弁理士の将来性と現状を考える~競争に勝ち残るためにすべきこと~

弁理士は理系の弁護士ともいわれ、その国家試験も難関です。
必然的にその見返りも期待されてくるでしょう。

他方、弁理士の世界は目まぐるしく状況が変わり、あらゆる側面で一昔前とは様変わりしています。

そのため、例えば

  • 特許を含め仕事が減ってるみたいだけど、弁理士、大丈夫かな
  • 弁理士の将来ってヤバくない?
  • 今後生き残るために弁理士はどうすべき?

等々、色々と懸念材料や疑問がでてきます。

そこで、この記事では弁理士業界の現状を踏まえたうえで、その将来性と競争に勝ち残るためにすべきことを考えてみたいと思います。

この記事を書いた人

特許事務所を営んでいる父親の長男として生まれる

その関係で学生の頃から(厳密には子供の頃から)事務所に出入りし
実務から事務所運営まで特許にどっぷり浸かる日々を過ごす

ところが、ある日、急に武者修行がしたくなり、父親の事務所を離れ公認会計士に転職
その父親の健康上の事情から急遽、弁理士業界に復帰、後に事務所承継

現在は全ての事業を他の親族に譲渡し、自らは独自の調査・研究、執筆活動に従事

目次

弁理士の将来性を考える前提①:特許業界の現状を概観する

弁理士の将来性を考える前に、まずは特許業界の現況をザっと眺めてみようと思います。

  • 弁理士の数は増加する一方、業界の高齢化が進んでいる
  • 特許出願については、国内出願は減少傾向に、国際出願は増加傾向にある
  • 弁理士(試験合格者を含む)の働く形態が変化してきている
  • AIが弁理士の職務(の一部)を遂行しつつある

まとめると、従来の仕事は減少する一方、弁理士の数は増加しつつある、ということです。

結果として、代理人としての弁理士は過当競争にさらされ、特許事務所の経営も厳しい状況にあるといえます。

少なくとも、昔のようなスタンスのままでは安泰でいられない、ということです。

弁理士の数と年齢層

弁理士試験の改正に伴う合格者数の増加により、現在、弁理士の会員登録者数は1万人を超えるまでになっています。

他方、年齢層としては弁理士会員の半数以上が50歳代以上となっており、業界の高齢化がすすんでいます。

またこれとは別に、企業勤務者を中心に、試験に合格はしたが弁理士会に登録していない人(未登録者)が相当数にのぼると推定されます。

参考:日本弁理士会ホームページ「会員分布状況」

特許出願件数の動向

特許出願は大きく分けると、日本国内で特許を取得する国内出願と、外国での特許を取る国際出願(PCT国際出願等)の二つがあります。

前者については、ここ10年だけみても減少傾向が続き、近年では年間約30万件となっています(21年は30万件を下回っている)。
他方、後者の国際出願は4万件を超え、その件数は今日でも高い水準を維持しています(20年、21年は5万件弱で横ばい)。

これは国内向けの市場が縮小する一方、特許業務の国際化が進んでいることを意味します。

別の見方をすれば、企業活動がよりグローバル化するとともに、企業の特許戦略が国内から海外へとシフトしていることが窺えます。

参考:特許庁ホームページ「特許行政年次報告書」

弁理士の働く形態の変化

昔は、弁理士は資格取得イコール独立開業という図式でしたが、
今日ではどちらかといえば独立よりも勤務形態の方が主流になりつつあります(弁理士試験受験者も企業勤務の方が多くなっている)。

上でも述べましたが、未登録の人たちの存在も含めますと、昔に比べ働く形態が大きく変化しているといえるでしょう。

こうした傾向をも踏まえると、企業は今後ますます(特許事務所を通さずに)社内での明細書の内製を進めていくものと予想されます。

参考:日本弁理士会ホームページ「会員分布状況」

AI技術の台頭

現在はAI技術が進歩し、あらゆる業務への影響(AIが業務を遂行してしまう結果、人間による仕事や職業が無くなってしまう事態)が取り沙汰されています。

弁理士でいえば、例えば特許調査や商標調査などはAIが得意とするところであり、将来性への懸念材料として挙がってきます。

つまりAIよる業務運営が進む分、相対的に弁理士のワークが狭くなり、弁理士間の競争が激しくなっていくということです。

しかもAIの活用がコスト削減圧力につながれば、弁理士報酬の一層の低下をも招きかねません。

弁理士の将来性を考える前提②:変わりゆく特許事務所の姿

先ほども触れましたが、国内出願は減少する一方で、弁理士は増加傾向にあります。

また企業の出願コスト削減や内製化の背景もあり、特許事務所は厳しい状況に立たされているのが実情です。

たとえ仕事があっても、事務所は、事実上、明細書作成の下請け工場といったところでしょうか。

さらに、こうした事情とあわせて、すでに事務所の選別・淘汰は始まっており、事務所の二極分化が進んでいます

すなわち、大企業をクライアントとする大規模事務所と、中小零細企業や新興企業を専門にする小規模事務所です。

前者の大規模事務所では、研究開発の継続性もあって大量の案件を処理していかなくてはなりません。
他方、業務は細分化され、マニュアル化、ルーティーン化しやすい面がでてきます。

