弁理士はやめとけと言われる理由|よかったこと・メリットも紹介

「弁理士やめとけ」「弁理士オワコン」
ネットの検索ワードでもよく出てくる文言です。

弁理士を目指そうとしている人にとっては気になりますよね。

確かに昔と比べると業界は厳しいですし、試験の難易度や専門性に鑑みると割に合わないようにも見えます。

ですが、想像以上に状況は複雑ですし、なかなか表に出しづらい実情もあったりします。

そこでこの記事では、筆者の体験を踏まえつつ、弁理士はやめとけと言われる理由、よかったこと・メリットにズバリ迫ってみたいと思います。

この記事の執筆者について

主な経歴:
早稲田大学理工学部中退、慶應義塾大学経済学部卒
特許事務所→公認会計士・監査法人→特許業界復帰→弁理士→独立(特許事務所・会計事務所経営)

特許事務所を営む父親の長男に生まれる。
その関係もあって学生の頃から特許業務に従事。
ところがある日、急にビジネスの広い世界を知りたくなり、会計士業界に飛び込む。
父親の健康事情及び自身の適性を考慮して特許業界に復帰、その後、事務所を承継。

目次

弁理士はやめとけと言われる理由:知っておくべき業界の実情

一人前の弁理士になるには時間がかかる

弁理士試験合格には相当の時間がかかります。
通常、仕事をしながら試験勉強をしますので、一般的には3~4年を要します。

また、試験勉強とは別に実務の習得にも時間がかかります。
個人差がありますが、ノーチェックで明細書が書けるようになるには、最低でも2~3年はみておくべきです。

それでも一人前の実務家になれればよいのですが、皆がそうなるとは限りません。

受験者数ナンバー1の東大ですら、試験に合格するのは少数派。
それ以外にも、なかなか実務の習得がままならない人もいます。

結局

  • 何年やっても弁理士試験に受からない
  • 実務に閃きが起らず、明細書が一向に上手く書けるようにならない

など

やめとけばよかった、と後悔する人が後を絶ちません。

昔の弁理士試験は悲惨だった<コラム>:
大昔の弁理士試験は科目が多く、いろいろと複雑でした。
合格率は2~3%。数千人受けて合格者数は60名とか80名とか。
ですので20年、30年やって結局…というのが当たり前。
例えば、ある元受験生の葬儀に参列した際、段ボールいっぱいの受験票を見てゾッとしたものです。
今は聞かなくなりましたが、司法試験と並んで”人生棒に振ってしまいかねない試験”の一つでした。

ブラック特許事務所の存在

事務所によっては厳しいノルマを課しているところもあります。

特に低い単価で引き受けつつ、その分、数量で稼ごうとする事務所などです。

また、忙しい事務所では、然るべき指導を満足に受けられず、
その結果、実質放置のまま、𠮟責だけが飛び交うなんてことも皆無ではありません
(中小事務所の中には職人気質全開の所長先生がいます)。

確かに丁寧で面倒見がいい職人先生なら、(互いの相性によっては)比較的短期間で実務家としての実力がつくでしょう。

でも、そうでなければ指導(愛の鞭?)と称して罵倒される日々にになりかねないのです。

特許出願件数の減少

国内出願は近年減少傾向が続き、2020~2022年は年間30万件を下回る水準となりました(参考:特許庁ホームページ「特許行政年次報告書」)。

いわゆる量から質への転換であり、出願が絞り込まれているのです。
昔は、とにかく早くなんでも出願するというスタンスでしたが、それとは対照的です。

費用対効果や予算の問題も含め、企業の特許への戦略的な姿勢も窺えます。

確かにPCT出願をはじめ、外国関連の仕事は増加していますが、数量的にみると国内系と桁が違いますし、

何より弁理士の基本業務は国内出願であることに違いありません。

要するに、弁理士にとって全体の市場のパイが縮小しているのです。

弁理士の増加と過当競争

弁理士試験の改正とともに、弁理士の数が急増し、既に会員数は1万人を超えています(参考:日本弁理士会ホームページ「会員分布状況」)。

現在は受験者数、合格者数ともに落ち着いてきていますが、上で述べた出願件数の減少からすると、過当競争の状況は今後も続くと予想されます。

また、独立開業も昔のように簡単にはいきません。
クライアントはそう簡単に代理人を変えませんし、中小企業を顧客にするのは容易ではないからです。

需要と供給のバランスの問題はもとより、単純に競争が働くともいえない難しさが特許業界にはあります。

稼げない(費用対効果に疑問符)

特に、企業の知財予算の削減もあって、特許出願の単価は以前よりも遥かに下がってきています(昔の半分から3分の1ほど)。

また、過当競争による事務所のダンピングなどもあり、弁理士の収入も昔に比べ厳しいものになってきています。

資格の難易度や専門性からして、平均700万などと言われる年収は割に合わないと思う人も多いでしょう。

もっとコスパ良く稼げる職業が魅力的に見えても不思議はありません。

ただし、全く希望がないわけではありません。
その辺りも含め、年収については別記事にて詳細に解説していますので、ぜひ一読してみてください。

弁理士資格は片道切符?

