弁理士・特許事務所の仕事内容をわかりやすく解説

この記事をご覧になっている方は、多かれ少なかれ弁理士という資格にご興味をお持ちのことと思います。

他方で「弁理士はどんな仕事をするのだろう?」あるいは「特許事務所の仕事内容ってどんな感じ?」
こんな疑問を持つ人も多いでしょう。
確かに数ある士業の中でもマイナー感は否めませんしね。

そこでここでは細かな難しい話は置いておいて、弁理士・特許事務所の仕事内容について全体像が分かるように解説していきます。

あなたも弁理士の世界に一歩踏み出してみませんか。

この記事の執筆者

略歴:特許事務所→公認会計士・監査法人→特許業界復帰→弁理士→独立(特許事務所・会計事務所経営)

特許事務所を営む父親の長男に生まれる。
その関係もあって学生の頃から特許業務に従事。
ところがある日、急にビジネスの広い世界を知りたくなり、公認会計士業界に飛び込む。
父親の健康事情及び自身の適性を考慮して特許業界に復帰、その後、事務所を承継。
資格:弁理士・公認会計士・税理士

目次

弁理士・特許事務所の仕事内容

知的財産権の申請代理

弁理士は、特許をはじめとする知的財産権の取得を目的に、その申請の代理を主な仕事にしています。

例えば特許について。

この特許の対象となる発明や技術には、それこそ洗濯ばさみのような日用品から最先端のAI技術まで幅広く存在します。

これらの発明や技術を、他者に勝手に真似されないようにするのですが、
そのための(発明や技術を守るための)防護服のようなものが知的財産権(ここでは特許権)です。

弁理士は、こうした権利を取得するために明細書と呼ばれる申請書類を作成します。

例えて言えば、それは個々の発明に合った(オーダーメイドの)防護服をつくるための仕様書、とでも言ったらよいでしょうか。

その作成作業は大変難しく、二つと同じものはできません。
しっかりとした権利を取得するには、匠の技が求められます。

しかも、その書類(明細書)の一字一句の文言が、企業の巨額の売上を左右します。
この後述べる紛争に直面すると、企業の存続にかかわってくることさえあります。

こと特許についていえば、ビジネスを法律と技術の両面から防衛するのが弁理士の仕事と言えるでしょう。

さらに、商標や意匠などについても同様に、
そのマークやデザインを(勝手に模倣されないように)守っていかなくてはなりません。

特に商標は企業等の信用そのものに直結するほか、一般公衆にも少なからぬ影響がでてきます。

なので、こうした商標・意匠も弁理士の活躍が期待される重要な業務分野になります。

役所(特許庁)に対して応答していく

弁理士の仕事は、申請してオシマイではありません。

その後に、特許庁との知的格闘が待っています。
申請の際、一発で特許されることは少なく、必ずと言ってよいほど特許庁は「このままでは特許できません」と通知してきます(拒絶理由通知と言います)。

これに対し、弁理士はあらゆる手段を用いて(特許になる旨の主張から訴訟まで)特許にこぎつけようと策を講じます中間処分と言います)。

ですので、厳密には、特許の申請というのは正しくなく、特許の出願というのが正しいです(大学受験などと同じで願書を提出<出願>して受験すれば誰でも合格!とはいかないのです)。

知的財産権の紛争処理

知的財産権の紛争処理とは、権利侵害が起こった場面での業務を指します。

要するに、権利である以上、取って取りっぱなしではなく、自身の発明や商標をコピーされたりしたときは、その権利をフルに活用してクライアントを防衛していきます。

その典型が特許権侵害の場面です。

ここでの業務では(侵害された)特許権者側をクライアントにすることもあれば、訴えられた方(侵害被疑者側あるいは被告)をクライアントにすることもあります。

前者のケースでしたら、特許権の権利が侵害されている旨の主張・立証をしていきますし、
後者でしたら、逆に侵害していない旨の主張・立証をしていきます(否認)。

さらに必要に応じて、特許を無効にするための手続きをしたり、(仮に否認が難しくても)正当な権原がある旨を主張したりします。

これらの攻防では、最初に特許庁に提出した申請書類(明細書)がカギを握ることになります。

まさにそこに記載されている内容をもとに審理がなされ、企業等の命運を決めていくのです。

確かに弁理士には代書屋さん的側面はありますが、その実質は理系の弁護士と言ってよいでしょう。

なお、訴訟が紛争処理の唯一の解決手段、というわけではありません(むしろ訴訟は最終手段です)。

通常はできる限り、いわゆるWin-Winの関係を目指し交渉していきます。

そこでは、弁理士は紛争解決のための交渉に介在していくのですが、
和解からライセンス契約まであらゆる可能性を探っていきます。

知財コンサル業務

知財コンサルと言っても厳密な定義があるわけではありません。

ここではいくつか思い浮かぶ業務を挙げてみます。

  • 発明相談(特許になるかどうかの相談を含む)
  • 侵害の鑑定:実際の製品や商標が、特許権や商標権の侵害に当たるかどうかの鑑定
  • ライセンス交渉(先の紛争処理の一環と重なることもアリ)
  • 特許戦略の立案:製品やマーケットの関係で、特許をどの順序で(どういった範囲で)取得するか
  • 特許権等の財産評価

上2つは特許事務所の業務として挙がってくるものです。

対して、3つ目以降は、どちらかというと企業や知財コンサル会社の業務となってきます(注:ライセンス交渉は法律事務所が、最後の財産評価は監査法人が担当することもある)。