実際の作業もコピペで済ますことが多くなり、まさにベルトコンベア的な感じがでてきます。
大手事務所に勤務する人の中には、「こんなはずではなかった」との声も。

また中小事務所では様々な案件に対してきめ細かく対応することが求められます。
各人の業務は大手に比べ幅広いものとなりそうですが、実際の状況は事務所によって様々です。

特に新規独立組をはじめ小規模個人事務所の中には、殆ど稼働していないところもあったりします(例えば特許案件は年間数件といった具合です)。

いずれの事務所形態でも、収益性や安定性、ともに厳しいものになってきています。

弁理士の将来性は絶望的?

顧客や仕事を獲得するのは難しくなってきている

まず最初に一言申し上げておきたいと思います。
それは、特許がこの世から無くなることはない、ということです。

ですが、代理人弁理士としての需要や安定性について問われますと、同じレベルで答えることは困難です。

先ほど申し上げた通り、国内出願は減少する一方、弁理士数は増加傾向にあります。
一方、企業側は一段の競争激化により、出願コストのより一層の削減を求めてくることが予想されますし、
内製や自社出願も増えてきています。

また中小企業をターゲットにしようとも、難しいのが実情です。

(会計や税金とは異なり)特許を取得するかどうかは企業の任意であり、経営者によって特許の重要性に対する認識に温度差があったりするからです。

一部の中小企業経営者からすれば、‟特許なんて何だかよく分からない、カネのかかる厄介なモノ”というのが本音かもしれません(公開公報を通じて自社の技術が周知となることから、特許≒ヤブヘビ、と感じる社長もいる)。

仮に中小の仕事を獲得しても、2~3年で特許から離れていく顧客が大半です。

<コラム>中小企業をクライアントにすることのリスク:
筆者の事務所でも中小企業の顧客は少なくありません。
その中には素晴らしい発明を継続的に案出しているところもありますが、全ての中小クライアントがそうだとは限りません。
結果として中小の新規受任は慎重にならざるを得ないのです。

特に発明と事業のつながりが明確でなかったり、クライアントの特許に対する理解が欠けているときは要注意。
こうしたことは金銭的な問題(請求書を巡るトラブルや多額の報酬の貸倒れなど)となって事務所経営を圧迫することもあり得ます。

特許以外の可能性も楽観できない

近年は特許出願の減少に伴い、商標弁理士として活躍しようとする個人事務所も増えてきました。

ですが、その商標分野についていうと、単価が相当下落していることに加え、先ほどのAI等による業務代行の問題もあります。

薄利多売といきたいところですが、商標弁理士として数でこなしていくにも収益的に限界があるといえます。

もちろん弁理士の扱う仕事は出願業務にとどまりません。
ライセンス交渉や紛争処理、さらには鑑定業務等をはじめとする様々ないわゆる知財コンサル分野を幅広く手掛けていくことも可能です。

ですが、これらは顧客側のニーズがあってはじめて成り立つものであり、また弁理士側の業務開拓力によるところが大きいといえます。

他方、職業上の性格もあってか、この辺りが苦手な弁理士が実に多い!

見方を変えれば、弁理士サイドのコミュニケーション能力の問題ともいえるかもしれません。

弁理士の将来性は見方によって変わる

繰り返しになりますが、弁理士を取り巻く状況は大変厳しいものになってきています。
こうした現状の延長では、当然将来性も悲観的になりがちです。

ですが、国際出願の増加や弁理士の高齢化などを踏まえると、特に若い弁理士達を中心にマイナス部分ばかりとはいえなくなってきます。
実は様々なチャンスがあるのです。

また顧客や仕事の獲得にしても、否定的な見解を述べましたが、それがすべてではありません。

例えばスタートアップ企業などは、まさに特許につながる宝庫であり、特許庁もその支援に力を入れています。

さらにAI問題についても、例えば、進歩性の判断についてAIが画一的に処理できるか、と問われると、答は明白です。
クライアントや特許庁との複雑な協議でも人間にしかできないコミュニケーションが求められます。

むしろ、AIの存在というものは、膨大かつ手間暇かかる煩雑な調査や作業から弁理士を解放し、その業務の効率性を向上させてくれるもの、と考えるべきでしょう。

結局、弁理士の将来性は、現状の延長とは異なる視点で見ると、また違って見えてくるということです。
ズバリ言ってしまえば、将来性は弁理士次第ということです。

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将来性を踏まえた弁理士の働き方

独立開業

独立開業は、昨今ではあまり一般的ではありませんが、それでも貴重な選択肢であることに変わりありません。

他方、その独立は決して容易ではなく、先ずはクライアントとなる企業の開拓が必要です。
つまり営業能力やコミュケーション能力が求められてきます。

また、そのクライアント企業についてですが、大企業はなかなか代理人を変えませんし、中小企業については必ずしも顧客企業にできるとは限りません。

したがって、顧客企業の開拓は決して簡単ではないと肝に銘じ、独立する前の早い時期から、人脈づくりや情報交換の場を事務所の外に設けて積極的に活動していくことが必要です。

