この記事を読もうとしている人は理系が多いと思います。
ですが、専門性が高い一方、理系を念頭に置いた公認会計士の情報はあまり見かけません。
そんな中にあって、例えば
- 理系は公認会計士に向くのだろうか
- 理系が公認会計士を目指すときのメリットやデメリットは?
- 目指す際に知っておくべき事や注意すべき事は?
などの疑問がでてくると思います。
結論的には、大いにお勧めしたいのですが、懸案事項もあるのは確かです。
そこで、理系と文系両方通った筆者が、特に理系の視点から公認会計士を目指すことについて解説していきます。
筆者の感想や理系向けの指針も示しておきましたので併せて参考にしてみてください。
・実務経験、通算20年以上
・独立までに大・中・小の3つの事務所に勤務(他に特許事務所経験あり)
・資格:公認会計士・税理士・弁理士
・独立後は会計・特許事務所を運営
・学歴:早稲田大学理工学部中退、慶應義塾大学経済学部卒業
公認会計士は理系と文系どっちが多い?
公認会計士試験の内容は、会計学、監査論、企業法、税法、経営学等です。
大学の学部で言えば、商学部、経済学部、あるいは法学部などが関係してきます。
要するに文系学部です。
もちろん理系でも、管理工学や経営工学などでしたら会計士試験にマッチするでしょう。
ですが、それらは理系学部ではどちらかというとマイナーです。
公式の内訳データがないので推測になりますが、現状として9割以上が文系出身だと考えられます。
理系が公認会計士を目指すときのメリット
先ず結論をまとめます。
- 理系は論理的思考力に優れている
- 就職や実務で威力を発揮!
- 大学受験は会計士試験でも意外と有効
- 将来的にも会計士の勉強は役立つ
理系は論理的思考力に優れている
文系の世界では、利益考慮や解釈といった価値判断のような要素が介入してきます。
恣意性というか、ファジーな部分を完全には排除できません。
他方、理系の人は、数理的に捉えることを通じて論理的、客観的に物事を考えることができます。
特に証拠に基づく理論構成を、順序だてて積み上げていくことに慣れているのですね。
まさに財務諸表監査で求められる資質です。
実はこのようなことは、文系、理系問わず必須事項なのですが、
理系は学業を通じてこの習慣が徹底的に叩き込まれているのです。
就職や実務で威力を発揮!
理系の専門性は、就職と実務で威力を発揮します。
まず、希少価値を有する理系は、就職でも頭一つ以上とび抜けています。
語学力や資格と並んで、ある種の得意分野として認められるのです。
また、その専門性が更に発揮されるのが実務です。
例えば、大手ゼネコンの監査。
長期工事の進み具合の見積もりや判断をしますが、そこでは多かれ少なかれ技術的な要素が入っていきます。
こんな時、建築・土木を専攻していた会計士は、まさに出番と言えるでしょう。
他にも、
近年脚光を浴びている燃料電池なども同様です。
コストの話と技術の話が一緒にでてくることがありますが、全く知識が無いと???となりがちです。
電気化学の素養があるのとないのとでは、クライアントのビジネスの理解に温度差が生じてくるのです。
更にいえば、理系の活躍できる分野は、メーカーに限りません。
他にも金融機関やIT企業で、数理工学や情報工学に基づく知識は必須になりつつあります。
こうした知識や素養の有無で財務データの背景を理解する度合いが違ってくる、ということです。
大学受験は会計士試験でも意外と有効
理系の大学受験の経験は、会計士試験でも意外と役立ちます。
あまり意識しないのですが、理系の勉強が役に立つのは、何も大学での勉強だけではないのです。
特に事象を数値化したり、数式で追いかけたりするのは、理系特有の頭の使いどころがあります。
例えば、理系の人の中には化学を勉強された人がいると思います。
結構この学習経験が会計学や経営学の試験科目で生きてきます。
筆者の経験上、原価計算やファイナンスの勉強などは、電卓片手に「化学重要問題集」や「化学の新演習」をやっているような感じでした。
企業法などの法律科目は、数学の証明問題を解いてる感覚に近いでしょうか。
