近年、会計事務所への転職を希望する業界未経験者が年齢を問わず増えています。
中には資格取得や独立開業まで視野に入れている人もいるでしょう。
いずれにしても新しいことに挑戦することは素晴らしいですし、多くの方に関心を持ってもらえることは業界発展のためにも嬉しいことです。
ただしどんな転職でもそうですが、やはり相手(ここでは税理士事務所)というものがあります。
そこで今回は、特に未経験者を念頭にした会計事務所への転職について解説します。
特に所長税理士の期待や本音を理解できれば事務所との距離がグッと縮まるでしょう。
なお本記事内容は、筆者自身の事務所経営の経験、及び多数の所長税理士から直接伺った話を踏まえたものとなっています。
・実務経験、通算20年以上
・独立までに大・中・小の3つの事務所に勤務(他に特許事務所経験あり)
・資格:税理士・公認会計士・弁理士
・独立後は会計・特許事務所を運営
会計事務所未経験者を採用する際の、所長税理士の本音
会計事務所の所長税理士は一体どんな人を求めているのか。
まずは業界未経験者について彼らの本音をズバリお伝えしておこうと思います。
条件とは一線を画するものですが、実は採用・不採用を決定付けるものです。
- 周囲との協調(★★★★★)
- 長く勤務してほしい(★★★★☆)
- 積極性や熱意(★★★★★)
- 実務知識の習得(★★★☆☆)
★の数は重要性を示します。
いかがでしょうか。
筆者の周囲の所長税理士の方々が同じようなことを口にされていました。
勤務時代に懇意にしていたパートナー会計士の方(税理士事務所兼業)も、盛んに
「仕事は普通でいいから、とにかく周囲の皆と上手くやってほしい」と。
筆者も自分で税理士事務所をやってみて、「なるほど」と実感が湧いたものです。
注:ここではBIG4などの大規模税理士法人などではなく、中小や個人の事務所事務所を前提としています。
周囲との協調
所長税理士が新人に一番求めてくることです。
もちろん頭の回転が速く、迅速に事務作業ができればそれに越したことはありません。
ですが実際は(地頭の良さよりも)真面目にコツコツと努力しながら、周囲と上手くやってくれる人を所長たちは望んでいるのです。
一例を挙げるなら、忙しいときに互いに他者を手伝ってあげる気配りがあるかどうか、です。
また、税理士業務では中小企業を相手にお金を扱いますが、必然的に人間的な泥臭さが伴います。
そこで、もしビジネスライクに理論理屈だけで突き進もうなら、関係はいずれ破綻してしまうでしょう。
つまり、秀才タイプのスタープレーヤーなど望んていないということです。
このあたりが所長のお眼鏡にかなえば、多少年齢がいっていても転職できる可能性は残っています(そのぐらい税理士事務所への転職には大事です!)。
ちなみに未経験者や税理士を目指している人は、教えてもらったり、受験勉強に配慮してもらったり等、サポートをしてもらう側でもあります。
そこで大事なのがお互いの助け合い。
所長税理士が業務の要と感じていることです。
長く勤務してほしい
事務所側は未経験者採用に際して、ある種の懸念を持っています。
それは、
実務を覚えたら(あるいは資格取得の実務要件を満たしたら)、さっさと「サヨナラ」されること
です。
中小の事務所でも面倒見の良いホワイト事務所では、所長や先輩が丁寧に指導してくれると思います。
他方、せっかく教えても、一通り実務がこなせるようになった途端に辞められては全く割に合わないもの。
当然のことながら、未経験者の採用に際しては、できるだけ長く働いてほしいと思うのです。
このことは就職・転職活動に深くかかわってきます。
例えば面接でのやり取りです。
面接の際に所長税理士から先々どうしたいのかは結構聞かれると思います。
