知らない方が幸せ?公認会計士はやめとけと言われる本当の理由

公認会計士は社会的ステータスが高く、世俗では花形職業などともてはやされています。
確かに経済的にも恵まれていると言えるでしょう。

ですが経験者からすると、CPA志望者に対して「やめた方がいいんじゃない?」「隣の芝生は青く見えるものだよ」と言わざるを得ない厳しい現実が数多くあったりします。

極端ですが、本当のことを知ったら大半の会計士受験生が目指すのをやめてしまったりして。

そこで今回の記事では、筆者の経験や周囲の人たちに起こった出来事などを踏まえ、「公認会計士はやめとけ」と言われる真の理由に迫ってみたいと思います。

ご注意!
本記事にはやや過激な表現とともに不快に感じられる可能性のある記述が含まれています。
また、筆者の体験等が過去のものであること、および記事内容は筆者の個人的見解・感想であることをご了承ください。

この記事の執筆者

・実務経験、通算20年以上
・独立までに大から小まで様々な事務所を経験(他に特許事務所勤務あり)
・資格:公認会計士・税理士・弁理士
・独立後は会計・特許事務所を運営
・現在は実務の第一線を離れ、独自の調査研究・執筆活動に従事

目次

「公認会計士はやめとけ」と言われる理由

最初に主な「公認会計士はやめとけ」と言われる理由を挙げておきます。

  • 試験に受からないと人生を棒に振る可能性あり
  • 監査という仕事そのものに失望
  • クライアントとの微妙な関係に悩まされる
  • 監査法人での人間関係に疲弊する
  • パートナーになれば会計士として成功?

結構ありますね。これでも絞り込んだつもりなのですが。

まず合格までが大変ですが、合格した後もそれに見合うものを感じられるかと言われると…

確かに若い頃の収入は悪くないものの、その程度の収入だけが目的なら別の選択肢もあると思います。

総じて(筆者の頃とは)状況が少しでも改善していることを願うばかりです。

試験に受からなければ人生を棒に振る?~その最悪の末路とは~

公認会計士試験は合格率が10%以下の難関試験です。

必要な勉強時間は3000時間とも4000時間などともいわれていますが、現実は異なります。

特に注意したいのが次の点です。

  • 現実は合格までに6000時間や8000時間かかることも少なくない
  • それだけ費やしても合格する保証はない
  • 受からなければ、最悪、人生を棒に振るおそれあり

特に注意したいのが、受験浪人はマイナスでしかないこと。
社会は全く評価しないどころか、相手にされなくなることもあったりします。

筆者はかろうじて試験に合格しましたが、運が良かったとしか言いようがありません。
もう一度受かって見せろ、と言われても、ほぼ100%無理だと思っています。

では会計士を諦めた人たち(特に受験浪人していた人たち)がどうなったかというと、筆者の知る限りでは

  • 税理士試験に転向、会計事務所勤務
  • 中小企業に就職
  • バイト・非正規労働
  • ニート、行方不明(医学部再受験?)等

上二つの選択をした人たちは(給与は会計士ほどではないにしても)まだ順調と言えるでしょう。
それなりに安定した社会生活を送れるのですから。

問題は下二つです(筆者の感触ではこちらの方が多いような気がする)。

事実、税理士等までいけた人達とは交流があるものですが、それ以外の元受験生達とは自然と互いに連絡を取り合わなくなってしまいます。

人生の敗北感から立ち直れないのか、他者を遠ざけ自ら孤立している可能性が否定できません。

20代の若い頃に受験勉強だけで得たものが何もないとなると、その厳しさは想像以上です。
自尊心だけが大きくなっているとしたら尚更でしょう。

公認会計士なんか、やめとけばよかった、こんな声なき声が今でも聞こえてきそうです。

監査という仕事に失望

首尾よく国家試験に受かって監査法人に就職できても、その後がまた大変です。

待ってるのは激務。決算期を中心に遅くまで残業、残業、…

背後には

  • 時代の流れとともに監査のあり方が変わってきた
  • 会計基準・関係法令等へのキャッチアップが大変
  • 金融庁等への対応も大変

等の事情があります。

開けても暮れても、品質管理やら新しい会計基準やらで、変更と対応、変更と対応…

筆者の頃も、毎週のように週刊誌(経営財務や税務通信等)に目を通して、最新の情報に知識をアップデートしたのを覚えています。

確かに専門家としては勤務、独立を問わず、新しい法制度や基準等に対応していかなくてはなりません。
未知の案件に携わることも少なくないでしょう。

とにかく現役で仕事をしている間は一生勉強していくのです。
終りはありません。

また数年ごとにやってくる、お役所(金融庁など)の検査・レビューこれがまた試練の連続。
最悪の場合、事務所はなくなってしまいます。

ここでは事実上、書類(監査調書等)の整備=仕事(監査)の品質といっても良いくらいで、膨大な量の作業が求められます。
もちろんクライアントに対するフォローやコントロールも怠れません(←これがまた結構面倒で盲点となりがちです)。