弁理士業は一人前になるまで時間がかかる一方、つぶしがききづらい面があります。

ですので、いったん業界入りすると後戻りは難しそうです。
医師業とどこか似ていますね。

おそらく一人前になる頃には年収で言えば800万ほどになっていると思います。
年齢的には中堅といったところでしょうか。

人によっては実務家としての芽がでないまま、年齢だけがいってしまうこともあるかもしれません。

こんな時、法律や会計などでしたら広く道が開かれているものですが、知財は相対的に狭く特殊な分野と言えます。

全く異なる業界にゼロから取り組むとなると、年齢も含めかなり厳しいものがあります。

弁理士はつらいよ~マジでやめとけ!と言いたくなることも~

眼鏡を外して、うつむきながら苦悩する男性

ところで、皆様は、本来の弁理士って、どんなキャラクターを思い浮かべるでしょうか。

弁理士の基本業務は、事務所勤務を前提とすると、独り黙々とデスクワークをする感じです。
そのせいもあってか、寡黙な学者タイプの人が少なくありません。

しかも、匠の技を駆使して、この世に二つとない明細書を作成していきます。
自分の流儀に拘る頑固一徹な人もいるほどです。まさに職人です。

もし仮に、そのような人種が営業職や管理職を命じられたら、どこまで務まるでしょうか(裏を返せば、営業等で外を飛び回っている人が、終日デスクワークをするよう命じられたらどうなるか)。

人によっては相当キツク感じるでしょう。

でも、考えてみると弁理士もビジネスマンです。

それなりの規模の事務所パートナーともなれば、特許実務をこなす一方、顧客の(予算権限のある)知財責任者と報酬交渉をしたり、新規顧客の開拓に励んだりすることがあります。
独立したら尚更です。

他方で、弁理士たちには、(絶対に譲れない)仕事に対する自分だけの信条や矜持があるのですね。
そのため相手のスタンスや考え方が受け入れられず、状況によっては対峙(衝突)が避けられなかったりします。

例えば、一切の妥協を許さずに作り上げた明細書を(顧客の言うとおりに)書き直してくれ、と言われることも今日では普通です。
また、一方的に報酬の値下げを迫られるかもしれません。

もちろん、これらに対して、あからさまに断る弁理士は少ないでしょう(こうして顧客が明細書のクレームを台無しにしてしまうことは、しばしば起こり得る)。

ですがやる気を削がれてしまう人は少なくなさそうです。
そしてそのマイナス面が顧客とのやり取りの中で露呈します(これまた弁理士は不器用な人が多い)。

こうして弁理士人生をツマラナイものにしてしまうのです。
プロたちは、直接口には出しませんが…

特許業界から逃げ出した話<コラム>:
筆者の父親は、結構やり手の事務所経営弁理士でした。
その関係で学生の頃からずっと事務所に出入りしていたのですが、なぜか目についていたのは、争いごとや衝突ばかり。
そんな筆者は、ある日とうとう嫌気がさし、家業を飛び出して公認会計士業界に逃げ込んだのでした。
(当時は)「会計士さんって、なんて紳士的な人たちなんだろう!」と感銘したものです。その後、何が待ち受けているかも知らずに

弁理士は孤独になりがち?

ネガティブな体験談を挙げたらキリがないのですが、上で述べた事との関連でもう一つ気になることがあるので触れておきます。

当然のことですが、仕事では他者との関わりやコミュニケーションは避けて通れません。
他方で特に合わない人や、ぶつかりやすい人との関係では注意が必要になってくるものです。

にもかかわらず、こうした他者との関わりが苦手な弁理士は存在します。

例えば、実務以外で筆者が目の当たりにしたのは某受験予備校内での、講師たちの対立です。

なんと同じ予備校内で(講義中)教授法を巡り互いを名指して非難の応酬をしていました。
かなり昔のことなのですが、「ああ、あの講師達か」とピンときた人もいるかも。
また、弁理士会の実務修習でも(そこまでではないものの)似たようなことがあったような気がします。

弁理士同士の対立は明細書の流儀などで勃発しがちですが、それだけにとどまらないようです(ちなみに他の弁理士の書いた明細書のことをボロクソに言うことは日常茶飯事だった)。

しかも、各人の言っていることがあまりにバラバラで、特に後進の人たちからすれば「一体誰の言葉を信じればいいんだよ!」と言いたくなるでしょう。

要するに(職人気質全開の)正しいのは自分だけだ!の論調に振り回されるのです。

公認会計士業界でも同様のことはありましたが、弁理士は少し度が過ぎるようです。

弁理士やってよかった!と思えたとき

good job!