その際、「将来は独立したい」と答える人が多いでしょう。
もちろんそれで構わないのですが、例えば一言「(独立を考えていますが)貴事務所で頑張っていくうちに考えが変わるかもしれません」などと答えると、所長は「おっ、それは頼もしいな!」となることもあるようです(実話です)。
また、転職エージェントを利用する際には、求人紹介自体への影響も考えられます。
求人に関して事務所側はエージェントに多額の報酬を払っています。
エージェントは求人事務所に精通していることが多いですが、仮にその事務所から「せっかく仕事を教えたのに、直ぐに辞められてしまった」などと言われたどうなるでしょうか。
もちろん、様々な事情により(結果的に)期間の長短を問わず離職は起こり得ますが、
少なくとも転職エージェントとしては、短期間に転職を繰り返してきた人や、直ぐに辞めそうな人には、なかなか面倒見の良い事務所は紹介しづらいもの。
ですので、エージェントを活用する際には、できるだけ長く勤務する意思をエージェントに示唆しておくことを推奨します。
積極性や熱意
会計事務所の仕事は専門的です。
おそらく未経験者は日々「何だ⁉何だ⁉」の連続となるでしょう。
そのような中にあって大切なのは(初めから他者に頼るのではなく)まずは自分で調べ行動してみること。
これは事務所所長たちが口をそろえて言っていることです。
もちろん確認やレビューは不可欠ですが、そこに至るまで上の人たちは皆さんの業務に対する姿勢をそれとなく見ています。
特に積極的に調べ、真摯に取り組もうとする熱意は伝わるもの。
その上で失敗や間違いが生じてしまったとしても、所長は「俺が全責任を取るから、全力で頑張れ!」となるはずです。
筆者も他所の事務所にしばしばお邪魔してみて「ああ、一生懸命な新人さんが入ってくれたな」と心底感じることがあります。
そんな時は所長税理士に「いい人が入ってくれましたね!」と一声かけるのですが、
彼らの反応は言うまでもありません。
会計事務所への転職の前に税理士資格(科目合格を含む)を推奨するのはそういう意味もあるのです。
(資格は万能ではないとしても)まぎれもなく、積極性や熱意の表れと受け止められます。
実務知識をある程度習得しておくと良い
上では熱意や積極性の話をしましたが、(資格取得の勉強とは別に)できれば実務の知識をある程度蓄えておくと良いでしょう。
例えば次のような事項です。
- 法人税の申告書(特に別表4・5)
- 消費税絡みの知識
未経験者には多少きついですが、できれば(受験勉強とは別に)基本的な法人税の申告書(特に別表4・5)が書けるようになっておくと良いでしょう。
書き方本等がいくらでも出ていますので、事前にある程度慣れておく(研究しておく)ことをオススメします。
(全く見たこともないまま)いざ実務となると本当に面食らいます。
また、通常の業務で特に気をつけておきたいのが消費税絡みです。
税務署等から一般納税者向けのパンフレットがでていたりしますので、できればこちらも読んでおきましょう。
消費税は今日でもトラブルが発生しているようです。
特に手続や各種届出は要注意。
ちょっとした知識の欠落や油断で顧客に迷惑をかけてしまいかねません。
さらに余裕がある人は「週刊税務通信」「○○税基本通達逐条解説」「図解○○税(図解シリーズ)」などに慣れておくと良いでしょう。
特に個別事案では試験勉強では足らず、これらの文献等で裏を取りながら進めていくことになります。
一通りの事務作業やルーティーンワークに慣れる頃は、こうしたリサーチが多くなっているはずです。
なお、税務は毎年のように制度改正がありますので、知識を絶えずメンテナンスして最新情報にキャッチアップしていくことはMUSTです!
