独立開業は、昔も今も、公認会計士の選択肢の定番です。
特に将来を模索している若い人にとっては、大きな夢の一つと言ってもよいでしょう。
他方で、いわゆる事務所2代目・3代目の方は別として、独立には疑問や不安要素はつきものです。
例えば「独立した場合の業務内容は?」「年収は?」「独立成功者の特徴は?」など。
そこでこの記事では、公認会計士の独立開業について、どこよりも詳しく完全網羅でお伝えしていきます!
・実務経験、通算20年以上
・独立までに大・中・小の3つの事務所に勤務(他に特許事務所経験あり)
・資格:公認会計士・税理士・弁理士
・独立後は会計・特許事務所を運営
独立した場合の公認会計士の仕事・業務
独立開業したい会計士が知っておくべきこと
- 会計士と言えども、独立すれば税務が基本
- 1,500万円の売上が達成できれば成功と言える
- 監査のパートは売上げの3割までにする
会計士と言えども、独立すれば税務が基本
会計士は活躍できるフィールドが広く、税務以外にも様々な業務の可能性があります。
ですが、個人事務所を安定的に運営していくには、税務が基本となります。
一般的に顧客は中小企業であり、彼らの主なニーズは税務だからです。
もちろん、FASやIPO、その他コンサルを中心にやることも不可能ではないのですが、
個人での対応には限界があったり、業務が安定しなかったりします(注:事務所を組織化していく場合を除く)。
筆者の経験上の話ですが、税務を中心にしない場合、他の会計士と共同でコンサル会社を設立したり、(最初は独立していても)やがて他の組織に合流していくパターンが殆どでした。
なので、特に一人でやりたい、という人は、独立=税理士事務所運営と考えておいた方がよいでしょう。
1,500万円の売上が達成できれば成功と言える
今日では顧客獲得が難しく、かつ単価も低くなっていることから
筆者個人的には、独立成功の目安は、売上1,500万円ぐらいと考えています。
ちなみに、昨今では、税理士顧問料は1件当たり年間50万円ほどです(参考:「第6回税理士実態調査報告書」)
監査のパートは売上げの3割までにする
ゼロから独立する場合、会計士にとって切っても切れないのが、監査のパート(非常勤)です。
時給も高く、新規開業組にとって、大変助かるのですが、(最初はともかく)できる限り業務の割合としては縮小していくべきです(後述)。
具体的な業務・仕事内容
税務+コンサル等のスポット案件+監査の非常勤あるいは予備校講師業
上でも述べましたが、独立した場合の基本は税務です。
それにコンサル等の他の業務を加える形で、事務所の差別化を図っていくのがベターです。
スポット案件とは:
例えば、新しい会計基準への対応、管理システムの整備、IPO・FASコンサル関連、執筆、セミナー講師など。
昔は、執筆などは(監査のパートと並び)新規開業組にとって定番でした。
独立した場合の公認会計士の年収
開業税理士の年収実態
ここからは、皆様にとって特に関心のある年収について解説します。
まずは独立会計士の基本となる開業税理士の年収データから。
開業税理士の平均年収:744万円(スタディング 税理士講座・「第6回税理士実態調査報告書」)
注意したいのは(同報告書によると)約半分近くの開業税理士が500万円以下であり、さらに約3割が300万円以下ということです。
つまり、一部の稼いでいる税理士が平均年収を引き上げているのが実情で、
現実の開業税理士の年収は、500万円(中央値)あたりが年収実態に近いと言えます。
結局、かなり以前から(平成の早い時期から)開業している人と、近年独立された人とでは、状況が同じではないということです。
よって、今は「独立すれば年収は744万円」と安易に言えなくなってきています。
新規に独立した場合の売上目標
次は、独立開業した場合の具体的な年収シミュレーションです。
※独立後3年以内の、いわゆる一人事務所を想定しています。
監査の非常勤:年間120日(単価時給@7,000円)
顧問先数10件(年間顧問料50万円)
スポット案件(臨時収入)
基本は税務顧問ですが、それに監査の非常勤を加える形で当面は事務所運営をしていきます。
顧問先は10件としていますが、まずはこれを目標にするとよいでしょう。
これで、年間売上1,000万円を超える計算です。
監査報酬:時給単価@7,000円×6時間/日×120日=504万円
税理士報酬:年間顧問料50万×10件=500万円
スポット案件:200万円
合計1,204万円(売上ベース)
注意したいのは、これは年収ではなく売上ベースということ。
これから必要経費(注)を除いた額が年収となります。
(注)必要経費:
公認会計士協会や税理士会の会費、会計ソフトや税務ソフト、PCや電話等の事務機器代、消耗品・書籍、ネット関連の通信費、事務所家賃など
特に一人事務所でかつ自宅開業される場合は、実はそれほど高額な経費は掛かってこないのが通常です。
