資質に富んでいると言えるでしょう。

他方の弁理士は自分の技に対する矜持が思いっきり外に表れます。

弁理士の実力は、各人の書いた明細書(仕事の成果物)に全てが表れますし、基本的に弁理士としての市場価値もコレで決まってきます。

総じて会計士が比較的ゼネラリストや経営者に近いイメージであるのに対して、弁理士はエキスパートで、いわゆる職人というイメージです

弁理士は会計士を敵対的に見ている?<コラム>
両ホルダーの立場から感じたことなのですが、
まず会計士側は弁理士のことを、大方、好意的かつ尊敬の眼差しで見ていました。

他方、弁理士側はといいますと、それとは少し違っていたように記憶しています。
(特に若手を中心に)会計士に対しては、ある種の感情がムキだしでした。

転職

つぶしのきく度合からしても、会計士が有利です。

もちろん弁理士も実務がこなせれば(明細書が書ければ)転職に困ることはないのですが、活躍できる分野には限りがあります。

独立

まず会計士です。

会計やおカネはあらゆる業種、事業体に関係します。
しかも会計士の活躍フィールドは限りなく広く、独立のしやすさは士業№1と言ってよいでしょう。

ただし会計士が個人で独立する場合は、税理士として活動するのが一般的です(業務も監査ではなく税務が中心となります)。

次に弁理士です。

弁理士が個人で独立する場合は、業務としては特許事務所に勤務していた場合と同じです。
後述しますが、仕事の単位が個々人で完結するため、大手事務所でも個人事務所でも、やることは同じになるのです。

もっとも、特許業務はつぶしがききづらく、また顧客層も限られることから、今日では独立は少数派となっています。

公認会計士vs弁理士②:資格取得編

公認会計士弁理士
主な受験者層早慶私大
主に文系
東大京大
主に理系
試験難易度特難
実務補習・修習3年1~2か月
試験と実務の関係大いに関係する殆ど関係なし

受験者層

会計士試験の受験者層は、早慶などの、有名私大が多く、20代の若年層が中心です。

また、仕事をしながらではなく、受験に専念する人が殆どです(ちなみに論文の学生合格率は50%に近い)。

他方、弁理士は東大京大等の旧帝大卒(しかも理系の大学院修了者)が多く、年齢層は30代が中心(※近年は20代も増えてきています)。

しかも大部分の方が企業や特許事務所に勤務しながらの受験勉強となります。

試験難易度

会計士試験は、短答(年2回実施)と論文があり(この二つが公認会計士試験と言われるもの)、
さらに実務研修等を挟んで(3年後に)修了考査があります。

対して弁理士試験は、短答、論文、口述の3本建て。

ザックリですが、両試験の総合的な合格率はどちらも5~10%ぐらいです(年度によって結構変動します)。

また、両試験とも近年は難化傾向にあります。

先日、超久しぶりに両方の試験問題に取り組んだのですが、結果は…とても口には出せません。

なお、難易度比較についてですが、受験層(地頭の良さ)や勉強の環境まで考慮すると、(世間一般の評価とはズレますが)弁理士の方がやや高いのでは、というのが筆者の感想です。

実務補習・修習

会計士は、正式に資格を取得するためには、国家試験合格後、3年間の実務補習(さらに3年以上の実務経験)が必要です。
これを満たしたうえで、修了考査に合格することで、晴れて公認会計士登録ができるようになります。

全て合わせると、最短でも4~5年はかかります。
長いですね(これも難関資格と言われる所以です)。

対して弁理士は、試験合格後に実務修習があるのですが、会計士に比べると大変シンプルです(修習期間は1か月ほど)。
合格した翌年4月には殆どの方が弁理士登録できるようになります。

