「50歳過ぎて税理士を目指してどうすんの!」
ある現役税理士さんの言葉です。
ドキッとされた方もいるでしょう。
実は、実務家を中心に50代から税理士に挑戦することに対して批判的な人は少なくありません。
予備校等の営業トークばかりではないということです。
そこでこの記事では、敢えて不利な要因を洗い出しながら、50代からの挑戦が本当に無駄なのか、考えてみたいと思います。
併せて、(未経験者も含めた)具体的な対策にも言及してみましたので、ぜひ参考にしてみてください。
・実務経験、通算20年以上
・独立までに大・中・小の3つの事務所に勤務(他に特許事務所経験あり)
・資格:税理士・公認会計士・弁理士
・独立後は会計・特許事務所を運営
50代が税理士を目指すうえで知っておくべき大切なこと
税理士は高齢化が進んでおり、その平均年齢はほぼ60歳です(「日本税理士連合会、第6回税理士実態調査」参照)。
これを聞いて、自分も十分目指せるのではないか、と思う方もいると思います。
そこで、まずは50代の方が税理士を目指すうえで知っておくべき最も大切なことを最初に述べておきます。
- 転職については、経験者と未経験者とでは事情が異なる
- 未経験者は、年収ダウンは避けられない
- 経験の有無にかかわらず、50代にとって資格取得は相当厳しい
- 試験勉強と実務は異なる(資格取得=収入アップとは限らない)
特に注意したいのは、資格取得(≒試験勉強)が実務(収入)に直結しない、という点。
また、50代ともなれば資格より実務経験が問われることもポイントです(経験豊富な方が資格を取るならベスト!)。
50代から税理士を目指す際のハードルとは
資格取得のハードル
まずは経験者・未経験者共通のハードルです。
「税理士試験は5科目一度に受かる必要はなく、1科目ずつ合格すればよい」
こんな話を聞いたことがあると思います。
ですが、実際、そのハードルは高く、多くの人が、3科目で合格が止まってしまう等、結局、資格取得を諦めてしまうことが少なくありません。
その主な理由は次の通り。
- 勉強時間の確保が困難
- 計算科目が大変
- 条文等の法令を暗記していかなくてはならい
仕事との勉強の掛け持ちは若い人でも結構大変ですが、50歳を過ぎると尚更です。
年齢との関係で特に注意したいのが、集中力と記憶力(暗記)。
中でも理論の勉強で必要な法令等の暗記が大変です(分量が膨大で半端ないです)。
実は、暗記は法令等だけでなく、計算分野でも必要です。
例えば税法科目などでは、税額を細かく計算していくのですが、この計算式の多くが政策的に決まるもの。
理論理屈抜きで頭に叩き込むと同時に、体でも覚えていかなくてはなりません。
(電卓は使えるものの)それこそ、計算・集計マシーンにどれだけなり切れるか、が問われます。
そこで大学院での税法2科目免除を狙っていくことが多いです(後述)。
転職のハードル
ここは、経験者と未経験とでは事情が違ってきます。
🍀経験者について
結論的には(内容・程度にもよりますが)経験者は、企業経理であれ会計事務所であれ、転職は十分に可能と言えます。
特に一般的な税理士はマネージメントに疎かったりするので、企業経理経験者も専門実務経験者と同様、広くニーズがあるはずです。
ただし、年齢的なハンデは否定できないので、転職エージェントの活用は必須と言えます。
なお、50代かつ経験者の転職対策は基本的に40代と同じです。
具体的内容に関しては次の記事にて詳細に解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
🍀未経験者について
対して全くの業界未経験者となると、かなり厳しいというのが現実です。
理由は、特に採用サイドとして次のような懸念があるからです。
- 新しい事を学ぶだけの吸収力や適応力が備わっているか
- 年齢差(特に年下の上司との関係など)は大丈夫か
- (自分と意見の異なる)他者の言葉に耳を傾けられるか(柔軟性)
実際に難しいところが多々あるのですが、100%無理かと言われると、決してそんなことはありません。
その点も含めて、取り得る選択肢・対策をこの記事では探っていきます(後述)。
キャリアアップと資格取得のジレンマ
転職することでキャリアアップ(年収アップ)が仮に実現できたとします。
