せっかく特許を取るのだから、できれば強い特許をとりたい。
特許の申請をしようとする誰もが考えることだと思います。
ですが、強い特許とは何でしょうか。
また、その強い特許は簡単に取れるのでしょうか。
今回は、その点に絞り、わかりやすくお答えしていきます。
特許の本質が具体的に見えてくるはずです。
なお、本記事では厳密性よりイメージ・わかりやすさを優先しております。
ご了承ください。
主な経歴:
特許事務所→公認会計士・監査法人→特許業界復帰→弁理士→独立(特許事務所・会計事務所経営)
特許事務所を営む父親の長男に生まれる。
その関係もあって学生の頃から特許業務に従事。
ところがある日、急にビジネスの広い世界を知りたくなり、会計士業界に飛び込む。
父親の健康事情及び自身の適性を考慮して特許業界に復帰、その後、事務所を承継。
強い特許vs取りやすい特許
強い特許とは、一言でいうと、特許権の効力が広範囲に及ぶものをいいます。
以下では、仮想の例を出して具体的に解説します。
あなたが、この世で初めて「イチゴ大福」を発明したとします。
そこで早速特許を取ろうとしました (注:もちろん現実には特許になりません) 。
当然、できるだけ広く効力の及ぶ、強い権利を取りたいですよね。
そんなときは「イチゴ大福」ではなく、(それよりも広い上位概念の)「大福」で特許を取りにいきます。
「イチゴ大福」でなく、「大福」で特許を取れれば、「大福」を用いたあらゆる「×××大福」なるものに対して特許権を行使できるからです。
「イチゴ大福」ですと、イチゴを用いていない大福には特許は及びません。
他方で、広く特許を取ろうとすると、拒絶(特許にならないこと)になりやすい。
特許をする上で何かと‟ほころび”がでてきやすいのです。
上位概念の(より基本的な)発明は、相対的に創意工夫が乏しいということです(確かに単なる「大福」は「イチゴ大福」に比べ創意工夫は乏しく、ありきたりといえましょう)。
つまり創意工夫に乏しい発案に特許は付与できないのです。
そこで、特許を取るために、発明の範囲を狭めることになります。
この例では「大福」から「イチゴ大福」へと狭めます(これを補正といいます)。
こうすることで、発明としての創意工夫が加わり特許が取りやすくなってきます。
そして、これでもダメなときは、さらに「100gあたりビタミンCが100mg以上含まれるイチゴ、を用いたイチゴ大福」などと狭めていきます。
こうやって狭めていくと、確かに特許を取れる公算は大きくなってきます。
他方、例えば「イチゴ大福」で特許を取ったときは、メロン大福やバナナ大福には特許権は及びません。
「イチゴ」を用いていなければダメなのです。
また「100gあたり~を用いたイチゴ大福」で特許を取ったときは、「100gあたりビタミンCが100㎎に満たないイチゴ」を用いた「イチゴ大福」にはあたなの特許は及びません。
特許としては弱くなってしまうのです。
要するに取りやすい特許は、他方で、いざというとき役に立ちづらい(特許としては弱い)ということです。
逆に言うと、強い特許を取ろうとすると拒絶になりやすいのです。
強い特許を取るために
特許を取る以上、やはり強い特許を取りたいものです。
そのためには、先ず関連する先行技術を調査し、それと自分の発明との本質的な差異を把握していきます。
そして、この差異部分こそ、自分の発明の本質的な部分である(創作が込められている箇所であり、新たな技術的効果の源である)と訴えていくのです。
同じ発明や技術が既に存在していたら特許にならないのですが、たとえ異なるものであっても、そこから容易に考えつく発明も、これまた特許にならないのです(発明としての創意工夫が乏しいということです)。
その辺りを明確にしたら、今度は、発明を(具体的な形態ではなく)技術的な効果を踏まえて思想的に捉えなおし、書類上できる限り広く描いていきます(例えば「ドアノブ」を「開閉手段」などとする)。
このようにして特許の申請をしていくわけですが、実際のケースでは、一発で特許になることはむしろ少ないでしょう。
一度くらい特許庁から拒絶の通知がくるのを覚悟で、広い範囲で特許を狙っていくのです(理由は先の通り)。
拒絶の通知が特許庁からくれば、それに対して先の補正等をすることで応答します。
こうした役所とのやり取りを通じて、(通常は補正後の範囲で)特許されていきます(もちろん絶対ではありません)。
大切なのは、最初から容易に(確実に)特許を取ることだけを考えるのは得策ではないということです。
発明の本質をしっかりとらえ、いかに広く特許を取っていくか。
実は、まさにこの点こそが特許事務所(弁理士)の腕の見せどころなのです。
強い特許を取るための今後の戦略(参考)
実は強い特許には、もう一つ重要な意味があります。
それは企業の収益性やビジネス上の戦略に関係します。
当然ですが、特許は最終的には企業の収益性に資するものでなくてはなりません。
ライバル企業等から自分たちの技術を防衛し、収益を確実に獲得するために取るのです。
決してお飾りではありません。
そこでは、例えば、製品(群)の開発計画や販売戦略に応じて関係する特許を配置していきます。
より具体的には、どれくらいの範囲の特許をどの順番で取得していくか、などです。
国外市場まで考えると、それぞれの国ごとのマーケットや特許制度と関連させて特許戦略を立てていくことが必要です(でないと、どこぞの国のようにパクられます)。
ですので、本当に強い特許とは、製品戦略やマーケットとの連動を踏まえたものであって、何でもかんでも取ってしまえばよいというのではありません。
戦略によっては発明の要旨を絞り込むことさえあり得ます。
本当は、これらのバランスが取れて初めて強い特許と言えるのです。
他方、こうした点では事務所サイド、企業サイド共にまだまだ発展途上の段階と言わざるを得ません(特に事務所側)。
いずれにしても、これらは企業にとって戦略上重要であることはもちろんのこと、事務所(弁理士)にとっても知財コンサル業務などの可能性を高めるものと期待されます。
強い特許:まとめ
以上、強い特許について初歩的な部分を解説してきました。
できれば安く効率的に特許は取りたいものですが、容易に取得できた特許は権利としては弱いもの(狭いもの)になりがちです。
他方、特許を広くとろうとすれば、その分、様々な点で取得のハードルは高くなります。
そのバランスをいかにとるかが肝要なのですが、結局は専門家(弁理士)に依頼するのが現実的です。
もっとも、その弁理士も(質の点も含めて)様々であり、それなりにしっかりとした権利や仕事を求めるのならコスト面もそれ相応に考慮すべきでしょう。
さらに付け加えると、今後は戦略的視点も交えて特許を取得していきたいものです。
以上、参考にしていただけたらと思います。