公認会計士は税務はできない?監査法人から即独は無謀?

「公認会計士は税務は知らない、できない」

税理士の先生方がしばしば口にされる言葉です。
本当なの?と疑問に思う人もいるでしょう。

結論は、半分正解、半分は間違い、といったところ。

会計士と税理士の試験制度や基本業務に鑑みれば、そう言いたくなる気持ちもわかりますし、知識面自体についても(税務を経験していない場合は)反論しづらいです。

では、本当に実務もできないのか?監査法人からいきなり税務会計事務所を構えるのは無謀なのか?

この記事では、この問いにズバリ答えていきたいと思います。
特に監査法人から即独しようと思っている方はぜひ参考にしてみてください。

この記事の執筆者

・実務経験、通算20年以上
・独立までに大・中・小の3つの事務所に勤務(他に特許事務所経験あり)
・資格:公認会計士・税理士・弁理士
・独立後は会計・特許事務所を運営

目次

公認会計士は税務はできないのか?

結論から言えば、一部の特殊な領域を除き、十分可能です。

現実に監査法人から(税理士事務所を経ずに)いきなり独立(即時独立、略して即独)する会計士は少なくありません。

独りで個人事務所を開業しようとする場合は、税務が基本であることに変わりなく、
その際の一般的な実務はなんとかやっていけるものです。

筆者が監査法人に出入りしていた頃は、即時独立されたCPAが多かったように記憶しています。
彼らの独立開業時点での税務経験は殆どゼロ。
国際部や株式公開出身なども少なくなく、申告書すら書いたことない、と言っていました。

ただし、高度な専門分野を通じて差別化をしたり、優良顧客を取り込みたければ、(監査法人以外で)もうワンランク経験値を上げた方がよいでしょういきなり独立することに自信がない方も同様)。

どうしても従来型の記帳代行、決算申告業務では収益的にも限界があるからです。

そこで考えられるのが、辻本郷税理士法人などの大手税理士法人で、例えば資産税を中心に1~2年、手掛けてみる、というもの。
税務実務への自信はもちろん、営業活動の際のアピールも違ってきます。

即独に成功している会計士の特徴

  • 他の先生方とのネットワークが充実
  • メンタルが強く、プレッシャーに耐えられる
  • 人一倍努力家・勉強家
  • 人に命令されたくない(使われるのが嫌)

他の先生方とのネットワークが充実

独立すると自分一人で全てを背負うことになる一方、なにかとトラブルや悩みが尽きません。

こんなときに頼りになるのが、助け合ったり情報交換できる他の先生方の存在です。

その点、開業している先生方は、他の先生方との人的ネットワークが充実しています(後述)。

メンタルが強く、プレッシャーに耐えられる

即時独立の場合は、なにかと不安がつきものです。

それこそ日々の仕訳処理から申告書の作成まで、半ばぶっつけ本番的なところがあったりします。

たまにいるのですが、「間違えたらどうしよう、どうしよう」「失敗して、もし顧客に怒られたら…」などという人。
さらには、心配で所轄税務署に電話しまくる、などという人もいたりします。

税務調査などでは更にプレッシャーがかかるものなので、独立したいが自信がないという人は、1年でよいので、税理士事務所でじっくり実務を経験してみてください。

人一倍努力家

これは言うまでもないと思います。

特にゼロから独立するのは、本当に、本当に大変です。
頭だけなく、体も同時に動かしていかなくてはなりません。

特に会計士の場合は監査のパートを掛け持ちすることになりますが、これに安住するようなら(独立は)厳しいでしょう。

独立に成功している人は、この辺りも違いますね。

ちなみに、かく言う筆者は監査のパートを10年近くも続けてしまいましたが、今は後悔しかありません。
そこで得たものと言えば、ハッキリ言って多少の小遣い銭ぐらいです。

人に命令されるのが嫌(使われるのが嫌)

職業観、価値観というものは人それぞれですが、
こうした職業観の持ち主を「井の中の蛙」とか「お山の大将」と捉える人もいるでしょう。

ですが、個人で独立しようとする士業従事者の多くは、「使われること」に抵抗感や違和感を覚えるものです。
良し悪しは別として、雇われる≒奴隷、と感じる先生もいるぐらいですから。