これはとても素晴らしいことですが、次に大きな問題が待ち受けています。
それによって資格取得がより難しくなってくる可能性がある、ということです。
少し考えればお分かりいただけると思いますが、
キャリアアップする(年収アップする)ということは、それだけ責任が重くなり、仕事もよりハードになり得る、ということです。
結果的に、勉強時間の確保はもちろん、精神的肉体的にもかなり厳しくなってきます。
ましてや50代となれば、尚更と言えるでしょう。
冒頭でも挙げましたが、仕事(実務)と資格取得(受験勉強)は別物なのです。
注:独立もしくは税理士法人のパートナーを目指すのでなければ、資格は必ず取得しなければならないわけではありません。
ですので、転職する際には、単にキャリアアップだけを考えるのではなく、資格取得(試験勉強)も考慮に入れて臨む必要があります。
別の見方をすれば、ご自身のキャリアの目的(独立したいのか、企業の幹部を目指すのか等)に帰着する問題と言えるでしょう。
現実のハードル
- 税理士を目指すことにつき、家族などの周囲の理解・協力を得られるか
- 収入ダウンや無収入になる場合、金銭的経済的な問題をクリアできるか(家のローンなど)
- 健康事情
いかがでしょうか。
意外と見落とされがちですが、どれも受験や転職と並ぶシビアな問題です。
例えば、資格取得のために勉強を優先させようとすると(極端な場合は無職になるなど)、おカネの問題に突き当たったりします。
これに健康事情が絡むとさらに厄介です(後述)。
独身で、かつ蓄えのある方等をのぞき、本人のやる気・熱意の問題だけでは済まない現実があるものです。
50代の転職はどうする(未経験者を前提)
先に最も気になる転職から見ていきます(未経験者を前提)。
いずれにしても税理士資格を取るには2年以上の実務経験を経なくてはなりません。
一度は会計事務所等に就職する必要があるということです。
ですが、先ほど言いましたように、特に未経験者の転職はここが難しい。
そこで、考えられる具体的な対策を挙げてみます。
- 収入の条件を付けない(未経験者は350万円からスタートです)
- (勤務地も含めて)どこへでも行く覚悟を
- 独立開業を目指す(ただしこの場合も高収入は難しい)
- (後継者のいない)所長が高齢者の事務所を狙ってみる
- 転職エージェントを活用する
収入の条件を付けない
多くの税理士志望者の一つが収入アップです。
それは50代でも同じでしょう。
ですが、税理士を目指す動機がおカネであれば、転職は難しくなってきます。
というより、金銭的なものが目的なら他にいくらでも選択肢があると思います。
そこで、未経験者の方には、
収入アップについては目をつぶり、かつ、どこへでも行く覚悟が必要
と申し上げておきたいと思います。
独立開業を目指す
独立開業は税理士にとっては(年齢を問わず)普通のことです。
実際に会員税理士の7割が開業組です(参考:国税庁HPより)。
士業の中でも最もハードルが低く、かつ、大変やりがいがあると言えるでしょう。
しかも実務要件をクリアして、最低限の実務がこなせるようになれば、なんとかならないこともありません。
ただし収入は、それほどの高収入は期待できなと考えた方がよいでしょう。
やはり収入目的なら、別の選択肢を選んだ方がよい、ということです。
開業税理士の平均年収は744万円。しかも(一部の)稼いでいる先生方の年収も反映しています。
実際の中央値は500万円ほどであり、300万円以下の開業税理士が3割以上もいます(スタディング税理士講座・日本税理士会連合会「第6回税理士実態調査報告書」参照)。
税理士報酬単価が下がり気味であることや、顧客の獲得が難しいというのもありますが、
習得できる実務能力に(年齢的に)限界があるからです。
一般的な会計実務(記帳代行や決算申告)プラスαと考えた方がよいでしょう。
なので、(収入アップよりも)自分で独立して(顧客相手に)自由にやりたい、と考えている人に向いています。
後継者のいない、所長が高齢の事務所に転職する
あまり選択肢として聞かないのですが、実際は意外とあり得るケースです。
ズバリ、(後継者のいない)所長が高齢の事務所に転職するのです。
冒頭で述べた通り、税理士の平均年齢は約60歳。業界の高齢化が進んでいます!