また、独立の場合はこの経費枠が実はとっても有難かったりします。
例えば、自宅家賃や水道光熱費、車両関連など、広く経費計上するのが通常です(50%ぐらいまでは経費に落とすことが多い)。
こうした節税効果も含めて考えると、会計士なら独立しても、実質的に年収1,000万円には十分届くというのが筆者の感覚です。
当面の目標は以上の通りですが、
独立して3年後には、監査のパートを半分以下に減らし、代わって自分の顧客数を倍にしていきたいものです。
例えば、次のような感じです。
監査報酬:@42,000円/日×60日=252万円円
税理士報酬:年間顧問料50万×20件=1,000万円
スポット案件:200万円
合計1,452万円(売上ベース)
これで監査の売上割合は3割を切りますし、売上も目標の1,500万円に近づけます(年収ベースでは、自宅兼事務所の場合、1,200万円といったところ)。
なお、売上2,000万円までは一人事務所でも、なんとかやっていけるものです。
それ以上の規模となると、常勤スタッフの雇用が必要になってきます。
独立開業vs監査法人勤務
独立開業と監査法人勤務を比較することで、独立開業のメリット・デメリットをイメージしてもらおうと思います。
注:監査法人は大手での常勤を、独立開業は個人事務所を想定しています(5段階評価で、筆者の主観です)。
監査法人 | 独立開業 | |
---|---|---|
収入 | 4 | 2~5 |
安定性 | 4~5 | 2~4 |
自由度 | 2 | 5 |
人間関係 | 2~4 | 3~5 |
ワークライフバランス | 2 | 1~5 |
🍀収入
監査法人の場合、パートナーまで行ければ文句なく評価は5なのですが、そこまで行けるのはほんの数パーセント。
なので4としておきます。
対して独立組は、以下の安定性と並び幅が生じやすいと言えます。
確かに頑張りによっては青天井ですが、現実的には法人の(シニア)マネージャークラスが多いのではないでしょうか。
🍀安定性
大手監査法人の安定性は高いと言えますが、今の時代何が起こるかわかりません。
また独立にしても、顧客が開拓できず、廃業する人も結構いるものです。
🍀自由度
これは言うまでもないと思います。
年収だけではない、独立の醍醐味:
筆者自身が独立の良い部分として挙げたいのが、自由に報酬を決められること。
言い換えると、顧客に対して請求書を直接切れるということです。
監査法人組から見たら「器が小さい」などと言われそうですが、この醍醐味は実際、独立してみないとわからないもの。
もっとも、これも事務所が軌道に乗って稼げるようになると「当たり前」になってしまうのですが。
🍀人間関係
監査法人勤務で注目したいのは、マネージャークラスを境目に状況が変わってくるということ。
現場はまだいいのですが、マネージャークラスまでいくと、社内政治やら、しがらみやらで、面倒なことに振り回されそうです。
他方、独立組も楽だとばかりは言えません。顧客との関係が、ある意味で大変だからです。
税務に対する顧客の反応は結構シビアなものです。
🍀ワークライフバランス
監査法人勤務の場合は、結構、厳しいと思います(特にマネージャークラス)。
このバランスを求めて(自分の身の丈に合った事務所運営を目指して)独立する会計士は多いです。
ただし、独立組と言えども、気楽にやれるのは一人事務所まで。
人を雇い始めたり、組織化したりすると、ハードワーク(さらにはワーカホリック)になっていくものです。
結局、独立組の自由とは、このバランスを優先させるか、あるいは(高収入を求めて)ハードワークに励むか、その選択の自由、とも言えるでしょう。
成功している(稼いでいる)独立会計士の特徴
筆者の経験を踏まえつつ、独立開業に成功している(稼いでいる)税理士の特徴をいくつか挙げてみたいと思います。
- 監査のパートに安住しない
- 早い時期に監査法人を退職している
- 高い専門性や得意分野などで差別化をはかっている
- 記帳代行をしない
監査のパートに安住しない
独立するというのは、営業活動も含めて本当に大変です。
頭だけでなく、体も動かさなくてはなりません。結構、心身共に消耗するものです。
ところが、楽して稼げる監査のパートにドップリつかっていると、どうしても「まあいいかぁ」となりがちです(しかも一度ハマると抜けられない⁉)。
言い換えれば、死に物狂いで、あるいは背水の陣で、仕事を取ってくる・歯を食いしばる、という覚悟が骨抜きにされやすいのです。
確かに同じ状況が未来永劫、続けばよいのですが、そうはいかないのがこの業界。
特に今日では、クライアントによる監査人変更の話はよく耳にします。
結果として、監査のパートは、どうしても不安定にならざるを得ません。
大手を中心にリストラの嵐が吹きまくっていた頃の話ですが、(監査のパートにあまり依存しない)独立組は本当に強かった!
