ご存じの方もいると思いますが、監査法人での非常勤は時給がとても高く、おそらくパート業務としては理想の範疇と言えるでしょう。
とにかくコスパ・タイパが最高なのです。
他方で、筆者もこの非常勤を長く経験してきましたが、魅力的な側面がある一方、マイナス面も少なくないと感じています。
そこでこの記事では、監査法人での非常勤について、その魅力や時給と共に、マイナス面についてもしっかりお伝えしていこうと思います。
監査の非常勤に関心のある方はぜひ参考にしてみてください。
・実務経験、通算20年以上
・独立までに大・中・小の3つの事務所に勤務(他に特許事務所経験あり)
・資格:公認会計士・税理士・弁理士
・独立後は会計・特許事務所を運営
・監査法人での非常勤は独立後も含めて通算10年以上
監査法人での非常勤の仕事
非常勤は基本的にスタッフ要員
基本的に仕事は現場レベルでの作業が中心です。
確かに事務所によっては主査(現場責任者)の仕事を任されることもありますが、本格的な管理者としての仕事は通常ありません。
言い換えれば、管理職としての経験やマネージメント能力は不問ということです。
これが常勤ですと、様々な間接作業や雑務がありますし、マネージャークラスになりますと実務以外に管理業務が加わります(特に大手)。
もちろん法人の面倒な行事などへも参加しなくてはなりません。
非常勤ではこうしたこととは基本的に無縁となるのです。
非常勤だからといって現場の仕事だけとは限らない
基本的に非常勤の仕事は(スタッフの行う)現場作業なのですが、中小監査法人を中心に事情はやや複雑になってきます。
特に事務所の構成員が非常勤だけで構成されている場合は注意が必要ですし、雇用契約となる時も同様です。
大手の非常勤では基本的にありませんが、中小では現場以外に様々な間接作業や主査、審査をやらされることがあります。
その際も、残業代の有無について事務所によっては曖昧だったりします(もともとの報酬単価が高いこともあり残業代は込々なんてことも)。
ちなみに筆者のケースでは(現場作業以外にサービスで)審査をやらされました。
ですので、残業の程度や現場以外の作業の有無も含め、必ず条件を事前に確認しておきましょう(後述する転職エージェントを活用するとスムーズにいくと思います)。
監査法人の非常勤の時給とは
これが監査の非常勤の給与明細!
筆者が監査法人で非常勤をしていた時の給与明細が一部残っていたので、ご覧ください。
今時、このような手書きの給与明細は殆ど見ないと思いますが、筆者がバイトしていた中小監査法人ではこれを渡していました。
少々わかりづらいので、明細の内容と勤務形態を整理しておきます。
- この事務所では日当ベースで支給・1日当たり60,000円
- 当月は6日勤務で、6日×@60,000=360,000円
- 就業時間帯は10時AM~5時PMで、実働6時間(残業は一切なし)
- 結果、時給ベースで10,000円!(ただし出張費を除き交通費込み)
時給だけ見ると、確かに監査の非常勤は大変魅力的であると言えます。
ただし、筆者の場合は上で述べた通り、サービスで審査を別個に担当させられました(他にも「○○委員会」などの研究会や調査会への参加を求められた人もいた)。
大手と中小とでは時給相場が違う
上では一つの実例を紹介しましたが、一般的な時給水準を示しておきます。
注意したいのは、大手と中小では時給単価に多少の差異があること。
結論的には、大手で時給5000円、中小で6000円以上が目安です(参考:会計求人プラス・会計業界topics)。
これ基に年収をシミュレーションしてみると
- 時給単価@5,000円
- 実働1日7時間として@5,000円×7H=35,000円(日給)
- 年間240日稼働するとして35,000円×240日=8,400,000円(年収)
- 仮にひと月10日稼働するとして35,000円×10日=350,000円(月収)
- 時給単価@6,000
- 実働1日7時間として@6,000円×7H=42,000円(日給)
- 年間240日稼働するとして42,000×240日=10,080,000円(年収)
- 仮にひと月10日稼働するとして42,000円×10日=420,000円(月収)
となります。
ご覧の通り、監査のパート時給については、一般的に大手よりも中小の方が高めです。
また(あくまで計算上の数字ですが)特に中小のパート時給で年収を稼ごうとすると、
大手のマネージャークラスに届いてしまいます。