このマイナスともとれる思考や感覚を、行動に移すための原動力にできる人は、転職するよりもサッサと独立した方がよいかもしれません。

監査法人から即独する際に心掛けたいこと

  • 監査法人在職中から税務の勉強をする
  • 監査法人在職中から人脈をつくる
  • 税理士会等を通じて、情報交換できる仲間をつくる
  • 資産税絡みは単独ではやらない

監査法人在職中から税務の勉強をする

監査業務では経理はクライアントの方で基本的に全てやってしまい、会計士はこれをチェックするだけとなります。
自分で経理事務をすることはなく、どうしても受け身になりがちです。

監査法人在職中は、法人税の申告書作成や消費税の手続きなどをやることはありません。

ところが、一見すると簡単に見える作業も、いざやってみると結構戸惑ったり、不安になってくるものです。

結局、独立後、勉強しながら実務をやっていくことになりますが、できれば監査法人在職中から知識面での準備を始めた方がよいでしょう(後述)。

監査法人在職中から人脈作りをする

こちらはどちらかというと、実務ではなく営業の話です。
要するに独立開業に向けての種まきです。

これを事前にしていた方と、独立してからやる方とでは全く顧客の開拓度合が変わってきます。

なので、法人の内外を問わず(クライアント関連も含めて)周囲に自分の将来の展望、そして今そのために努力していることを、それとなく伝えておきます。

税理士会等を通じて仲間をつくる

上でも触れましたが、一人でやると実務から顧客トラブルまで、いろいろと悩みを抱えるものです。
そんな時、いろいろと助けてくれるのが、税理士会を通じて知り合う他の先生方の存在です。

ですので、税理士会に入会したら、会務や勉強会等に参加することを強くオススメします(また、同期会をつくるのもよいでしょう)。

開業されている先生方は、情報交換をはじめ本当にお互いに助け合っています。

資産税は単独でやらない

「資産税はやらない」と決めている人もいるくらい、リスクの高い分野です。

なので、本格的にやるなら、税理士法人で1年は経験を積んでおきましょう。

そうでなければ、他の税理士法人や資産税に詳しい先生と共同で行うべきです(税理士法人のHP等でも、結構案内があります)。

また、上で述べた税理士会等での仲間づくりが威力を発揮します。

なお(あまりオススメではないのですが)税務署と事前にすり合わせながら(お墨付きを得ながら)進めることもあり得るでしょう。

即独する際の税務上の注意点

即独しようとする会計士が戸惑いやすい箇所とは

  • 法人税申告書別表4・5(重要度:A)
  • 給与計算・年末調整(重要度:B)
  • 住民税の申告書(重要度:B)
  • 消費税絡みの手続(重要度:A)
  • 事業継承(自社株評価)(重要度:ー)

これ以外にも挙げたらキリがないのですが、費用・損金関連(例えば交際費や修繕費絡み)は比較的取り組みやすそうです。

🍀法人税申告書別表4・5(重要度:A)

今日では申告書は基本的にソフトがやってしまいますが、自力で全く作成できないのは感心しません。

いざという時や、変則的なパターンに備えるためにも、基本的な別表は自力で作成できるようにしておきましょう。

そのなかもで別表4・5(特に留保項目や租税公課)の理解は大変そうです(連結並みに苦労すると思います)。

初心者向け・実務家向けの「書き方」本がいくらでも出回っています。
注:教材は最新版を必ず使うこと(以下同じ)

🍀給与計算・年末調整(重要度:B)

これも基本的にソフトがやってしまいますが、いざ自分でやってみると面食らうものです。

実務に就いてからでいいですから、自分で一度は(顧問先1社目ぐらいは)じっくりと取り組むことをオススメします。

🍀住民税の申告書(重要度:B)

こちらも同様です。

🍀消費税絡みの手続(重要度:A)

特に慎重にしたいのがコレ

結構、税理士さんでも損害賠償の対象に挙がってきます。

どれも難しいケースについての判断ミスなどではなく、勘違いや基本的な知識の欠如による、手続き上の過誤・期限徒過です。

ですので届出書などは、いつのタイミングでどの書類を提出するか、しっかり規定等で確認しましょう(さもないと取り返しのつかないことになりかねません!)。

🍀事業継承(自社株評価の問題)