これが整わないと、クライアントではなく監査法人がヤバいことになってしまうのです(もちろん巡り巡ってクライアントにもしわ寄せがいきます)。

追記:昨今ではワークライフバランスを重視する風潮が監査法人にも浸透し始めているようです。
決算期を中心に多忙な時期があるのは否めませんが、それでも以前よりは改善していると言ってよいでしょう。

ですが、もっとキツイ「やめとけ」の現実が待っています。それが次です。

クライアントとのビミョーな関係に悩まされる

少し古い話で恐縮ですが、皆様はNHKドラマ「監査法人」をご存じですか。
ドラマでは若い会計士が孤軍奮闘するのですが、一生懸命頑張れば頑張るほど周囲の人々が不幸になっていく…といった設定でした。

このドラマ、突っ込みどころは多々あるのですが、よくまぁここまでリアルに描いたな、というのが正直な感想です。

筆者も(ドラマほどではないものの)一部のクライアント絡みでは、それを彷彿とさせる場面に出くわしたものです。

周囲から見聞きした同様の話も含めると、例えば次のような感じでしょうか。

  • 信頼できない会計士には事実と異なる(?)説明をしてもかまない
  • クライアントの意にそぐわない場合、現場に圧力をかける
  • 毅然とした態度をとる会計士に逆ギレする
  • クライアントの利害と社会的責務との板挟みにあう
  • 職責を全うしようとすると仕事を失う可能性あり(さもなければ、最悪、監獄行き)

そこで筆者の目に映ったのは、ビジネスの厳しさ、というよりも、(特にカネが絡むときの)人間社会の醜さでした。

仮に今この場で(一切の利害抜きに)当時のクライアントと対峙しようものなら互いに5分もたないでしょう。

監査法人在職中は、筆者にもパートナー就任のオファーがあったのですが(※)、
(百歩譲って)自分はクライアントに信頼されない人間、信頼を得ようとすると傀儡(かいらい)化してしまう人間、ということで結局、監査をやめることに。

大人しく実家で特許屋をやることにしたのでした。

※筆者の世代は誰でも遅かれ早かれ殆どパートナーになれた。

監査法人での人間関係に疲弊する

人間関係で苦労するのは民間企業だけではありません。監査法人でも結構大変です。

確かに監査法人は有資格者の集まりであり、人材の出入りも頻繁なので民間企業ほど窮屈な思いはしないかもしれません。

ですが、それでも特に上のクラスの人たちとの関わりは、多少なりとも厄介になってくるもの。

特に監査法人では複数のチームやグループに所属することがありますが、これって複数の上司やマネージャー、さらにはパートナーと仕事をすることを意味します。

いろいろな人と仕事をすることは確かに刺激となり、視野が広がるとも言えますが、現実はそんなに甘くありません。

挙げたらキリがないのですが、実務的な見解から仕事上の精神論まで各人の言うことがバラバラなのです(と言うより自分だけが正しい、といった論調に振り回されます)。

例えば筆者が経験したのが、筆者の評価を巡っての、上司たちの対立でした。
一方の上司は怒り、他方の上司はその一方の上司の対応を批判して事務所内で軋轢が生じてしまったのです(挙句に周囲の外野までも口を挟みだして大変だった)。

これほどではないにしても、多くの若手会計士が法人内の人間関係、特に上層部に失望して退社するのは今でも珍しくはないとのこと。

もっとポジティブな理由で転職できれば良いのですが、必ずしも華々しい転身ばかりではなさそうです。

ちなみに筆者は一時期、複数の監査法人をパートで掛け持ちしていたのですが、
その際、驚いたのが(掛け持ちしていた)他の事務所の会計士を(時には名指しで)非難していたこと。
事務所の外から見て分かったのですが、当時はクライアントをも抱き込んで事務所ごと、或いは監査室(チーム)ごとにムラ社会が出来上がっていたのです(もちろん当人たちの自覚はゼロ)。
波風立てようとすれば、そりゃ叩かれるわな。