中小については、とりあえず時給単価@6,000円としましたが、実際には時給単価は7,000円に近いというのが筆者の感触です(ただし事務所によってかなり幅がある)。
もし時給単価7,000円としますと、7時間勤務で1日当たり約5万円の日当です(仮に200日稼働すれば1,000万円近くになります)。
ちなにみこの5万円という数字。医師の非常勤とあまり変わらないそうです。
公認会計士が監査法人で非常勤をするメリット
- 効率的に稼げる
- 人間関係が希薄
効率的に稼げる
上で紹介したように非常に効率的に稼げるので、それこそ毎月1週間ほど勤務すれば、十分生活ができてしまいます。
しかもパートですので、日数や日程についても弾力的に調整してくれることが多いです。
悪い言い方をすれば、この世に存在する仕事の中で、最も楽して稼げるアルバイトと言えなくもありません。
人間関係が希薄
また、人間関係についても最小限の負担で済みそうです。
とかくこの点についてはストレスを抱え込みやすいもの。
ですが、非常勤では拘束される日数や時間が限られるため、特に他者とのかかわりは、適度に距離を置きつつ最小限にとどめることができます(向こうもこちら側に深入りしてきません)。
現場の作業をキチンとこなしていれば、基本的に誰も何も言ってこないはずです。
公認会計士が監査法人で非常勤をするデメリット
- 安定性に乏しい
- 中途半端な感じが残る
安定性に乏しい
今日では経済情勢は目まぐるしく変わります。
また(経済情勢とは別に)クライアントの異動は決してめずらしいことではありません。
その結果、収益事情によっては来年の非常勤の契約は見合わせたりしますし、特に中小ならクライアントの喪失は仕事の枠が無くなることを意味します。
要するに何かあったときに、真っ先に切られる可能性がある、ということです。
さらに付け加えるなら、
品質管理体制の観点から非常勤のポジション自体が縮小される傾向にあります。
中途半端な感じが残る
これは各人の自覚の問題ですが、非常勤の仕事ってやはり中途半端な感じがどこか残るのですね。
確かに実際に携わるのは一部でしかなく、しかも全体を見届けることもありません。
やることをやったらサッサとサヨナラ、ですので、「チーム一丸となって」とか「事務所が一体となって」何かに取り組む、という感覚はないでしょう。
(もちろん全員ではありませんが)人によっては主体性というか、やる気というか、そういったものが希薄になるものです。
こうしたこともあり、非常勤ポジションに関しては金融庁も注視しているようです。
監査法人での非常勤をおすすめしたい会計士とは
- とにかく大手監査法人をやめたい人
- 監査業務から離れていた人
- 新規に独立しようとする人
とにかく大手監査法人をやめたい人
なんらかの理由で、とにかく一旦大手監査法人から離れたい人は多いと思います。
「人間関係やしがらみに疲れ果てた」「仕事がハード過ぎて自分の時間が持てない」「先々のことのことを考える時間と余裕が欲しい」など、いろいろあるでしょう。
そんな中、最もスムーズに移れるのが中小法人をはじめとする監査の非常勤です。
今までのキャリアや実務経験もそのまま生かすことができます。
実際、特に積極的な転職理由がなくとも中小監査法人の非常勤を選ぶ人はいるものです。
時給単価が高いうえ、弾力的に働き方を選択できるのでオススメです。
監査業務から離れていた人
監査からしばらく遠ざかっていた人にもオススメしたいのが監査の非常勤です。
例えば、コンサルや事業会社等に携わっていた、子育て中だった、さらには独立が上手くいかなかった、など。
これまた人によって事情は様々です。
他方、激務になりがちな監査業務にフルタイムでいきなり復帰するのはちょっとコワい、と怯んでしまうかもしれません。
また、新しい会計基準や監査基準等に直ちにキャッチアップするのも大変だったりします。
こんな時こそ、まずは非常勤を通じて監査への復帰を目指してみてはいかがでしょうか。
新規に独立しようとする人
さて新規独立希望者についてです。
多くのサイトやブログで「オススメ候補者」に挙がってくるのがこの方々ですが、正直、筆者は迷いました。
むしろ、「オススメしない人」の中に入れようと思ったくらいです(後述の「独立志望の会計士にとって監査の非常勤はマイナス要因?」を参照されたし)。
経済的な観点からだけ見れば、オススメ候補ナンバーワンなのですが、状況によってはワーストワンになるかも。
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独立志望の会計士にとって監査の非常勤はマイナス要因?