こうした求人は一般的な求人情報には、なかなか挙がってこないものですが、
現実に税理士会を見渡しても、自分の代で(近い将来)廃業するつもりでいる高齢の先生方は散見されます(特に税務署OB)。
結局、後継者との出会いや縁がなかったのです。
でもこれって実に勿体ない。
中小企業の顧客はそれほど頻繁に税理士を変えませんし、(少ない顧客ながらも)事務所の基盤は残っているのですから。
転職エージェントを活用する
転職の際に必要不可欠なのが、やはりプロのエージェントです。
50代であっても(情報収集の意味も含め)その活用は有益と言えます。
ここでは、税理士・会計事務所に強いエージェントを紹介しておきます。
ヒュープロ | MS-Japan | レックスアドバイザーズ | |
得意分野 | 会計事務所 税理士法人 | 管理部門 士業 | 公認会計士 税理士 |
主な年齢層 | 25歳~50歳 | 20代~50代 | 20代~40代 |
設立(歴史) | 2015 | 1990年 | 2002年 |
この中でもMS-Japanは幅広い年齢層に対応していますし、ヒュープロとレックスアドバイザーズは未経験者の求人を多く扱っています。
なお(どれか1社に絞るのではなく)最初から3ほど併用していくのが転職成功への近道です。
特に年齢が高めの方は、できるだけ選択肢を多く用意しておきたいものです。
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税理士試験について
ここからは転職とは別のハードル、税理士試験について言及していきます。
- まずは試しに簿記2級まで勉強する
- 試験対策としては通学ではなくWeb受講などの通信を利用する
- 税法2科目は大学院で免除を狙う
- 税法1科目は消費税法を選択する
- どうしても厳しいようなら、1年に限り受験勉強に専念してみる
試しに簿記2級まで勉強してみる
全くの未経験者の方は、自分にとって会計の仕事が向くかどうか、ここでチェックしてもらいたいと思います。
また、簿記の勉強は会計事務所等での仕事はもちろん、どこへいっても役に立ちます。
ですので、まずは日商簿記の勉強からスタートすることをオススメします。
もちろん税理士試験の勉強の土台にもなります。
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税理士を目指す多くの人が、仕事をしながら受験勉強をします。
そこで一番大切なのが時間の確保と勉強の効率性です。
言い換えれば、いかにスキマ時間をフル活用して効率よく勉強していくか。
そこで欠かせないのが予備校の教材やカリキュラムです。
今日ではWebを使った通信講座が各種予備校からリリースされていますので、(通学ではなく)この通信教材を活用してみてください。
おススメは、スマホで学べるオンライン資格講座、スタディングです。
効率的かつ大変リーズナブルに勉強していけます。
また、スタディングでは簿記講座も充実していますので、こちらのご活用もオススメです。
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税法2科目は大学院で免除を狙う
40代までならともかく、50代以上の方に、5科目ガチで取り組むのはオススメしません。
上でも述べましたが、計算もさることながら暗記が厳し過ぎるのです。
絶対ではないのですが、途中で挫折してしまう可能性が高いでしょう。
そこで注目すべきが、大学院に進んで税法2科目の免除を得るルート。
資格取得のハードルが一気に下がります(注:ただし学費は修了までの2年間で150万~200万円ほどかかる!)。
なお、その場合でも税法1科目は受験しなくてはなりません。
筆者個人的には、ボリューム及び実務への有用性を考慮すると、税法科目は消費税法がオススメです。
1年に限り受験に専念してみる
50代で仕事のブランクが空くのは正直オススメしませんが、周囲の理解が得られ、かつ経済的に余裕がある方は1年に限り勉強に専念してみるのもアリかと思います。
その際は簿記と財務諸表論の合格は必須と言ってよいでしょう。
個人差がありあますが、合格率が比較的高く(15~20%)、また、計算と暗記が税法科目に比べ負担が少ないからです。
(リスクはありますが)仕事をしながら勉強するより成果を出しやすいと思います。
50代向け・税理士開業までのルート(例)
事務所転職・勉強開始➡簿記・財務諸表論合格➡消費税法合格➡大学院で税法2科目免除➡税理士登録➡独立開業
必ず簿記・財務諸表論の勉強からスタートしてください。
また、事務所就職の際には、大学院(夜学)への通学ができるか確認してみてください(もしくは通信制を利用する)。
働きながらの勉強に自信がない場合は、上で述べたように、1年に限り、勉強に専念することも一考です(その際は簿記と財表の合格は必須のつもりで)。
このルートでも独立まで4~5年はかかる計算です。
なお、50代から公認会計士を目指すことについては別記事をご用意しています。