将来的にも会計士の勉強や経験は役立つ
メーカーをはじめとする企業に就職すると、遅かれ早かれ管理職に就くことになります。
理系と言えども、生涯、研究開発にとどまる人はむしろ少数派で、
40歳ぐらいからマネージメントのポジションに移動するのが通常です。
筆者も技術畑出身の管理職を見てきましたが、苦労しながら勉強している方が多そうです(会計士のような体系的な勉強の大切さを痛感します)。
また、研究開発と言えども、企業である以上、最終的には収益の確保が目標です。
そんな現実の中にあって、理系でありながら会計士資格を有する(あるいは会計士の勉強をしておく)ことは実はとても貴重なことだと思います。
公認会計士ほどマネージメントに近づける国家資格は他にないからです。
卒業後の進路や分野にかかわらず、勉強しておいて損はないはずです。
更に付け加えると、少数ながら会計士を経て研究職に戻るケースもあるかもしれません。
そんな時でも会計士の資格は役立ちます。
研究一筋というのも素晴らしいことですが、
会計士の勉強や経験を経ることで、机上の空論に陥ることなく、社会に還元できる方向性を見出すことが可能です。
言い換えれば、理論と実践との橋渡し的な視点を持てるということです。
理系が公認会計士を目指すときのデメリット
こちらも結論いきます。
- 大学との両立が大変(特に時間面)
- 学習内容に馴染みがない
- とにかく暗記量が多く理系にはキツイかも
大学との両立が大変
会計士試験では、とにかく勉強量が膨大です。
そのため文系の学生や受験専念者は、一日平均6時間以上勉強するのが普通です。
つまり実質的に日中から受験勉強に専念しているのです。
他方で理系大学生はどうでしょうか。
数学科や物理学科などの比較的実験や実習の少ない学科なら、かなりの勉強時間を確保できるかもしれません。
ですが、化学系や工学系の学科はそうはいかないでしょう。
朝から夕方までビッシリ実験・実習が詰まっており、しかもその後のレポート課題が大変です。
要するに、
会計士試験の勉強をやるだけの十分な学習時間が取れない!
のです。
理系の最大のデメリットです。
おそらく研究室に配属されたり、卒論に取り掛かる頃になるとさらに時間的に厳しくなると思います。
考えてみれば、エンジニアは医師と同様、高度専門職。
医学部に通いながら弁護士目指すようなもの、と言ったら言い過ぎでしょうか。
学習内容に馴染みがない
会計士試験の内容は、会計学をはじめとする専門科目がズラッと試験科目に並んでいます。
どれも理系分野の内容とは全く異なり、なかなか慣れるのが大変です。
もちろん受験予備校のカリキュラムは、全くの初心者向けのものが用意されています。
心配は要りません。
ですが、専門用語のオンパレードのうえ、慣れないうちは勉強の仕方や感覚を掴むのも大変です。
勉強時間の制約も勘案すると、大学で学んでいる事柄と全く無関係というのは相当大変だと思います。
とにかく暗記量が多く理系にはキツイかも
理系の中には暗記は苦手という人も多いでしょう。
ですが会計士試験では、膨大な量の専門用語等を暗記していく必要があります。
計算科目以外は、社会科のような科目ばかりに感じるかもしれません。
他方で、会計士試験は単なる暗記科目とは異なります。
こうした膨大な知識を活用して(応用して)数学の証明のようなこともするのです。
ただし、その多くにはパターンがあって、これまた暗記していくことになります。
結論として効率的な勉強には会計士専門のスクール・予備校の活用がベストです。
特に忙しい理系の人には通信講座がオススメです。
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理系に通っていた筆者の感想
単純に理系と文系、どちらを卒業しておくべきか、といわれると、筆者の意見としてはズバリ理系です。
(あまり大きな声で言えないのですが)現実的に文系の勉強や仕事は理系でもできますが、その逆は極めて困難だからです。
言い換えれば、理系の方が(文系に比べ)将来に向けての選択肢は広くなるのです(後述する弁理士資格だってOKです)。