これは、監査の非常勤(バイト)のデメリットというより、そこに従事する個々人の問題なのですが、
特に若手会計士が陥りがちなので触れておきます。
実は、筆者が監査業界に従事していた頃は、監査の非常勤のことを
業界の麻薬
などと、ネット上で呼ぶことがありました。
例えば、新規独立開業者を中心に(当面の生活のために)監査の非常勤を始める人が多いですが、
他方で、独立は営業活動等で色々と大変なもの。
ところが、楽して稼げる監査の非常勤にドップリつかっていると、どうしても「まあいいかぁ」となりがちです(しかも一度ハマると抜けられない⁉)。
言い換えれば、死に物狂いで、あるいは背水の陣で、仕事を取ってくる・歯を食いしばる、という覚悟が骨抜きにされやすいのです。
筆者の経験から見ても、名詞には「○○公認会計士事務所 所長○○」と書いてありながら、自分の事務所の仕事はほぼゼロで、実質は監査の非常勤だけ、なんて人が少なくありませんでした。
確かに同じ状況が今後もずっと続けばよいのですが、そうはいかないのがこの業界。
特に今日では、クライアントによる監査人変更の話をよく耳にします。
結果として、上で述べた通り、監査の非常勤はどうしても不安定になりがちです(特に中小監査法人)。
なので、新規開業者は、監査の非常勤に安住することなく、むしろ「もう後がない」くらいの覚悟で取り組むべきでしょう。
非常勤は実務が一通りできるようになってから
あまりいないと思いますが(いくら時給が良いからと言って)最初から非常勤で仕事をするのは絶対にオススメできません。
しっかりとした実務能力が身につかないうえ、品質管理上も、問題が生じてくるからです。
もちろん、自身のキャリアにとっても百害あって一利なしです。
そもそも監査法人が未経験者を非常勤で募集することは通常ありません。
最低でも3年から5年ほどの実務経験を求めてくるものです(しかも大手監査法人での経験を条件にするところが少なくないです)。
注意したいのは就職難の時など。
就職難では合格者を非常勤枠で採用しようとする事務所がでてきます(半ばボランティア?)。
とても有り難く、特に実務要件を満たす必要から「背に腹は代えられない」と感じる人もいるでしょう。
一見、全く何もないよりマシのように見えますが、実はトンデモナイ落とし穴が待ち構えています。
それは、(事務所によっては)カタチだけで十分な実務経験が積めないこと。
結局、中途半端な経験しかできず、後々、本当に惨めな思いをすることになります。
例えば、現預金などの実査項目や経費関係しかやらせてもらえない、などです(年間往査日数にして2~30日)。
もし「あくまで税務が中心で、監査は実務要件(プラスα)のため」と覚悟を決めればよいのですが、
そうでなければ、後々、次のような問題がでてきます。
- 実質放置されるため、まともな監査スキルが身につかない
- 金融庁等の検査やレビューに耐えられる業務を行えない
- 大手出身の会計士達から手厳しく言われたり、(陰で)馬鹿にされたりする(←コレ結構キツイよ!)