実際に50代から会計士になられた方のエピソードも載せておきましたので、参考にしてみてください(注:会計士が独立する場合は通常、税理士として仕事をします)。
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50代が特に注意すべき3つのこと~筆者の経験を踏まえています~
以下では、特に筆者の経験を踏まえたうえでの注意点を、特に50代以上に絞って挙げてみます。
- 健康事情は想像以上に厳しくなる
- デジタル機器やIT技術の習得が大変
- 計算ミスや事務作業のミスが頻発する
筆者の経験上から言えることですが、
50代以上の方の対外的なコミュニケーション能力は、必ずしも若い人に劣るものではありません。
個人差ありますが、決してビジネス書の受け売りに終始したりせず、聞き上手で「流石!」と思わせる場面が多かったような気がします。
また、税務そのもの(法令を熟読したり、丁寧に調べたりすること)についても、年齢に関係なく結構、やっていけるものです。
50代は基本的に勉強熱心であり、文章を読む力等はむしろ年齢に応じて高くなっているとさえ思えます。
むしろ懸念されるのは、ズバリ、健康と税務以外の実務についてです。
健康事情は想像以上に厳しくなる
それなりの組織に転職する場合は別として、小規模事務所への転職や独立の場合は、これが大きな問題になってきます。
組織や職場が健康を管理してくれないからです。
50代になると(特に50後半以降)、通常、体のどこかしらに異常が見つかるものです。
場合によっては、仕事を長期間休まなくてはなりません。
筆者も二度ほど遭遇したのですが、突然の訃報で「急きょ、所長求む!」なんて具合でした。
仕事が多忙で充実していたのはいいのですが、本人の知らぬ間に病状が進行していたそうです。
お二人ともまだ還暦前だったのに…
この際、最も懸念されるのが顧客の不利益・損失です。
もちろん自身の生活にも影響はあるでしょう。
なので、最低、年1回の自治体等の健診は必須ですし、万一に備えて、知人税理士等にフォローしてもらえるようにしておきます(自身の健康管理については、しっかりしている人と、そうでない人との差が著しいです)。
後者のフォローに関連してですが、税理士会に入会したら、勉強会等の会合に参加したり、(できれば)同期会を立ち上げてみるのがオススメ。
特に開業されている先生方は、情報交換も含め本当に互いに助け合っています。
デジタル機器やIT技術の習得が大変
今のご時世、税務そのもの以外にも、一定のデジタル機器が使えないと、実務は結構厳しいものがあります。
例えば、電子申告への対応や、各種会計・税務ソフトの操作など。
他方で、50代の方は、これまで資料作りなどの事務作業は部下に任せっきりだった、という方が少なくありません。
ですが、会計事務所へ入ると(あるいは独立すると)、デジタル機器やアプリ・ソフトなどを一人で操作できるようにならないと仕事にならなかったりします。
さらに、SNSやZOOMなどの最新ITツールにあまりに疎いと、顧客とのやり取りにも支障がでてしまうかもしれません。
おそらく、新しい職場に入ったとき、未経験者はここで四苦八苦することが予想されますが、
ここで必要になってくるのが、他の(若い)スタッフ達の助けです。
結局、社内でのコミュニケーションや対人関係が重要になってくるのですが、
こういった点も50代のハードルを高くしてしまう要因の一つでしょう。
計算ミスや事務作業のミスが頻発する
年齢とともに、細かな集計や事務作業はキツクなるものです。
素早く正確にこなせないどころか、ミスが起こりがちとなります(何度も同じミスをしてしまう人もいる)。
他方、中小の会計事務所を中心に、どうしても、こうした作業が避けられませんし、本来なら1円たりともミスは許されません。
例えば、顧客企業の給与袋の取り違えや郵送物の誤送付は顧客喪失に直結してしまいます(そのため事務所側でも採用に消極的にならざるを得ない)。
なので(新入社員などでは常識なのですが)、
- 必ずメモを取る
- 万一ミスがでたら、同様に記録をして常に確認する
などを徹底しておきます。
事務作業を長い間、部下任せにしておくと、こうした作業すら面倒になってくるものです。
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最後に
税理士を50代から目指すことについて解説してきました。
今回は綺麗事抜きで解説してきましたので、厳しく感じられた方もいるかもしれません。
ですが、逆に言えば、当記事内容を肯定的に受け止められた方は(リスクはあるものの)十分チャンスはあるものと言えます。
なので、そうした方は、できない理由をあれこれ探すのではなく、前に向かって実行に移しましょう。
特に50代以上の皆様にとっては、まさに時は金なりです!
応援しています。
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