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会計事務所が求めてくる未経験者への条件
次は公式に表に出てくるもの。条件です。
- 日商簿記2級(★★★★★)
- 実務経験・社会経験(★★★☆☆)
- 税理士試験合格(科目合格を含む)(★★☆☆☆)
- 若さ(年齢的なアドバンテージ)(★★★★☆)
★の数は必要性を示します
日商簿記2級
まず簿記2級です。
求人事務所の募集要項などを見ればわかりますが、ほとんどの事務所でこの簿記2級を必須条件としています。
やはり簿記会計について一通りの基本知識が無ければ、仕事にならないというワケです。
会計事務所での仕事を始められる最低ラインと言ってもよいでしょう。
入社しても
「借方、貸方って何?」「借入金って(借り入れるのだから)借方じゃないの?」「げんかしょうきゃく???」
確かにこれでは…
なお、簿記2級は独学でも十分できますし、通信講座も豊富にありますので、まずは手ごろなものから取り組んでみましょう。
実務経験・社会経験
求人事務所で、これを条件に挙げているところも少なくありません。
実は中小個人事務所ではビジネスマナーや電話の応対の仕方などを一から教えてもらえるところは少なく、時間的にもその余裕はなかったりします。
もちろん不自然にかしこまる必要はないのですが、自然なマナーや基本的な敬語は使えるようになっておきたいものです。
新卒の方や企業等での社会経験がない場合は、自主的に勉強しておくことを推奨します。
また講習会等に参加してロールプレイをしておくのもよいでしょう(特に顧客対応)。
税理士試験合格(科目合格を含む)
こちらは絶対条件ではありませんが、転職前に資格を取っておくと大変有利です。
税理士合格は一通りの知識があることのお墨付きであると同時に、積極的に学ぼうとする姿勢の証でもあるからです。
就職で有利になるほか、一般的に給与も無資格の未経験者より高めです。
また、5科目合格でなくとも(会計事務所の転職前に)簿記や財務諸表に合格しておくとよいでしょう。
特に仕事と勉強の掛け持ちは想像以上に大変なもの。
すこしでも合格科目を積み上げておけば、それだけ最終的な資格取得に早く近づけますし、
その分、実務に力を注ぐことができます。
資格を先に取ることの注意点:
資格を先に取ること自体を否定するつもりはないのですが、税理士は結構その適性が問われます。
資格だけ先に取ってしまったものの(実務が自分に向かないため)実務と受験勉強のギャップに悩まされる人も少なくありません。
最低限、実務と資格取得は別物であると認識しておきましょう。
若さ(年齢的なアドバンテージ)
税理士は士業の中でも高齢化が進んでいます。
また税理士試験合格者の平均年齢は30代から40代が中心です。
他方で、勉強にせよ、実務にせよ、新しいことに取り組むには若いに越したことはありません。
仕事を教える側にしてもやはり柔軟性がある若い人を希望するものです。
さらに言えば、決算・申告時を中心に税理士業務は多忙な時期があります。
要するに体力勝負的な側面も多少あったりします。
特に全くの未経験から転職する場合は、通常30代まで、などと言われています。
ですので、できるだけ若いうちに(できれば20代のうちに)資格取得も含めて業界入りすることをオススメします。
未経験者の仕事(税理士補助業務)とは
上では色々と述べましたが、未経験者の仕事(税理士補助業務)は大体同じようなものからスタートします。
代表的なものを挙げるとだいたい次の様なものです。
- 給与計算と年末調整:給与ソフトへの入力と明細書の出力、整理・法定調書の取りまとめ
- 記帳代行:会計ソフトへの入力
- 決算書や税務申告書の作成(決算書に添付する明細書等の作成)
- 税務署への各種届出書類の作成
要するに大部分が事務作業です。
これらをどれだけ要領よく、正確かつスピーディーに処理していけるかが大切です。
上でも触れましたが、最初はわからないことだらけで届出書類ひとつとっても戸惑ったり面食らったりするもの。
ですので、上で紹介した(転職前の)実務の予習が意味を持ってきます。
事前にある程度知識があると「何だ⁉何だ⁉」が「なるほど、そういうことか」となります。