以上、弁理士の負の側面についてお話してきました。

確かに負の部分は決して小さくありませんが、実はプラスの部分もスゴイと言えます。

ここからは、その主なプラスの部分に入っていきます。

  • 多様な働き方ができる
  • 独立開業も可能
  • 定年なく働ける
  • 年収も平均的なサラリーマンより恵まれている

先ほど、弁理士業はつぶしがきかないと言いました。

ですが、働き方の柔軟性は、また別の話です。

つまり、明細書がしっかり書けることを前提に自由に働き方を選べます。

時間管理も含めて選択肢は広く、事務所を渡り歩くことだってできちゃいます。

事務所で明細書の腕を振るうもよし、クライアント側で陣頭指揮を執るもよし、そして独立開業。

講師業や事務所パートを続けながら開業している弁理士はいくらでもいますし、
仮に独立が不本意な結果になっても事務所等に復帰することは十分可能です。

収入だって平均のサラリーマンより恵まれています。

なにより、実力があれば転職や独立を通じて自分の収入を自分で決められるのです。
これこそがサラリーマンとの大きな違いの一つです。

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筆者が弁理士をやってきた感想

今度は、筆者が特に経験上感じた弁理士の優位性を挙げてみます(お待たせしました!こっちが本題です)。

  • 専門性がずば抜けて高く、希少性は今でもある
  • 自分の腕一本で食べていける

専門性と希少性

他の士業にも専門性の高い分野はありますが、弁理士業務は特にハードルがずば抜けて高いです。

技術と法律の両方が絡むというのがありますが、とてもにわか勉強で太刀打ちできるものではありません。

あまり言いたくないですが、例えば税理士事務所の日常業務と弁理士事務所の日常業務とを比べても次元が…。

結果として(弁理士は増加してはいるものの)社会全体から見てまだまだ希少価値があると言えます。

特にそれを感じるのは、弁理士ばかりが出入りする世界からチョット離れた時。

弁理士がいかにスゴイものを持っているか、そしてどれほど必要とされているか、ヒシヒシと痛感します(知財の世界の中だけだと気付きづらいものですが)。

実は現在も特許や知財ののニーズは少なくありません。
他方で、社会一般の人にとって特許事務所は馴染みが薄く、うまい具合に互いに交流できていないようにも感じます。

裏を返して言えば、弁理士が社会の需要を的確につかみきれていないとも言えるのです。

事実、私が公認会計士をしていた頃からも、知財の問い合わせ、仕事の依頼は結構ありましたが(身近なものだと、例えばスポーツ用品、福祉器具、音楽配信システムなど)、

同時に疑問に思ったものです。

こんなに需要があるのに、どうしてもっと弁理士を活用しないのか!?

と。

自分の腕一本で食べていける

今日では何が起こるかわかりません。
組織にせよ人間関係にせよ、全く予想だにしなかったことが起こり得るのです(将来の年金だってどうなるか心配ですね)。

こんな時でも、勤務であれ独立であれ、とにかく生きていける技が備わっているのは心強いものです。

そういう意味で明細書がしっかり書ける弁理士は真に無敵と言えそうです。

ちなみに”無敵の人”という言葉があるそうですが、
ここでは「失うものがない、」いう意味ではなく、(むしろ逆に)「ゼロから価値を自分一人で生み出せる」ということです。

例えば、弁理士の根本的な実力は数枚の明細書にすべて表れますが、
こんなにシンプルかつ明快に実力を明示できる専門職ってあります?

公認会計士と比べると、少なくともこの点は弁理士の独り勝ち!(監査調書がいくら上手く書けてもそれ自体はおカネになりません)

ですので、少し乱暴に言えば

いつ辞表を提出しても困らない職業

とも言えます(本気で考えている人も結構いるのでは?)。

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弁理士の適性について

弁理士は、その適性が士業の中でも最も厳しく問われます。

ここでは、弁理士に向いている人の特徴を以下に簡単にまとめておきます。

  • デスクワークが苦にならない
  • 情報収集・処理能力に優れている
  • 勉強意欲や向上心がある
  • ヒアリング能力が優れている
  • 文章にて論理的に説明することが得意

最後に

弁理士のマイナス面とプラス面を中心に解説してきました。

記事内容としては、一般的に言われている事柄と私の体験談・感想の両方を織り交ぜながら綴ってみました。

とにかく実情がいろいろと複雑なこともあって、内容的に多少相反してしまった部分もありますが、

それも弁理士のキャラの一部と受け止めていただければ嬉しいです。

この記事を通じて「それでも自分は弁理士として生きていく!」と思えた方は、弁理士としての資質は十分あると思います。

ぜひ頑張って自分の理想とする弁理士像を追求してみてください。

皆様のご成功とご活躍を期待しております。

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