彼らはビクともしませんでした。
早い時期に監査法人を退職している
上とも関係するのですが、要するに惰性で監査を続けない(しがみついていない)ということです。
監査を通じて身につくスキルは意外なほど法人の外では通用しません。しかも年齢とともに転職の機会は狭まっていきます。
確かに早い時期から(修了考査の前から)キャリア設計をしようとする人は、少数派。
ですが、先々のことを踏まえて仕事をしている人との差は、独立後に顕著に現れます。
20代のうちに監査法人を卒業した人は、独立して数年後には(30代には)都心の一等地に自分のオフィスを構えていたりするものです。
筆者の個人的意見ですが、(監査法人に定年まで居るつもりがないのなら)5年もやれば十分ではないでしょうか。
高い専門性や得意分野などで差別化をはかっている
従来型の業務(記帳代行と決算申告業務)だけでは、会計事務所の収益性は上がりづらくなってきています。
AIの進展・拡充などにより、今後はさらに厳しくなるでしょう。
そんな中で、得意分野や専門分野を備えておくことは、事務所成功の必須要素となりつつあります。
もちろん顧客獲得(営業)にも有利です。
結局、「○○についてはオレが業界一番、オレに任せろ!」ぐらいのところに仕事はバンバンくるものです。
具体例としては、資産税分野、IT分野、医療専門など。
なにも税務分野にこだわる必要はありません。各業種・業界を通じて差別化できれば理想的です。
ちなみに筆者は知財分野(弁理士業)と組み合わせてオリジナル性を発揮してきました。
記帳代行をしない
会計士税理士の強みが表れるところです。
記帳代行等の収益性の低い業務には一切タッチせず、事務作業は決算と申告のみ。
代わって、会計ソフトの導入(自計化)や管理体制の整備支援に力を入れていきます。
とにかく、稼いでいる先生は、日々のルーティーンワークは顧客の方でやってもらい、もっぱら社長からの相談等、コンサル中心にやっている感じです(FAS業務やIPO関連も多い)。
ただし、顧客は一定規模以上の企業となるため、一般的な税理士事務所とは一線を画している印象です。
中には社外取締役や監査役として関与する人もいます。
これが実現できると、先に例示した年間顧問料が50万円から、例えば100万、150万へと上がっていきます。
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独立希望者向けの転職先とキャリアルート
成功している独立系会計士の多くが得意分野や専門分野を通じて差別化を図っていますが、
そのために必要とされるのが、監査法人から一度離れて経験値を上げること。
ここではそのための転職先をキャリアルートと共に紹介していきます。
なお、転職を経ずに監査法人からいきなり独立すること(即時独立、通称即独)については、次の記事にて詳細に解説しています。
ぜひご一読ください。
監査法人➡税理士法人・会計事務所➡独立開業
繰り返しになりますが、独立した場合の顧客は中小企業であり、仕事の基本は税務となります。
なので、1年でもよいので税理士事務所(ただし会計士が運営している事務所)で税務を経験してみるとよいでしょう。
消費税の処理から法人税の申告書の書き方(ソフトの扱い含む)まで、全くのゼロからやってみるのは実に心細いものです。
また、税務経験と言えば、税理士法人等での資産税の経験が挙げられます。
一般的な税務よりも収益性が高く、かつ、少子高齢化によりマーケットは小さくありません。
法人絡みでも、事業承継に伴う自社株評価等のマターはつきものです。
顧客経営者から(頻繁ではないものの)一度は相談の話がくるのではないでしょうか。
なお、国際税務は個人事務所ではハードルが高く、業務も特殊かつ細分化しているので避けた方がよいでしょう。
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監査法人➡FAS系のコンサルティング会社➡独立開業
M&Aを含むFAS系のコンサルは、今では若い会計士にとっては定番とも言ってよいほど人気の転職先です。
報酬が高い一方、投資銀行ほどキツクはなく、しかも会計士としてのバックグラウンドを生かしやすいのでおススメです。
実際、ここで身についたスキルは、一定規模以上の中堅企業で生かすことができるため、収益性の高い業務運営につなげることができます。
上でも述べた通り、記帳代行等は効率が良い業務とは言えません。
他方、(報酬単価の良い)それなりの規模の企業を顧客にするには、こうしたスキルが求められます。
監査法人・監査➡監査法人・IPO➡(IPO準備ベンチャー➡)独立開業
上のFASと並んで会計士が経験しておいて損のない分野がIPO。