ただし殆どの業務ががルーティーンワークの繰り返しであり、ほとんど慣れの問題です。
実際の日々の処理(記帳代行)については、前年度の帳簿や資料を見ながらなんとかやっていけるものです。
また、申告書も最初は戸惑っても通常は1年もやれば書けるようになります(特別な能力や地頭は不要です!)。
(大きな声で言えないのですが)監査法人出身の会計士も(税務経験・記帳代行経験ゼロから)独立して事務所を軌道に乗せています。これまた積極性や熱意の重要性を端的に表しています。
未経験者の会計事務所での年収
気になる未経験者の年収についてここで触れておきます。
結論的には、未経験者の年収は(BIG4などの大手を除き)あまり高くはありません。
ザっと見積もって300~350万円あたりからスタートです。
できるだけ若いうちに転職した方がよい理由の一つでもあります。
ここではさらに転職エージェントの検索サイトを使って求人事務所が提示している年収を調べてみました(”未経験者可”で条件設定)。
提示された年収帯 | 年収帯の中央値 | サンプル件数 |
---|---|---|
319.6万円~497.0万円 | 408.3万円 | 28件 |
提示された年収帯は(相場も考慮すると)経験者も踏まえたものと言えるでしょう。
全くの未経験者の場合は(年収帯の中央値ではなく)提示された年収帯の最低値がスタートの金額に近いと推定されます。
上の場合では319.6万円です。
おそらく事務所側としては、これでもサービスの感覚でいると思います。
また、ワンツーマンで指導するとなると、その時間はそのまま指導する側のコストとなります。
早い話が、お金をもらって勉強させてもらっている、ということです。
昇給のカギは、(先ほど述べましたが)業務をいかに正確かつスピーディーに(効率的に)処理していくか。
顧客の(あまり高くない?)報酬でやりくりしますので、ここをクリアできないといつまで経っても年収は上がっていきません。
ちなみに殆どの事務所が、条件として学歴は不問である一方、上で紹介した通り、簿記2級を必須としていました。
また業務内容は会計入力、決算書・申告書作成(税理士補助業務全般)などが中心でした。
転職エージェントの活用がベスト
未経験者の方にとってはとにかく転職先に関する情報が決め手となります。
他方、求職者が単独で情報収集を試みても限界があるでしょう。
そこで大切なのが会計事務所に精通した転職エージェントの活用です。
イチオシはヒュープロ。
税理士業界に強いだけでなく、個々の求人事務所についての情報が豊富です。
しかも会計事務所の求人数が圧倒的に多く、税理士・税務スタッフ案件だけでも約6,000件を誇ります!
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またエージェントについては他社との併用もぜひ検討したいところ。
相互に比較することで選択肢が広がります。
ヒュープロの他、税理士事務所に強いのが(以下の)MS-Japanとマイナビ税理士です。
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ヒュープロ | MS-Japan | マイナビ税理士 | |
(公開)求人数 | 約10,000 | 約9,600 | 約1,300 |
得意分野 | 会計事務所 税理士法人 | 管理部門 士業 | 税理士 科目合格者 |
主な年齢層 | 25歳~50歳 | 20代~50代 | 20代・30代 |
設立(歴史) | 2015 | 1990年 | 1973年 |
年齢が高めの未経験者はどうする?(参考)
最後に未経験者の中でも特に年齢が高めの方(特に40代以降)向けにコメントしておきます。
最初の方でも触れましたが「未経験者が転職できるのは30代まで」などと言われています(エージェントによっては30代前半までとの声も少なくない)。
確かに年齢が高くなると、採用事務所の数が減少するほか、給与が低く条件面で折り合いがつかなくなってくるのです。
前職の内容にもよりますが、それでも税務や経理の実務が全くなければ年収は400万円いくかどうか。
仮に就職先があったとしても、特に40代以降では厳しい現実が待っています。
結論的には、100%絶対に無理というわけではない、といった感じでしょうか。