ちなみに筆者の場合、理系の大学で学んだこと(数理的素養)は今でも体に染みついていますが、文系のそれといえば…
(せっかく入り直したのに)授業はおろか、三田キャンパスに通ったことすら記憶にありません。
なので、理系に進まれたこと自体とても賢明ですし、そのうえ公認会計士に関心を持たれることは大変素晴らしいと思います。
ただし、やはり一番の懸念材料は勉強時間の確保です。
特に機械、建築、化学系などは遅くまで実験・実習があるうえ、レポート作成が大変なはずです。
筆者(土木工学専攻)も夜7時、8時くらいは当たり前でしたし、レポートも週3~4はあったように記憶しています。
土日などの休みの日も、これらの作成や実習課題によって結構、潰れたものです。
実際、こうした状況はある意味フルタイムで働いている社会人よりもハードです。
通信講座を活用してもかなり厳しいですし、合格には答案練習会への参加(通常だと毎日のようにある)は不可欠です。
合格の秘訣として、ある程度短期間集中が望ましいのですが、筆者の経験からみても、ここは地頭に左右されるかもしれません。
理系は必ずしも会計士資格を急ぐ必要はない
以上のことから、理系の学生が学部在学中に合格するのは至難の業と言えるでしょう。
また、在学中の合格が難しい以上、次のような選択を迫られることもあり得ます。
- 大学院へ進学するか、(受験浪人をしながら)会計士の勉強に専念するか
- いったんメーカー等へ就職するか
結論としては、もし大学での勉強や研究を続けたいのであるならば、無理に会計士試験を優先させる必要はありません。
理系での学業は専門的かつ貴重である一方、会計士の勉強は20代の内なら十分間に合います。
さらに言えば、メーカー等での研究開発経験は非常に有益であり、理系としてのキャリアを確固たるものにしてくれます。
ご存じの人も多いと思いますが、
大学での勉強と仕事としての研究開発は、ビジネスの実践という意味で異なります。
会計士の実務までも考慮に入れると、実は仕事としての研究開発をしていた方が有益と見ることもできるのです。
ですので、例えば、学部卒業後、修士2年、企業経験3年を経て、そのうえで会計士に挑戦することも十分アリと言えます。
もう一つの理系資格、弁理士との選択について(参考)
理系向きの資格に弁理士というものがあります。
特許や知財の専門家で、理系の弁護士ともいわれています。
理系で資格に関心がある人は、この弁理士の方が馴染みがあるかもしれません。
公認会計士とどっちにしようか迷っている人もいるでしょう。
この記事では詳細な士業比較は割愛しますが、簡単にコメントしておきます。
公認会計士との選択の際には参考にしてみてください。
- 会計士試験合格者の主な年齢層は20代なのに対し、弁理士のそれは30代
- 弁理士試験は通常、仕事をしながら受験勉強する
- 会計士は活躍のフィールドが広いが、弁理士は相対的に狭くつぶしがきかない
- 近年、弁理士は独立するのが難しく、特許実務の収益性も厳しい
結論として、弁理士を目指すなら、研究開発や知財実務を経てから取り組まれることをお勧めします。
その上で自分の興味や適性を見極めてみてください。
最後に大切なことを一言
理系の視点から公認会計士を目指すことについて解説してきました。
色々と書いてきましたが、
理系であるか文系であるかは、実はそれほど本質的な問題ではない、というのが最終的な結論です。
むしろ重要なのは、つい先ほど「弁理士との選択」の項で述べた、各人の興味や適性です。
弁理士に限らず、会計士もかなり適性が問われます。
合格したにもかかわらず、ビジネスが向かない人、カネ勘定が嫌でたまらないという人、さらには医学部再受験を目指された人、様々です。
ですので、職業的にも専門性が認められる理系の人は、先ずは大学の勉強(さらには関連する業務)を頑張ってみるとよいでしょう。
そうした勉強や経験を通じて自分が何をやりたいのか、向き不向きは何なのか、を見極めてもらいたいと思います。
皆様のご成長とご発展を願ってます。
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