弁理士試験は大変な難関であり、今日では受験予備校を利用するのが一般的です。
他方で
- 経済的な事情から独学で挑戦したい
- 正式に予備校で勉強を始める前にお試しで勉強してみたい
という人もいると思います。
そこでこの記事では、弁理士試験の独学の難しさ、その進め方、及び参考書などを解説していきます。
なお、予備校を活用する人にとっても有用な情報を仕込んでいますので、非独学の受験生も参考にしてみてください。
主な経歴:
特許事務所→公認会計士・監査法人→特許業界復帰→弁理士→独立(特許事務所・会計事務所経営)
特許事務所を営む父親の長男に生まれる。
その関係もあって学生の頃から特許業務に従事。
ところがある日、急にビジネスの広い世界を知りたくなり、会計士業界に飛び込む。
父親の健康事情及び自身の適性を考慮して特許業界に復帰、その後、事務所を承継。
弁理士試験に独学で受かるのが難しい理由
最初に
弁理士試験の独学は絶対無理ではないものの、非常に難しい、
ということを申し上げておきたいと思います。
多くの受験生が(独学ではなく)受験予備校を活用するのが実情です(通信やWeb受講を含む)。
以下でその理由を解説します。
法律の勉強がとても難しい
法律は、独学で勉強するのが特に大変な学習分野です(特に理系の人にはかなりキツイと思う)。
専門用語や難解な言い回しが多く、専門書等で解説を読んでもよく分かりません。
何とか抽象的な概念をイメージしようとするのですが、普通の人は問題にぶつかります。
それは、(頑張って考えれば考えるほど)我流の勝手な解釈や誤解に陥ってしまうこと。
これが法律の勉強ではコワい!
どんどん正しい理解や勉強法から外れていってしまいます。
やはり、独学で書籍だけで勉強するのと、予備校の講義を聞いたのとでは、理解のスピード&正確性に雲泥の差が生じてきます。
独学用の市販の参考書が少ない
具体的な勉強のツールとなるのが参考書です。
しかも、ここで必要なのは調査研究用の専門書や実務書などではなく、受験勉強に直結し得る参考書の存在です。
ところが(全くないわけではないのですが)その数は非常に少ないのが現状です。
出版されていたとしても、今の試験傾向に合わなかったり、法改正に対応していなかったりします(後者は完全にアウトです!)。
これでは使い物になりません。
この点、予備校が提供する教材は、本試験を研究し尽くした、最新の情報を提供していくれます。
受験勉強としての効率性が悪すぎる
独学では、試験とは直接関係ないところに時間や労力を費やしてしまう一方、必要な事項に漏れが生じたりしてきます。
また、短答を中心に膨大な量の知識を暗記していきますが、いわゆるテクニックを駆使して覚えていくことが少なくありません。
例えば意匠で使われる「関組秘動部(かんくみひどうぶ)」などの語呂合わせなど。
独学では、こういうテクニックを知る機会が限られ、結果的に他の受験生より遠回りすることになります。
対して予備校では、受験指導のプロ(講師)がテクニカル的な事項をドシドシ伝授してくれます(書籍等に掲載されていないものも多く、まさに合格のノウハウです)。
論文の客観的な評価が得られにくい
論文試験では、自分で実際に答案を書いてみることが大切です。
ですが、独学では、ここでも壁が待ち構えています。
独学では、客観的な評価が得られにくいのです。
自分の書いた答案について、どこがどのようにマズいのか、どう修正すべきなのか、が不明確のままです。
また、(独学だけでは)自分の相対的な学力を知ることも出来ず、最悪、自己満足に終始してしまうことすらあり得ます。
結果として予備校を通じて答案の添削を受けるのが望ましい、ということになってきます。
筆者が垣間見た、弁理士試験の独学の罠
以上は一般的に言われていることですが、それとは別に筆者が感じた独学の罠について言及しておきます。
結構、多くの独学受験生が陥っているようです。
簡単に言えば、勉強法が間違っているのですが、それもインプットに偏ってしまっているのです。
内容も試験にでない箇所(例:学術的な内容や実務的な論点)をあさっていたりします。
また(インプットの内容は適切であるものの)本に書いてある内容をノートにまとめ直していたりする人も少なくありません(勉強に慣れていない人に多い)。全く時間の無駄なのですが…
本当は知識の習得(インプット)以上に過去問研究(アウトプット)に注力すべきなのですが、
そこがどうしても手薄になってしまうのです(自分の理解不足が露呈するのが怖い?)。
ですが、学術的な勉強やノートのまとめ直し等は、勉強した気になりますが、受験勉強としては全く進んでいないと断言できます。
受験ではむしろアウトプット(過去問演習や答練)が勉強の本番で、常に本試験を念頭において取り組んでいく必要があります。