- 結局、中途半端なままキャリアが行き詰ってしまうことも
ですので、未経験者の監査の非常勤はできる限り避けた方がよい、というのが筆者の意見です。
筆者が監査の非常勤を経験した感想
筆者は10年以上にわたって監査の非常勤に携わってきましたが、ここではその非常勤について率直な感想を述べてみたいと思います。
やはり非常勤だけで構成されている監査法人や、クライアントが少ない監査法人は、比較的安定性に乏しいと感じたものです。
他方で(筆者の場合)監査に対するモチベーションや事務所へのロイヤルティも正直、あまり高くはありませんでした。
当初は結構、気合を入れていたつもりですが、時間が経つにつれ、どこか割り切っていくようになりました。
恥ずかしながら、それでも続けた理由は、チョットばかり高額な小遣い銭が欲しかったため。
ただそれだけです(もちろん表向きは別の顔をしていましたが)。
ですが、時代の流れもあって、やがて限界へ。
今から考えれば、独立が軌道に乗るまでの2~3年で区切るべきだったと深く反省しています(監査の非常勤で得られる程度の小遣い銭など自力で稼げるよう努力すべきだった)。
ただし、区切りをつける(メリハリをつける)とか、モチベーションをもって”それなりに”取り組むのであれば、
監査の非常勤は理想的な選択肢であることに変わりありません。
非常勤をやろうとしている方は、ご自身とよく相談してみてください。
監査法人の非常勤の探し方
知人のコネクションを通じて紹介を受ける
- 知人だからといって、監査法人とのコネクションがあるとは限らない
- 断りづらく、しかも仕事に就いてから気苦労があるかも
まず考えられるのが、勤務していた監査法人や補修所を通じての知人のつて。
ただし、彼らが必ずしも監査法人とのコネクションを有するとはいえないでしょう。
もしあったとしても、件数的に限られており、条件も含め折り合いがつくとは限りません。
しかも仮に話が進んだ場合は、断りづらいものです。
入所後も(知人が関わってきますので)なにかと気苦労が絶えなかったりして。
結果、人間関係を含め、かえってストレスが大きくなってしまった、なんてこともあり得ます。
特に中小監査法人のパートナーの中には、間違った指導を平気でクライアントにする人や、感情論に走る人がいたりします。
こうした人物に当たったとき、知人の紹介だと色々と面倒です(筆者も一度、酷い目にあった!)。
ですので個人的には極力、このルートは活用しない方がよいと思います。
公認会計士協会の求人情報サイトをチェック
- 件数が限られており少なめ
- 報酬単価について比較的低い案件が多い
日本公認会計士協会が運営するJICPA Career Naviは、会計士試験に合格すれば誰でも登録できます。
手ごろなうえ仲介者もおらず、スピーディーに決まるのがいいですが、上記の注意点もあります。
なので、転職エージェントのような第三者を介すのが面倒という人や、エージェントが合わないという人は活用すると良いでしょう。
時間があまりないという人も検討してみるとよいと思います。
とりあえずチェックしておいて損はないはずです。
転職エージェント・サイトの活用
結論的には転職エージェントの活用が最もオススメということになります。
件数も多く、条件をきめ細かく設定できます。
また、通常、アドバイザー(担当者)がつきますので、上で述べた注意点について確認してみることをオススメします。
ここでは特に会計士の転職に強いエージェントを紹介しておきます。
マイナビ会計士 | MS-Japan | レックスアドバイザーズ | ジャスネットキャリア | |
得意分野 | 公認会計士 | 管理部門 士業 | 公認会計士 税理士 | 公認会計士 税理士 |
主な年齢層 | 20代・30代 | 20代~50代 | 20代~40代 | 20代・30代 |
設立(歴史) | 1973年 | 1990年 | 2002年 | 1996年 |
迷ったらマイナビ会計士がオススメです。
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なお、他のエージェントも優良ですので、併せての活用も一考です。
担当者との相性の問題があるほか、エージェントどうしで比較検討することができるからです。
【Q&A】監査法人での非常勤に関してよくある質問
注:個々の事項については事務所の就労規則等によって変わってきますので、必ず事前に事務所(もしくは転職エージェント)に確認してみてください。
また、もしかしたら今日でも曖昧なところがあるかもしれませんが、そうした事務所は避けた方が無難でしょう。