ちなみに筆者の頃は、会計士の実務補修は1年、弁理士の実務修習は(集中コースを選んだので)1週間ほどで修了でした。

試験と実務の関係

結論的には、会計士試験の勉強の方が実務に結びつきやすいと思います。

対して弁理士は、率直に言って試験勉強と実務は別物(実務については後述します)。

また、会計士の場合、仕事は試験に合格してからスタートしますが、弁理士では殆どの方が先に実務をスタートさせます。

さらに具体的に言うと、会計士の監査調書の作成実務弁理士の明細書作成実務については、その習得の仕方が異なります。

前者は、事務所のOJTプログラム(マニュアルや上司のレビュー)に沿っていけば、それなりのものができるようになりますが、後者は必ずしもそうはいきません。

弁理士の場合は、(たとえて言うなら)ピアニストや陶芸家が巨匠に師事して、その匠の技を身につけるようなもの、と言ったらよいでしょうか。

ただし近年では大手特許事務所を中心に、ある程度の品質を保ちつつ量産的に仕事を進められるようになってきています。

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公認会計士vs弁理士③:実務編

公認会計士は監査法人勤務を、弁理士は特許事務所勤務を前提とします。

公認会計士弁理士
仕事内容会計監査特許出願
立場独立の監査人代理人
仕事の遂行形態チーム単位個人単位
制度改正と役所対応大変普通
責任無限大顧客の喪失
国際度非常に高い非常に高い

仕事内容

会計士の仕事は、上場企業などの財務書類や決算をチェックすることです。

そのために特に現場では、そのための証拠収集と監査調書の作成を行います。

これらの書類等は集約されて上層部に伝えられ、最終的には決算書全体の適否について結論を出していきます。

この結論を示したものが「監査報告書」と呼ばれるもので、仕事の成果物です。
これが信頼に対するお墨付きとなり、上場企業等は市場からおカネを調達できるのです。

他方、弁理士は、特許を取得するための申請書類(明細書)の作成が中心です。
しかもこれが仕事の成果物そのものです。

これだけ聞くと「な~んだ、弁理士って、ただの代書屋さん?」と思われがちですが、その専門性はビジネスの中でも最高レベルです。

最先端の技術内容と難解な法律要件(進歩性などの特許要件)が複雑に絡むため、一般のビジネスマンはもちろん、弁護士でさえも立ち入ることは難しい領域となっています。

しかもその書類作成には、上で述べた匠の技が必要です(同じ書類は2つとできません)。

監査と特許の両方を経験した身としては、専門性(あるいは特殊性)は後者の方が高いように感じます。

立場

まず弁理士から。

弁理士は特許出願業務の代理人です。
言い換えれば、顧客企業は(代理人を通さず自ら出願することもできるのです(昨今ではこうした傾向が多く見られます)。

しかも、特許は企業が必ず取得しなければならないわけではなく、あくまで任意です。

対して公認会計士は独立の監査人であって代理人ではありません。
裏を返せば、顧客企業の自己監査(自分で自分を監査すること)は認められないということです。

また市場から資金調達している企業は、必ず、この(外部)監査を受けなければなりません。

会計士の社会的信頼が絶大と言われる理由です(その代わり責任も重いです!~後述~)。

特許へのニーズと弁理士へのニーズは同じではありませんが、会計士へのニーズは監査の重要性に直結します。

仕事の遂行形態

会計士はチームを組んで仕事に当たります。
その階層は次の通り。

スタッフ➡シニアスタッフ(現場責任者)➡マネージャー(管理職)➡パートナー(経営者兼オーナー)