それをしっかりサポートするのが予備校というわけです。
弁理士は独学でやる場合、何年かかるか
独学受験者に関する具体的なデータは見当たらないのですが、一般的には5年はかかる、などといわれます。
もっとも(筆者個人的な印象としては)5年で受かればよい方で、(凡人は)間違った勉強法では半永久的に…なんてことも。
独学受験生の中には20年選手も皆無ではありません。
結局、弁理士試験では、予備校を使わなければ(可能性はゼロではないものの)合格が長引いてしまうのです(なので本来は「独学だと受かるのに5年かかる」などとは単純には言えないでしょう)。
参考:令和5年度弁理士試験志願者統計によれば、全体的に平均して3回ほど受験しています。
弁理士試験の独学の進め方①:短答編
※具体的な各参考書は後で個別に紹介していきます。
◆短答:1周目&2周目
短答対策の独学では参考書「弁理士試験 エレメンツ(以下エレメンツ)」と「弁理士試験 体系別 短答過去問(以下体系別過去問)」を使用しますが、これらを並行して3周していきます(参考書は後で紹介します)。
まず1周目、2周目は
「エレメンツ」→「体系別過去問」
注:単元ごとに過去問をやること
という流れで学習していきます。
「エレメンツ」をしっかり熟読のうえ、「体系別過去問」を各単元(章)ごとに取り組んでいきます。
注:一通り「エレメンツ」を読み終えた後で過去問に取り組んだのでは忘れてしまい学習効果がありません。
特に1周目はかなり厳しいと思います(というより、初めは殆どできないと思う)。
なので出来不出来ではなく、解説をしっかり読みながら理解に努めることが大事です(必要に応じて「エレメンツ」に戻ったり、「青本」や「審査基準」を参照していきます)。
また、1周目では問われ方、出題傾向、難易度について把握することもポイントです。
とにかく、1周目は辛抱です。
勉強が進んでいくうちに「そうだったのか!」となることもあれば、繰り返すことで理解できるものもあるからです。
2周目は1周目と基本的に同じですが、1周目に比べかなり取り組みやすくなっているはずです。
ですので、この2周目では完全理解を目指していきます。
特に間違っている選択肢の(不正解の)根拠(なぜ正しくないのか)を明確にします。
できなかった問題には印をつけておきます(完璧にできた問題は3周目は飛ばしても結構です)。
また、この2周では色々と「気づき・ひらめき💡」もあるでしょう。
そこで必要に応じて「四法対照法文集」に、その「気づき・ひらめき💡」書き込んでいきます。
◆短答:3周目
3周目は、1周目・2周目とは逆に
「体系別過去問」→「エレメンツ」
の流れで見ていきます(随時「エレメンツ」で確認していきます)。
ここでは本格的に自力で正解にたどり着けるようにします。
つまり3周目では本格的な演習として取り組んでいくのです。
今回できなかった問題は要注意です。
自分の弱点や苦手箇所になりやすいところだからです(この3回目で間違えた問題は、その後もミスを繰り返す可能性が高いと言えます)。
◆短答:直前期
直前期では、年度別に1回に1年分を解いていきます(特許庁のホームページで問題と解答をDLできます)。
本番さながらに実戦演習をしていくのです。
その際は、時間もしっかり計ってやりましょう。
短答の試験時間は3時間半ですが、例えば2時間半~3時間などと、短く設定してスピードを意識します。
弁理士試験の独学の進め方②:論文編
ここでは、論文の独学の可能性も含めて、できるだけ書いてみます。
(決してお勧めしないのですが)論文の独学に興味のある人は参考にしてみてください。
論文の勉強はアウトプット(答案の書き方)が中心です。
そのために、先ずは論文の模範解答などで、論証のパターンや答案の書き方の流れ(答案構成)を習得します。
これ自体は難しいものではないのですが、先ほど述べた通り、自分でアウトプットをする段になると限界がでてきます。
ただし、全くダメなのか、と問われると、私の意見はチョット違います。
私も相当数の論文答練や模試を受けましたが、
結論は、絶望的なほど無理というわけではない、というのが率直な印象です。
理由は次の通り。
- 現実問題として、論文の評価は個々人により変わる(なので本試では素点ではなく偏差値法を採用)
- しかも本試の採点者は受験のプロではなく実務家が多い(試験の採点に慣れてるとは限らない)
- 現在の論文の事例問題は小問形式であり、短答の記述バージョン的なところあり
- そもそも受験生の論述レベルなど(合格トップ層を除き)たかが知れている
そこで私の論文学習のスタイルは、基本的に
- 自分の書いた答案と模範解答をしっかり見比べて研究する
- 上手く書けないうちは、模範解答をできるだけ真似る(再現できない冗長的な模範解答には注意!)