特に、近年では企業内弁理士が増えているうえ、
知財を今まで以上に戦略的に活用していこうという動きが活発化しつつあります。

こうしたことを背景に、知財コンサル業務(特に3番目以降)は、今後、更なる需要が期待されます。

弁理士の仕事を経験してみて~筆者の雑感~

ここでは筆者の経験を念頭に、弁理士業務について率直な感想を述べてみたいと思います。

冒頭のプロフィールでも述べた通り、筆者は事務所サイドに長く携わってきました。

仕事はデスクワーク中心で、PCでの出願書類の作成が大部分と言ってよいでしょう。
しかも基本的に仕事は個人単位で完了します。

結果、実務に関する限り、人と話をすることは比較的少なめです。

適性的には、
人と話すのが苦手(人嫌い?)、あるいは一人でも黙々と作業するのが好き、こんな人に向いていると思います。

言い換えると、営業に向くタイプの人(人と話すが好きという人)は苦痛に感じるかもしれません。

ただし、それはあくまで事務所勤務の場合に限ります。

独立して事務所を経営するとなると話は別。

ご存じの方も多いと思いますが、事務所経営者としては実務以上に営業が大切になってきます(昔は簡単に仕事がとれたが、今日ではそうはいきません)。

筆者も先代から事務所を引き継いだ際には、状況が180度変わってしまいました。

また、クライアントからは「(所長には)実務以上に事務所のマネジメントに期待する」旨を伝えられ、身が引き締まる思いがしたものです。

実際、本来の実務よりも営業などで飛び回っている時間の方が長かったように記憶しています。

弁理士が仕事をする場所

特許(法律)事務所

まず弁理士が活躍する場として特許事務所が挙げられます。
仕事は申請業務がメインです。

この特許事務所には、大手から個人まで幅広くあり、手掛けている分野も様々です。

当然ながら、事務所によって得意不得意があったりします。
特に小規模事務所では対応可能な技術分野が限られてきますし、処理できる件数も限界があります。

ただし、事務所が大きければ良いのか、というと、そう単純ではありません。
先ほど申し上げた通り、明細書の質は、個々の弁理士の腕にかかっているからです。

もっとも、近年は、一定レベルの明細書を大量に作成できる大手事務所に、(大企業の)クライアントは集中する傾向にあります。

明細書未経験者(新人)の仕事について:
未経験者は入所すると以下のような業務を担当することが多そうです。

  • 中間対応(拒絶通知に対して、出来上がっている明細書をもとに補正したり、意見書を書いたりする)
  • 外国出願の際の明細書の翻訳(文系出身者や英語が得意な者)
  • ゼロから明細書を書く指導を受ける(ワンツーマンの添削指導←主に中小事務所で)

企業知財部・知財コンサル会社

知財業務には、特許取得に重点を置いた業務から(企業の収益性に直結する)戦略的な業務まで幅広くあります。
もちろん特許の先行調査や侵害品のリサーチも怠れません。

特に、特許取得のための業務では、開発部門や特許事務所とのやり取りはもちろん、
予算措置や各種承認手続なども付いて回ります。

他方、戦略的な業務は、例えば製品戦略やマーケティング戦略と連動させて、特許をどのように配置していくか、などをキメ細かく検討していきます。

先ほども触れましたが、今後は、後者の業務がより重要な位置づけとなっていくでしょう。

企業内弁理士としての活躍のフィールドとしても注目されていくはずです。

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弁理士になるには

弁理士資格を取得するには、次の3つのSTEPを経なければなりません(以下では弁理士試験の受験を前提とします)。

弁理士試験合格=弁理士、ではないのです。

STEP
弁理士試験に合格

試験には、短答・論文・口述の3段階がある(難易度等については後述)

短答や論文に合格すると、以後2年間免除される制度あり

受験資格に制限はない

STEP
実務修習

レクチャーに先立ってe-ラーニングや課題提出が求められる(この課題提出が時間的にかなりキツイ)
注:特許科目について、文系は機械分野を選択のこと(電気・化学はたぶんチンプンカンプンです)

課題は一定水準に達しないと再提出になる(ただし最終的には殆ど通る)

レクチャー(グループ討論などもあり)には、集中コースや週1回土曜コースなど広く用意されており、
長くても1か月ほどで終わる

ただし遅刻早退は認められず、出欠管理は厳しい

STEP
弁理士会への入会(登録)

ここで様々な資格規制がでてくる(でも普通の人はまず大丈夫)

入会申請のために役所に行って、いろいろと書類を用意しなくてはならないが、
それでも税理士などの他士業に比べると遥かにシンプル

ただし金がかかる(登録免許税や登録費用等で10万円以上)!

やはり弁理士試験が実質的な弁理士の登竜門です。

実務修習は結構面倒ですが、まず何とかなってしまいますので、あまりご心配なく。

それより注意したいのが、弁理士会への入会(弁理士登録)です。

書類の準備のほか、登録及び資格維持のためにはお金が結構かかります。
なので企業勤務者を中心に、(STEP2までで)弁理士会に入会していない人も少なくありません。

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最後に

弁理士の仕事内容とそのなり方について解説してきましたが、いかがだったでしょうか。

「いろいろと大変そうだな」「なんかワクワクしてきた」…
人それぞれあると思います。

遠い昔ですが、かつての私もそうでした。
特に、試験に合格してバッジを胸につけた日のことは忘れないでしょう(会計士に受かった時よりも嬉しかったような気が…)。
この仕事を今後は胸を張って頑張れるんだ!との自覚が込み上げてきたのを覚えています。

皆さんにもぜひ体現していただきたいものです。

応援しています。

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