株式公開支援業務です(監査経験が直接役に立ちます)。
こちらは、転職というより事務所内での異動や転属が多いでしょう(難しければエージェントを通じて転職します)。
この業務を経験することで、中堅以上の企業を顧客にできる可能性がありますし、
(IPOまでいかなくとも)経理システムの構築や管理体制の整備など、コンサル業務もやりやすくなります。
また、さらにその後、実際にIPO準備ベンチャーに転職し、実際に当事者としてIPO業務を経験してみるのもオススメです。
経験値が一気に跳ね上がります。
監査業務に自信を持てた人、逆に物足りなさを感じた人は、直接、IPOベンチャーに飛び込んでみるのも一考です(優秀な方の中には、あっという間にCFOにされるケースもあり)。
ただし、いずれにしても業務は連日、深夜まで及ぶのでそのつもりで。
監査法人➡事業会社(経理・財務)➡独立開業
近年、会計士の間で注目されているのが、この事業会社での経験です。
実際に顧客側の立場に立ってみるのは、第三者的な立場以上に学ぶことがありそうです。
しかも、単にマネージメントだけでなく、営業活動も兼ねた人脈の構築まで、その経験は広く生かされるはずです。
現に、独立で成功している多くの会計士が事業会社を経験しています。
監査法人➡異業種➡独立開業
あまり聞かない選択肢ですが、筆者個人的にはオススメしたいところです。
要するに敢えて会計士とは一見無関係なところに身を置いてみるのです。
一例にすぎませんが、IT企業でWebマーケティングを経験してみる、などといった具合です。
無意味なように思えますが、トンデモナイ!
会計はどんな分野とも関係してくる一方、他の会計士たちが全く立ち入らない分野に精通しておくことは大変な強みとなり得ます。
いわゆる完全なブルーオーシャンです。
資産税にせよ、FASにせよ、IPOにせよ、競争相手はウジャウジャいるもの。
そんな中で頭角をあらわすのは容易ではありません。営業活動ひとつとっても熾烈を極めるでしょう。
そんな中でナンバーワンではなく、オンリーワンを目指すのです。
上で述べた通り、筆者も「知財・特許分野」で経験済みです。
ただし絶対条件が一つだけあります。
それは、その分野に強い関心があること。
差別化のためだけに無理をしてまで進むキャリアルートではありません。
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こういう人は独立はやめたほうがよい
ここでは独立は向かない人、やめた方がよい人を挙げておきます。
- 楽して大儲けできると思う人(注:ワークライフバランスを図るのとは異なります)
- 営業が嫌な人
- 監査のパートに安住しがちな人
- 自主的に業務を管理できない人
簡単にコメントしておきます。
今日では顧客の開拓は大変で、ただ机に座って電話を待っていても仕事は来ません。
また、上でも述べた通り、税務に対して顧客はシビアです。
最悪、顧客と税務署の板挟みになる、なんてことも。
聞いたことがあるかもしれませんが、
実際、税務は監査とはまた別の厳しさがあるもので、(純粋なビジネスとは異なる)人間臭い(泥臭い)部分に触れることが多々あるのです。
顧客からもどんな質問や相談が飛び出してくるかわかりませんし、ダイレクトに顧客からマイナス評価を食らうこともあったりします。
要はその覚悟があるか、ということです。
最後に~あなたは独立派?それとも監査法人派?~
最後に、独立組と監査法人組の両者に対して、ある質問を投げかけた時のことをお話ししたいと思います。
その質問とは、「自分のご子息に公認会計士になってもらいたいか(あるいは、独立組なら事務所を継いでもらいたいか)」というもの。
筆者は独立組なので、本当はフェアな問いかけではなかったのですが。
監査法人組(特にパートナー)は言葉少なく、多くの人がニヤッと笑って答えません。
答えたとしても「子供の意思を尊重する」の一言ぐらいです。
対して独立組は、「そりゃあ、継いでくれたら嬉しいけど、アイツ(ご子息)に会計士試験が受かるかなぁ」などと返ってきます。
皆さん、どこかご満悦ですね。
当然ながら、両者の職業観や人生観には温度差があります。
法人パートナー達からは「職責の重さや人間社会(?)の大変さ」が、独立組からは「仕事の面白さや充実感」が伝わってきます。
もちろん、どちらが良いか悪いかの問題ではありません。
人それぞれです。
この記事をご覧になっていらっしゃる皆様は、どちら寄りでしょうか。
よろしければ、参考にしてみてください。
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