パートナーになれば会計士として成功、のはずが…

では仮に(処世術が功を奏して)順調にパートナーまで昇進できたとします。そこに果たして理想の会計士像があるのでしょうか。

どうやら、よい事ばかりではなさそうです。

(守秘義務もあって)彼らは口数が少ないですが、組織のしがらみや人間関係に辟易しているのが伝わってきます(いわゆる社内政治に明け暮れる人もいるほどです)。

また、当然ながらパートナーになるには、上の人たちの引き立てなり後ろ盾なりが必要です。

結果、会計士としての自分の信念を貫こうにも、
キミは誰のおかげで、ここまでこれたと思ってるんだ!」みたいになりがちです(ちなみに多くの事務所には絶対的な存在の”大先生(ドン)”がいた)。

筆頭責任者と同く責任は無限大にもかかわらず、です。

そんな中、しばしば耳にするのが、筆頭責任者と次席責任者がクライアントを巡り衝突する話。
折り合いがつかない場合は、通常、後者が法人を去ることになりますが、遅すぎます。
ライフスタイルも相当な水準を享受しているようで、経済的にもやり直すのが極めて困難だからです。
筆者も危うく陥るところだった。

AIに会計士の仕事は奪われる?<筆者の見解>

「公認会計士はやめとけ」と言われる理由の一つに、AIに仕事を奪われる、というのがあります。

検索をかけると必ず出てくる理由ですが、この点について一言、筆者の見解を添えておきます。

やってみるとわかりますが、確かに監査業務の現場での作業は、毎年同じことの繰り返しのようなところがあります。
資料も、毎回、同じようなものがクライアントから提出されますし、現場の会計士も同じような書類を作成していきます。

外観的にはルーティン作業が続くため、AIが台頭し会計士にとって代わるのでは、との懸念も出てくるでしょう。

またリスク評価などの分析についても、今後はAIを積極的に活用することは十分考えられます。
AIの進歩に終わりはなく、人間に果てしなく近づいていくことは否めません。

その結果、究極的には、単に機械的作業のみならず、判断業務さえも会計士に代わり得る、という結論までいきそうです。

🍀ここで上記理由に反論してみる

結論としては、AIが会計士に全面的に取って代わることはあり得ません。

なぜなら、

  • 会計上の判断やリスク評価に唯一絶対の正解(模範解答)など存在しない
  • クライアントとの交渉やコミュニケーションは、AIには代替できない側面がある

からです。

会計上の判断にせよ、リスク評価にせよ、実務には唯一絶対の正解などありません。受験勉強とは異なります。
しかも様々な要因を勘案して全体的に判断、評価するとなると、なおさらです。

また、ビジネスの相手はAIではなく、結局は生身の人間です。
その人間であるクライアントとの交渉やコミュニケーションは、残念ながら機械的には決して進みません。
例えば政治的な要素や人間特有の側面が必ずと言ってよいほどついて回るのです。

もし、仮にそこまでAIがやってしまうのであれば、世の中のすべての仕事はAIに取って代わり、人間が行う仕事自体が皆無となってくるでしょう。

そこまでくれば、もはや公認会計士に限った問題ではなく、社会や人間のあり方という全く別次元の問題となってきます。

会計士資格の強みを実感できるのは監査を卒業した後かも

以上、ネガティブな話ばかりしてきましたが、少し違う話もしておこうと思います。

実は会計士資格の強みを実感できるのはむしろ監査法人を辞めた後である、と筆者は考えています。

ご存じの通り、公認会計士の仕事は監査だけではありません。むしろ、

無限の可能性に満ち溢れている

と言っても過言ではないでしょう。

会計・財務は企業活動の中枢であり、しかも経営やビジネスの全ての領域が関連してくるからです。

例えば、監査業務のほかに

  • 各種コンサルティング
  • 株式上場支援
  • 企業のCFO
  • 税務業務
  • 独立開業

なども会計士のフィールドです。

実は筆者が会計士資格の強みを実感できたのは、まさに監査を辞してからでした。

結局、法曹に転身したのですが、会計士資格はどんな他の資格・職種とも相性抜群だったのです。

なぜあんなに長い間、監査に固執していたのだろう、と自分の浅はかさを悔やんだものでした。

さいごに~監査の仕事って本当に成り立つのか~

最後に、今でも摩訶不思議に感じてしまう、”公認会計士の独立性”に関するエピソードを簡単に紹介します。

遠い昔のある日、筆者の父親から「お前たち会計士は誰から報酬をもらっているんだ?」と聞かれたことがあります。

父の手元には弁理士会の決算書とともに監査報告書が。その最後には「利害関係はない」の文字。

筆者が「公認会計士法の規定~」の文言を指摘すると、父はニヤッと笑いそれ以上は何も言いません。

霞が関の官僚出身である父は、どうやらその手の(屁?)理屈には慣れているようでした。

独立の監査人。
確かに不思議な職種です。

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