独立したばかりの方にはあまり関係ないように思われますが、
税務をやる以上、いつかは直面する問題です(しかも税務マターとしては最高レベルです)。

自分は資産税はやらない、と決めている方でも、いずれは顧客経営者から相談がきたり、対応を迫られる場面がきます。

内容的には「財産評価基本通達」(相続税絡み)などが関係してきますので、税理士会の勉強会等に参加しておくとよいでしょう。

もちろん完璧でなくても構いません。
ただし、少なくとも他の資産税の専門家とコミュニケーションがとれるレベルにはなっておきたいものです(何を言っているのか、チンプンカンプンの状態だけは避けたいですね)。

(自分の会社の)株式移動について、オーナー経営者から話がでてくることは意外と多いです。
慎重な対応が求められる箇所でもあるため、普段は余裕のありそうな先生も、このテーマになると表情が変わります!

前任者から顧問先を引き継いだ場合の注意点

顧客の中には、新規設立ばかりではなく、代理人の交代によるものもあるでしょう。
この場合は、それまでの帳簿や経理書類が大いに参考になるのですが、注意も必要です。

中には明らかな間違いが含まれているからです。

その場合は、(前任者の処理を鵜呑みにせず)きちんと調べ早めに正しいやり方に変えていくべきです。

でないと、調査の時などで指摘を受けたとき、顧客からなんで、もっと早く言ってくれなかったんだ!と責め立てられることになります(もちろん、それだけでは済まないかも)。

即独には中小法人がオススメ

会計士試験に合格すると、大部分の方が大手監査法人に就職されると思います。

他方、監査法人からいきなり独立するつもりの人は、大手よりも中小監査法人がオススメです。

理由は次の通り。

  • 独立した時の顧客は中小企業がメイン
  • 中小法人の方が顧客規模が小さく全体的にわかりやすい
  • 中小法人は業務が細分化されておらず、事務所によっては税務も経験できる

独立した際の顧客は、中小企業がメインとなりますが、そこで求められるのは、高度な専門知識よりも浅く広い知識です(複雑な会計基準ではなく、税務に従って処理することが殆どです)。

特に、大手監査法人のクライアントは大きすぎて、なかなか全体が見えてこず、何をやっているのかさえ、よくわからなかったりします。
また、金融機関等のクライアントも特殊過ぎて、独立の際には(監査経験が)あまり役に立ちません。

対して中小法人では、顧客の規模は比較的小さいところが多く、実際の経理実務もつかみやすいものです

例えば、売掛金管理の実務である消込作業など。

さらに、大手ではパートナーですら税務には疎かったりするものですが、
中小では税務に詳しい会計士が多く、監査の現場でも税務が話題になるなど、とても勉強になります(中には税務実務を経験できる事務所もある)。

もちろん、大手監査法人から中小法人に転職して、その後、独立するのもアリです。
実際にそうしたケースも多いです。

ただし、いずれにしても、中小監査法人には様々な事務所がありますので、しっかりと事前に情報収集する必要があります。

ですので、中小監査法人への就職・転職の際には、ぜひ転職エージェントを活用してみてください。

ここでは特に監査法人に強いエージェントを紹介しておきます。

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マイナビ会計士MS-Japanレックスアドバイザーズジャスネットキャリア
得意分野公認会計士管理部門
士業
公認会計士
税理士
公認会計士
税理士
主な年齢層20代・30代20代~50代20代~40代20代・30代
設立(歴史)1973年1990年2002年1996年

迷ったらマイナビ会計士がオススメです。

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まずは焦らず、1社目(顧問先第1号)に真摯に取り組もう

初めての顧問先ができたときは実に感慨深いものです。
他方で監査法人にいた時とは全く別のプレッシャーを感じるかもしれません。

また、特に即独される方は、この1件から実質的に税務を勉強させてもらうことになります。

中小企業の税務は共通するところが多く、やること自体にそれほど大きな違いはありません。
あとはプラスαさせていく感じです。

なので、まずは全力でこの1件に取り組んでみます。

必ずや自信と充実感が芽生えるはずです。

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