前述したように、この中でまずスタッフが証拠収集や調書作成を行い、最終的にはパートナの判断を経て仕事は完結していきます。

ケースの重大性によっては(審査会等を通じて)監査法人全体として関与することもあります。

対して弁理士は、その仕事の性格から個人単位で仕事を行います(特許申請のための書類作成です)。

確かに大手特許事務所でも上記のような役職は存在しますが、仕事自体は各人ごとに完結します。

制度改正と役所対応

ここも大きな違です。

結論は、会計士は気の毒なくらい振り回されるといったところ。

開けても暮れても会計基準等の変更と対応、変更と対応…といった具合です(筆者もなんだかなぁ~とつい思ってしまいます)。

しかも金融庁等への対応がまた大変(しばしば監査の品質や業務体制がチェックされるのです)。

近年はかなり落ち着いてきた印象がありますが、
それでも日常業務のレビューをしっかりやっておかないと、その時がきたら大慌てなんてことになります(最悪、事務所が廃業に追い込まれてしまいます)。

対して弁理士。

確かに特許法等の改正や審査基準の変更などもありますが、会計士ほど実務が振り回されているとは思いません(むしろ関連技術の勉強や調査の方が大変です)。

また、特許庁の審査(特許できるかのチェック)はありますが、それは通常の仕事の一部です。

つまり、この特許庁とのやり取りが(中間処分と言います)、しっかりおカネに結びついてくれます(他方、金融庁に怒られても誰も会計士に報酬をくれません!)。

役所対応についての補足:
国家資格である士業は、仕事に関して役所の規制やチェックを受けるがあります。
会計士なら金融庁によって監査の品質が検査されますし、弁理士でしたら、特許庁によって特許の付与が審査されます。
また、そのチェック等は書類審査(会計士なら監査調書、弁理士なら明細書)によって行われるのが通常です。

責任

もうおわかりいただけると思いますが、業務のスケールは会計士と弁理士とでは全く違います。
一方は会社全体(さらには資本市場)に関係しますが、他方は個々の出願です。

もちろん特許の有無や、その内容によっては、企業の売上等に大きく影響しますが、
特に監査の場合は一企業の問題にとどまらないところに、その責任の重さがあると言えます。

例えば、弁理士の場合、手続の期限徒過などをしない限り、最悪でも通常は顧客に仕事を切られてオシマイです。

対して会計士の場合は、精一杯やったつもりでも、最悪、巨額の損害賠償を(株主などから)請求されたうえ、監獄行き、なんてことも(ただし対象はパートナー)。

一方は失ってもゼロになるだけですが、他方はマイナス∞です!

公認会計士×弁理士①:両方取得した筆者の感想

注:筆者は公認会計士→弁理士のルートを取りましたが、実家が長年、都内で特許事務所をやっていたという事情がありました

会計士からの転身というより、一時期、別の業界でビジネスの勉強をしてきた、といったところでしょうか。
ここではその点にご留意ください。

公認会計士としての視点

公認会計士の業務は、スケールが大きく活躍のフィールドの幅も大変広いといえます。
業務の可能性に至っては無限といってもいいくらいです。

ですが、見方によっては広すぎるともいえます。

会計士をしていくうちに気づくのですが、何か(自分だけの)更なる得意分野、専門分野が必要であると感じるようになるのです。

結果として、(監査法人内のキャリアパスにもよりますが)金融を専門とする会計士、不動産を専門とする会計士、ITに強い会計士、あるいは英語に堪能な会計士、外国の税制に詳しい会計士等々がでてきます。

弁理士としての視点

他方、弁理士は特許・知財の専門家で、もともと極めて専門的です。
理系特有の技術分野も関係して一般の人にはまずわかりません。にわか勉強では全く歯が立たないです。

ただ別の見方をすれば、弁理士業は(知財から離れれば)つぶしがきかないともいえます。

ですので実際に弁理士業を専門にしている時は、通常、特許出願業務が中心になります。

この特許業務に従事している時に、他の業界の分野、例えば会計、不動産、経営計画立案、といったものが自分の業務として挙がってくることはまずありません(職人が自分の技に没頭している場面をイメージすると良いでしょう)。