こうした開業準備活動では、単に特許のことばかりでなく、その技術や発明がその企業のビジネスにどのように生かされていくのか、について関心を高めていくことも大切です。

事務所勤務

弁理士としての実務を勉強するには、事務所勤務が一般的です。
明細書の作成や出願手続など、弁理士としての本来の仕事ができるからです。

ただし事務所勤務前に企業の研究開発部門等で数年開発に携わってみることも有益と言えます。
クライアントも担当弁理士の発明に対する技術的知見・バックグラウンドに関心を有しています。

注意したいのは、事務所への転職については事実上、年齢制限を設けているところが多いこと。
特に明細書作成未経験の場合は、30歳代前半まで、などとなっていたりします。

なお事務所での昇進についてですが、事務所によっては後継者や事務所パートナー(共同経営者)への道も開かれています。

また、仮にパートナーでなくとも、明細書をしっかり書ける弁理士なら、年齢にかかわらず仕事をすることが可能です。

この点(実務能力があることを前提に)弁理士資格は極めて有用といえます。

企業勤務(知財部勤務)

企業の知財部では、発明を知財化していくまでの様々なプロセスに携わります。

また、外部とのライセンス交渉や代理人事務所との連絡・調整をしたりもします。

ポイントは企業のビジネスや収益性の視点で発明や知財に関わるということ。

それを踏まえると、今後は特許ポートフォリオの作成等の戦略的な業務を担っていくことが考えられます。

権利化のための手続き業務というよりも、コンサル的業務に近いといえるでしょう。

なお独立系弁理士の間でも、この企業勤務経験者が近年増えています。
事務所の業務において、この経験が威力を発揮するようです。

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弁理士が競争に勝ち残るためにすべきこと

外国出願業務をできるようにする

企業の出願は国内中心から海外へとシフトしてきています。

特にPCT出願・国際出願は今後も増加が見込まれるため、外国出願は弁理士にとって切っても切れない業務といえるでしょう。

他方、全ての弁理士が外国出願に精通しているわけではありません。

しかも、その外国出願の前提として英語力が必要ですが、この段階で既に厳しいという弁理士も少なくありません。

ですから、弁理士キャリアの中で一時期集中的に外国出願を手掛けることは、自己の差別化につながるはずです。

また、報酬単価や給与も外国出願の方が国内系より高いので、若い弁理士にはぜひチャレンジしてみることをお勧めします。

得意分野・専門分野を持つ

差別化といえば、やはり得意分野、専門分野を持つことです。

昔は弁理士といえば特許の何でも屋、というイメージでしたが、今後は必ず得意分野が問われてきます。

そこでは特定の技術分野に精通していることはもちろんですが、他にも(知財に関連しながらも)あまり皆がやっていない業務経験も有益です(例:先ほど挙げた特許ポートフォリオの作成実務など)。

できれば「この分野なら業界で俺が一番!自分に任せろ!」ぐらいになることを目指してもらいたと思います。

独立する際にも、こういうところがある弁理士には仕事が回ってきます!

IT技術に精通しておく

もう一つの差別化要因として、IT技術に精通しておくとことも付け加えておきたいと思います。

先ほどのAIの影響もありますが、自身の業務の効率化やクライアントへのコンサル業務など、幅広い可能性が見込まれます。

他方、士業の世界では、このIT分野は一般的に手薄になりがちです。
高齢化が進んでいる弁理士業界では尚更なのですが、見方を変えれば差別化のチャンスともいえるでしょう。

そこで具体的なキャリアとしては、事務所で一通り弁理士実務を経験した後、IT企業の知財部などに転職してみるのも一考です。

あるいは、弁理士業務からいったん離れて(1~2年)IT業務そのものを経験してみるのもオススメ。
こうしたキャリアは先の得意分野の習得とともに営業ルートの構築にも大いに役立つはずです。

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まとめ

以上、弁理士の現状や将来性について解説してきましたが、いかがだったでしょうか。

弁理士業界は、国内出願の減少、弁理士数の増加、AI等による業務への影響等々、厳しい要因が並ぶとともに、業界の過当競争が進んでいます。

他方で、弁理士の将来性は、個々の弁理士の取り組み方によって大きく変わってくるともいえるでしょう。

そうした状況下において、今後弁理士が生き残っていくには、得意分野を持つなどして自らを差別化していくことが求められます。

皆様におかれましては、これらの点を踏まえ、弁理士としての将来を切り開いていってもらいたいと思います。

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