- そして繰り返す
というスタンスに落ち着いていったと思います。
そうすることで、答練・模試では安定的に6割以上取れるようになっていきました。
私にとっての答練の意味は、第三者からの現実的な評価を通じて自分の学力の相対順位を知ること、でした。
また、誤解を恐れずに言うならば、
現在の論文試験は本来の法律論文というより、短答の延長といった感じが拭えません(特に特許)。
さらに(試験に受かることだけに絞って)極論すると、
- 判例や趣旨をキーワードを使って簡潔に再現する
- 事例を分析して条文の要件に当てはめる
それだけです。
しかも小問に対して根拠とともに短く答えていく、まさに短答です。
追記:
本当は、論文で問われる事項というのはもっと奥が深く、上記のように単純に語れるものではありません。
ですが、あの試験問題と分量を見てください。受験生レベルで時間内にどこまで書けるでしょうか。
現実的には、おそろしいほどベーシックなところで勝負が決まってしまいます。
相対評価なので尚更です。
弁理士試験では半独学も考えよう
以上、独学のやり方について解説しましたが、できれば予備校の講座も一部取り入れたいところです。
短答までは上記の「エレメンツ」と「体系別過去問」で対応することが可能ですが、特に論文のアウトプットは不安要素がのこります。
そこで検討したいのが半独学。
論文のアウトプットに限らないのですが、不安なところは予備校の講座(単科や答練)を部分的に活用していきましょう。
また、通信専門講座は大手予備校よりも料金が安いほか、自宅やスキマ時間で独学のように勉強することが可能です。
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弁理士試験の独学向け参考書
注:ご購入をされる場合は、法令改正等に対応した最新版であることを必ずご確認ください。
弁理士スタートアップテキスト
弁理士試験の全体像を把握するための参考書です。
いきなり逐条ごとに細かく勉強すると、途中で何をやっているかわからなくなってしまうおそれがあります(木を見て森を見ず、の状態です)。
なので短答対策に入る前に、このような全体構造を把握するための勉強を最初にしておきます。
次は短答向けの参考書です。
弁理士試験 エレメンツ
弁理士試験 体系別 短答過去問
あと、これら以外にも法令の解説書や基準を準備します。
特許庁ホームページでダウンロードできます。
ただし印刷するとなると大変ですので、金銭的に余裕がある人は書籍を購入しても良いでしょう(意匠審査基準を除く)。
最初の逐条解説(青本)は、条文や過去問と並んで受験生の必読書と言われています(条文の趣旨などを丁寧に解説しています)。
テキスト等にも重要箇所は載ってると思いますが、普段から条文とセットで読み込んでいくのが勉強の王道です。
口述でもしっかり問われます。
二つ目の改正本は重要!
改正項目は試験の頻出マターであり、今日でも必読です(特に直近の改正事項)。
論文試験用の参考書にいきます。
弁理士試験 論文式試験 過去問題集
弁理士試験 論文マニュアル (1) 特許法/実用新案法
弁理士試験 論文マニュアル (2) 意匠法/商標法
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最後に
弁理士の独学について解説してきましたが、いかがだったでしょうか。
やはり独学は基本的に勧められない、というのが結論です。
絶対不可能ではないものの、地頭の良さや運・不運に左右されてしまいます。
ですので、独学で始めたとしても、短答も含めて厳しいようなら予備校活用に切り替えるのが賢明です。
最後に弁理士受験生につきましては、一日も早い合格をお祈りしています。