両資格を経験してみて

筆者が会計士と弁理士を兼業していた時も、弁理士たちはもちろん特許関係のクライアントも、会計士関連の業務に関してはほとんど反応を示しませんでした。

確かに特許権の財産的価値などといった興味深いテーマも無くはなかったのですが、特許・知財を仕事のフィールドとした場合で、会計士資格が直接役立ったことはあまりありません。


他方、会計士のフィールでは、特許や知財に関連する問い合わせは結構すごいものがありました。

会計士はあらゆる分野に会計を通じて携わるのですが、特許や知財に精通している人がほとんどいなかったのです。
いわゆる完全なブルーオーシャンでした。

最先端のIT企業から町の中小企業まで、いろいろな相談が来たのを覚えています。
他の会計士からの問い合わせも少なくありませんでした。

当然ながら、そこから特許の仕事の依頼に結びついたケースもありますダブルライセンスを営業ツールとしても生かせたのです)。

こうしたことは、会計士のフィールドで弁理士資格を役立てることができた例といえましょう。

両資格の特徴や性格が対照的なこともあり、実際の業務との関係で資格の位置づけや役割が定まっていった感じです。

公認会計士×弁理士②:転身もしくはダブルライセンスを目指す方へ

ここでは、会計士もしくは弁理士のどちらかを既に取った人(あるいは将来的に両方の取得を考えている人)に向けた話をします。

弁理士を先に取った人へ:弁理士から公認会計士へのルート

「もう自分はもう基本的に明細書作成・出願代理はしない」という人を前提とします。

結論的には十分有望です。
収入的にも先々プラスが十分見込まれるでしょう。

もともと会計士は一般的に守備範囲が広くゼネラリスト性が強い。
言い換えると、何か強みというか、差別化要因のようなものが求められてきます。

そんな中、弁理士有資格者は大いにユニークな存在であり、事務所内でも間違いなく一目置かれると思います。
ズバリ大手監査法人を中心に歓迎されるはずです。

ただし、あくまでもメインは会計や監査であり、通常業務で知財を扱うことはありません。

もし、知財・特許をベースに仕事をするのであれば、むしろ法科大学院(米国ロースクールを含む)に行って法曹を目指す方がよいのではないかと思います。

やはり知財・特許と会計は接点を見出しづらいのは確かですし、渉外系やコンサルも含め弁護士の方が活躍のチャンスが広がるからです。

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公認会計士を先に取った人へ:公認会計士から弁理士へのルート

あまりいないと思いますが、一応言及しておきます。

一般論としてあまりお勧めできない、というのが正直なところです。
特に文系出身で開発や知財実務経験が無い場合は尚更です。

ただし、自分はどうしても特許のプロになりたい!とか、出願代理人で飯を食っていく!という強い覚悟がある人には一つだけアドバイスがあります。

それは

資格より実務を優先する

ということです。

試験は40代でもなんとかなります。ですが、実務の習得は年齢的にできる限り早い方がよい。
特に文系で実務経験が無い場合、特許事務所に就職するのも極めて厳しいと思います。

しかも、それなりに実務をこなせるようになるには、2~3年は寝食を忘れて取り組む必要があります
またこの間に自己の適性をも見極めることも肝要です(弁理士業は会計士よりも適性が厳しく問われます)。

なお、会計士×弁理士で何か面白いことができないか、と思われるかもしれませんが、やはり厳しいというのが現実です。

仮に資格が取れたとしても、キャリアとしては中途半端な状態のまま結局、会計に戻る、という公算が大きいです。

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おわりに

公認会計士資格と弁理士資格を比較するとともに、そのダブルホルダーの実情について解説してきました。

もっとも、筆者の個人的な体験や感想に基づくものであるため、当然のことながら、この記事内容だけで全てを総括できるものではありません。

ですが、この数少ない資格の組み合わせについて通り一遍でない資格レビューができたと思います。

参考にしていただけたら幸いです。

最後に、遅ればせながら、公認会計士試験及び弁理士試験の受験生の皆様につきましては合格をお祈りしております。

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